第21話 おせっせは……

「ふい~、さっぱりした」

「お風呂広くて泳げちゃった」


 風呂から上がった俺とジェニ。

 何十人も入れるようなデカく、室内と露天と二つに浴槽もあり、泳げるぐらいに広い風呂にジェニも大満足だった様子。

 

「うふふ、満足してもらえて嬉しいです。いつも私はあのお風呂でザンディレと二人だけでしたが、今後は賑やかになりそうですね。明日の会談でエルセとジェニを認めさせたら、明日以降は堂々と皆でお風呂に入りましょう!」

「いや……クローナ、そ、それは……」

「みんなで同じベッドに寝るのも楽しそうです。あ、でも……夫婦の営み的なものは……どうしましょう、エルセ! そのときはジェニがおねむになった後で……」

「すっ飛ばしすぎなんだよ、お前は! 段階的なのはないのかよ!」


 机やベッドや棚など既に最低限の家具一式が取り揃えられている部屋。

 窓を開ければ王都を一望できる。

 魔界は常に暗いから夜なのか朝なのかの感覚は分かりづらいが、街に明かりが灯っていない今は夜の時間帯ということのようだ。


「いずれにせよ、全ては明日以降。では、明日の朝一番で可能な限りの将が集い会議を行います。あなたたちのことをその場で紹介します。安心してください。私が何があってもお二人を守ります!」


 俺とジェニをハグしながらそう宣言するクローナ。

 どこにそんな自信があるのかとも思うが、確かな強さを秘めた目をしながらそう宣言した。


「うん」


 メシ時に泣きつくしたジェニも落ち着いてクローナに頷いた。

 ただ俺はそう簡単には考えていなかった。


 普通に考えて、八勇将テラの弟と妹なんだから。


 たとえクローナの弁護があったとしても、普通に考えれば俺たちの存在は危険視されるはず。

 てか、魔王城ってことは大魔王がいるんじゃないのか? むしろ、そんなのと会っちゃっていいのか?

 それって兄さんも人類の誰もが到達したことのない存在ってことで、その姿も強さも知られていなかったけど、流石にキハクよりは強いんだよな?


「なぁ、クローナ……そ、それって……大魔王もいるんだよな?」

「ええ。流石にお二人の前に姿は見せないでしょうけど、声は届く場所で参加しますよ」

「…………そう、か……」


 もし何かあった場合……たとえば、大魔王にいきなり問答無用で死刑宣告とかされたらどうなる? クローナ関係なく。

 そうなった場合、あのキハクよりも更に強い奴が居る場で、俺はジェニを守り切れるのか?

 なんだか、王国への復讐を終えて色々と投げやりになってしまったこともあってクローナに保護されたが、どうなんだ?

 このまま死刑宣告されて二人とも……なんてことになったら、本当にマヌケもいいところだ。

 正直、明日というのであれば、逃げるなら今しか……


「必ず私が何とかしてみせます!」

「うぇ!?」


 と、俺がゴチャゴチャ色々と考えているのを見透かしたのか、少しムッとした表情でクローナは俺に顔を寄せ、改めて宣言する。


「いや、でも……もし、何とかならなかったら―――――」

「何とかならなかったそのときは!」

「……?」

「三人で駆け落ちでもしましょうか?」

「……あ~?」


 と、やはり少し不安になりそうなことを言うクローナに呆れてしまうが……



「そのときは四人です。クローナ様」


「のわァ!?」


「あら、ザンディレいつの間に……」


「おぉ~」


 

 と、そこで天井の一部がパカっと開いてザンディレがニョキっと顔を出してきた。

 いかん、気配に気づかなかったぞ!?



「ふふふ、もし今宵クローナ様が……おせっせをされて大人の階段を上るようなことがあるのであれば、私としても是非この目で焼きつけねばと思い……」


「まぁ! ちょ、それは気が早すぎます! 私たちはまだ……チッスもしていませんのに……全ては明日の許可が下りて以降なのです!」


「なんと! ふむ、ところで婿殿は……童貞であろうか? もしそうであれば、クローナ様の初めての経験を下手くそな行いで台無しにさせるわけにもいかんし……どうだろうか? 私を使って練習してみないか? 私も毒味を兼ねられて一石二鳥だ。私も経験はないが女としての機能は問題ないはずなので、全ての穴を余すことなく使い、色々存分に試してくれて構わぬぞ?」


「ちょ、お、お前ら、ななな、何言ってんだ!?」


「ねえ、エルお兄ちゃん、おせっせってなーに?」

 

「ザンディレ、ジェニが居るのですよぉ! エルセとのおせっせや練習の相談や提案も改めて場を設けてしましょう!」


「むぅ、分かりました…………ふふふ……クローナ様とおせっせする婿殿と私がおせっせすれば、それは間接的に私がクローナ様とおせっせしたことになるわけだ……いかん、鼻血と涎が出そうに……」


「いや、改めても何も、え? あれ? どうなってんだ? あと、ジェニは何も知らずに健やかに育ちなさい!」



 とりあえず、もうゴチャゴチャ考えていたが、どうやら逃げるのは難しそうだし、怒られそうだし、ここはクローナを信じて何とかしてもらうしかないかもしれない。

 そう思うと、何だか気が抜けて、俺は品のない話が飛び交って怒鳴ったりするものの、何だか少しだけ楽しいと思った。

 ただ、その前に……


「なぁ、クローナ」

「はい?」

「お前は……なんでそこまでしてくれるんだ?」

「?」

「色々と同情もあっただろうけど……でも……俺たちは人間で、兄さんの弟と妹なわけだし……それに出会ったばかりでここまで……お姫様が……」


 どうしてクローナはこれほどまでしてくれるのか?

 今更だがそのことを問うと……


「ん~……私も良く分かりません」

「は?」


 クローナはハニカんで、自分でも良く分かっていないと答えた。


「ただ……お二人を守らなきゃって……離しちゃダメだと思ったのです。勘かもしれませんが……でも、ジェニが私をお姉ちゃんと呼んでくれた瞬間、もう種族は関係なく私はジェニを守らないとダメだと確信しました」

「そうか……」

「エルセに関しては……ん~……もっと分かりません。でも……あなたのことはもっともっと知りたいなって……そう思っています。それに……昔からピンチを素敵な男の子に助けてもらってお嫁さんになるのが夢だったりしましたし♪」

「ぶぼっ!」


 しんみりしたところで不意打ちに噴いた。



「でも、だからって私をお尻の軽い女の子と思わないでくださいね? こういうことをしたり、言ったり、男の子とあんなことこんなことをこれからもしたいなって思うのは生まれて初めてなんですから、私も色々と加減できずに舞い上がってしまうかもしれませんが、是非に不束者ですが――――」


「いや、わ、分かったから、ちょ、頼むから、うん、もう分かったから!」


「エルお兄ちゃん、お顔まっかっか」


「意外とウブなのだな、婿殿は。今のは私もそそられた」



 もうこれ以上は恥ずかしくて聞けなかった。

 ジェニにまでからかわれてしまったが、こんなの素面で聞けねえよ。


 ただ、俺もジェニもこの数日で多くのものを失い、そして自ら手放したが、新しく温かいものが与えられた感じだ。

 



 とりあえず、今日はジェニは一人で寝たくないということで俺と一緒に寝たので、本当に、クローナやザンディレと……その……おせっせはしなかった!



 今日は―――

 

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