第39話 幕間・甘えんぼ(クローナ)
――その、クローナ……お、俺、その……
――エルセ……もう一度言います。あなたは私の家族です……ジェニは私たちの妹で、そして私とエルセは……夫婦? で、い、いいですか?
――……お、俺は、クローナが嫌じゃなければ……その……
――で、では、そういうことで……ん――
すっごく胸がドキドキして、幸せで、たまらなく愛おしい。
エルセと気持ちを確かめ合ったことで、私は本当に満ちています。
これからもずっと、エルセとジェニ、そしてザンディレも一緒に平和に暮らしていきたい。
だからこそ、まだ終わっていない戦争や、帝国への憎しみが収まらないエルセのことを考え、私ももっと強くなってこの幸せを必ず守ることを誓います。
「ん~……あら?」
そこで目が覚めました。
何だかグッスリ寝ました。
そして起きたばかりなのに胸がポカポカ。
おとといの夜、エルセに「女」にしてもらったのを夢で思い出していたからですね。
早くエルセにおはようのキッスをしましょう。
でも、その前に……
「す~……ん~……す~」
「うふふふ、こっちもグッスリですね~」
かわいいです! 私の隣でまだ眠っているジェニ。
こんなに私に無防備な姿を見せて、心を開いてくれている私の妹。
なんて愛おしいのでしょう……ほっぺも柔らかそうで、思わずツンツンしちゃいます。
「むにゅぅ~……ん~」
「んむぅ~~~! かわいいですぅ~! この子、私の妹なのですぅ~!」
すべすべでぷにぷにの頬をツンツンして僅かに身を捩るジェニ。
その反応もまた可愛いです。
エルセがあんなに可愛がる理由がよく分かります。
八勇将のテラも、そして亡くなられたシス姫も、きっとこの子が可愛くて可愛くて仕方なかったのでしょうね。
その理由、私は良く分かります。
ジェニの可愛さの前には、種族の壁など些細なものです!
「ん~……ん……テラおにいちゃ……エルおにいちゃ……おねえちゃ……」
「ッ!?」
でも、浮かれてはダメなんだと突き付けられます。
ジェニもまた、この戦乱の世ゆえに愛する人を失った悲しみを……しかもそれは、戦争というよりも、味方のはずの同じ人類の策略によってなのですから。
だから、私は浮かれてないで、この子が少しでも笑顔になれるよう――――
「ん~…………クロおねえちゃ……」
「ッッッ!!??」
無理です! 浮かれるなという方が無理です!
ジェニが口にした、ジェニが愛する人たちの名前の中に、私の名前が!
もう、もう、もう!
「ん~~~ううううう! ジェニィ~、朝ですよ~~~! ぎゅーてして好き好き目覚まししちゃいますぅ~!」
「わ、んん、え? あうう、なーにい? クロおねえちゃ、ん~~、くるちい」
「苦しくないのです~! ほら~、起きないともっと好き好きハグしちゃうのです~! すりすりすりすり~」
「ん~~、いやぁ~、くすぐったい~」
「起きないとやめないのですぅ~、すりすりすりすり~♪」
私は自分を抑えきることができず、まだお眠なジェニをギューッとしてしまいました。
ビックリして目が覚めたジェニが、混乱しながら身を捩りますが、逃がしません!
「むぅ~……朝ぁ?」
「ええ、そうです。さ、顔を洗って、朝ご飯ですよぉ~」
「ん~、わかった」
「はい~♪」
この子はずーっと、ずーっと、私とエルセの妹なのです!
と、あら? ジェニがベッドから降りて立ち上がらず、コッチをジッと見て……
「?」
どうしたのでしょう? 私が思わず首を傾げると、ジェニはジッとコッチを見て……
「……だっこ」
「ッッ♥♥♥」
なんていけない甘えんぼさんで可愛いのでしょう!
「はい~! 抱っこですぅ~! お顔洗いにいきましょうね~」
「んー」
私はギュっとジェニを抱きしめて抱っこして、またスリスリしちゃいます。
ジェニもちょっとくすぐったそうにしながらもご機嫌のようです。
うふふふ~……私の妹です♪
「おお、二人とも。おは……よ……っておいおい」
「エルお兄ちゃん、おはよ」
「エルセ~、おはようございます~」
ジェニを抱っこしたまま洗面所へ向かうと、先に起きていたエルセが居ました。
そして、私たちを見て苦笑しています。
「おい、ジェニ。甘え過ぎだぞ。降りなさい」
「む~」
「ちょ、待ってください、エルセ! 私が好きでやっているのです!」
「ダメだ。こんなに世話になってんだから、いつまでも甘えんぼはな。な? ジェニ」
「ん~……わかった」
エルセに言われてジェニが魔法でプカプカ浮きながら私の手元から離れて飛んでいきました……う~、もう少し抱っこしていたかったのですが……
「もう、いくらでも甘やかしたいのですが……」
「ダメだ。少しずつしっかりしていかないとな」
教育上可愛がるだけでは駄目ということなのでしょう……そこらへん、やはりエルセは本当のお兄ちゃんなのですね。
「甘えんぼになるだけでは駄目ですか。そういうエルセは昨日は私ともジェニとも一緒じゃなかったですけど、寂しくなかったのですか~?」
「いやいや……」
「……むぅ? ひょっとして……ザンディレと二人で……おせっせ……しました?」
「してねーよ!(誘われたけど)」
ちょっと意地悪込めて聞いてみると、エルセは顔を真っ赤にして否定しました。どうやら本当にしてないようですね。
ふふふ、何となく二人だけでされてないと分かると私もちょっと嬉しくて、エルセに正面からハグしてました。
「ちょ、クローナ?!」
「ふふ~ん。私だって甘えんぼさんを少しぐらいしたいのです~ぎゅ~」
「っ、お、お、おぉ……」
朝までジェニを抱きしめて寝ていて、本当に可愛くて幸せでした。でも、エルセに抱き着くと、これはこれで違う幸せ。なんだかとってもドキドキして、女として悶々と……あ……
「そういえば、エルセ。大変です」
「え、な、なにが?」
「私、ジェニが可愛すぎて……それはもう可愛くて……甘やかしすぎるのは良くないと分かりつつも、毎晩一緒に寝たいです」
「そ、そうか……」
「でも、それだと……おせっせが……その……エルセと夜に、お、おせっせ……できません」
「ッ!?」
そう、エルセに女にしてもらったこと。アレをまた……と思っても、流石にジェニの寝ている横でするわけにもいきません。
でも、そうなると……
「だから……昨日はセーフでも、そのうちエルセがザンディレとばかりおせっせしてしまわないか……心配です。エルセはジェニ同様に私の家族で……そのぉ……うぅ……」
「あ、ああ、そ、そっか、いや、急に改まって言うから何かと思ったけど……いや、まあ、切実だけど……そ、そんな慌てなくても……」
「むぅ! エルセはしたくないのですか? そ、それとも、ザンディレのように、ぼ、ぼぼーんっとしているお身体の方が……」
「ち、ちが、いや、あんた自分の可愛さも少し自覚しろっての! もう、嫉妬顔もめちゃくちゃかわいいなあもう! 俺だって叶うならそりゃもうあんたと毎晩でも―――」
「ふぇ……?」
「あ、い、いや……今のは……」
あら? エルセ、今のは……「しまった」と慌てて口元を抑えてますが……むふふ♥
「むふ~、エルセ~、もう遅いです~、聞いちゃいました♥」
「あ、いや、その……」
「エルセも私としたいのですね♥」
とっても安心して、そして嬉しくなっちゃいました。
エルセは私をすごく抱きたいのだと、私はエルセにとって「可愛い」って思われているのだと、もう天にも昇りそうです。
「じゃあ、エルセ……」
「うっ」
「ん~」
私はエルセの前で、自分の唇を指をさして訴えます。
唇を突き出して「キスが欲しい」と。
おせっせの時間はなくても、キスぐらいなら……
「っ、じゃ、じゃあ……」
エルセが唾を飲みこむ音が聞こえました。そしてゆっくりと顔を近づけて―――
「親分~~~~~! 朝でござるぞ~~~! 朝の素振りや体操でもいかがでござるか~!」
と、屋敷の外から声が聞こえました。
「あ……」
「え?」
エルセがハッとした様子で、洗面所の窓から外を……私もそれにつられて一緒に顔を出すと、そこには……え?
庭にテント?
そして、昨日王都に居た虎人族の女の子が……あら?
箒を持ってエプロンをつけて……
「おはようございますでござる、殿! 今日も禍々しい魔界の朝でござる! 庭の掃除も終わりましたゆえ、どうでござる? 朝稽古でも」
一体どういうことでしょうか?
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