第41話 幕間・朝食団欒(クローナ)

「ささ、親分! 今朝は拙者が朝食をご用意しましたでござる! ささ、奥方様も妹殿も!」


 いつも朝はザンディレが朝食を用意してくださるのですが、どうやら今日はプシィが用意してくれたようですね。

 魔界魚を焼いたものと玉子料理に、ライスに、そして珍しいスープですね……



「姫様、私の方で毒味をしましたが、問題ありませぬ。魔東洋地域に伝わる伝統的な料理です。本来なら屋敷で姫様の口に入れられるものは全て私がご用意するところですが、中央では大変珍しいものだったものですので」


「なるほど。私も食べたことは無いので経験ですね……ふむふむ……では、ありがたく頂戴しましょう。ささ、ジェニ。お膝にどうぞ~♪」


「ん~……今日はエルお兄ちゃんと」


「こら、行儀わりーってば、ジェニ。今日はちゃんと座るんだ」


「はぅ~、ジェニ殿……かわいいにゃ~……あ、あの、ジェニ殿、よ、よろしければ、せ、拙者の膝もぉ……」


「むむ、駄目です! ジェニを抱っこできるのは、私とエルセだけなんです!」



 ダイニングに並べられたお料理。香りは申し分なし。お魚もとても綺麗に焼けております。

 なかなか丁寧な調理だと思います。それにしても、プシィは油断なりませんね……ジェニは私とエルセの妹なんですから……と、まずはお料理のお味の方は……


「まあ!」

「うま!?」

「おー」


 染み渡るスープ……これはお豆を使って……確かに私は飲んだことありませんが、とっても落ち着きます。

 エルセとジェニもお口に合ったようで顔がほころんでいます。


「とっても美味しいです~! 野菜もホクホクです~!」

「ん、お魚もおいし。たまご、あま~い……でも、おいし!」

「へ~、意外と器用なんだな、お前」


 ビックリしました……初めて会った時から結構雑な方だと思っていましたが、ものすごく繊細に……それに、味だけでなくそもそもお料理全てが美しいです。


「あ、ありがとうございます! 拙者、恐悦至極にござりまする!」


 お世辞抜きの本音での賞賛に、とっても屈託ない満面の笑みで嬉しそうにしながら、尻尾がパタパタ、お耳がピコピコ動いているプシィ……あ……とっても可愛いです……撫でてあげたくなりますね。


「普通に強いだけじゃないんだな、お前。初めて食ったけど、本当にうまいぜ」

「親分~~~♥ ありがとうございます! こういったことは淑女の嗜みであると、故郷の母上に叩き込まれましたでござる。いつかお仕えすべき親分に悦んでもらえるようにと」


 照れ笑いしながら嬉しそうに語られるプシィ。

 幼い頃から色々と努力をされたのだと分かる料理の腕前。

 それに素直に感服すると共に私はハッとしました。


 淑女の嗜み……


 私、自分でお料理したことありません……


 いえ、特に私には必要のないスキルなのかもしれません。


 でも、手料理を「美味しい」と笑顔で口にするエルセとジェニを見ていると、「好きな人には自分の手料理を食べて、美味しいと言ってもらいたい」という欲が出てきました。



「強くて器用で飯もうまくて……それなのにお前は俺の子分で良かったのか?」


「へ?」


「今の俺は何者でもない、ただクローナに保護されているだけの無職だぜ? まだ名を上げているわけでもない、そんな奴の子分になって、お前に何の得があるんだ? それに……お前は気にしないと言っていたけど、それでも俺とジェニは魔族じゃなくて…………いや、まあ、とにかく、いいのか? つか、何でだ?」



 と、そのとき、エルセが謙遜というよりは純粋な疑問としてプシィに問われました。

 確かに、虎人族とは誠実・清廉潔白・質実剛健、として轟く種族であり、魔界のあらゆる豪族や部族や軍の中枢でも引く手数多の方たちです。

 それが出会ったばかりのエルセ。そしてエルセは口にはしませんでしたが、その想いの中に「人間なのに」という想いが含まれていることを感じ取りました。

 

「ん~……そうは言われましても、親分……」


 一方で、問われたプシィは悩ましいお顔になられ、そして……


「昨日の親分の豪気に一発で……うむ、ひょっとしたら一目惚れという奴なのかもしれぬでござる」

「ふぁっ?!」


 照れくさそうに頭をかきながら、プシィはそう口にされてハニカミ、それがとても可愛らしい姿でした。

 エルセもまた、驚いたように口を開け、しかし照れ……むぅ……


「い、いや、お、おま、おま……」

「いやぁ~、昨日も拙者は言いましたように、拙者個人は戦争そのものに無頓着故、それにこれまでずっと里におりましたので異種族も人間もあまり意識したことが……それよりもむしろ、拙者の剣を前にしても堂々とされる親分の豪気に、こう胸がきゅ~~~っと、ドキドキっと、わくわく~っと、ん~、とにかく高鳴ったのでござる」


 プシィは本当に純粋にしか見えず、裏表も打算もなく、恐らく思ったことをそのまま口にされているのだと思います。

 だからこそ、プシィのエルセに対する言葉は全てが本心なのだろうと分かります。


「ですので、親分! どうか、末永くよろしくお願いしますでござる!」


 強くて、性格も良くて、かわいくて、お料理もできて、エルセのカッコよさが分かっていて、従順で……アレ? これ、まずいのではないですか!? ひょっとして、ライバルに……


「ふむ、婿殿の愛人が増えたわけか」

「あいじ、お、おま、ちげーって!」

「うにゃああ?! 愛人……愛……あ、あうう、せ、拙者、ぼ、ぼうちゅーじゅつはまだ……し、しかし、お、親分が求めるのであれば……」

「ほう、ならば私が指導してやろうか?」

「おおお、ザンディレ?!」

「うにゃ?!」


 そして、私は今までザンディレを家族として接していましたし、これまではあまり気にしていませんでしたけど……ザンディレも強くて美人で何でもできて……あと、お胸も大きくてとてもセクシーです……


 ザンディレとプシィの二人がエルセの側に……


 アレ? これ、まずいのでわ?


 エルセが私を女として求めてくれなくなるのではないのですか?


 由々しき事態なのです!

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