第11話 復讐

「エルセが裏道を教えてくださったとはいえ、こうも簡単に魔族である私たちが人類の王都に入れるとは……」

「吾輩も少々驚いております……ある意味で、それだけ今のこの国は、なっとらん……ということでしょう」


 王都を一望できる外壁の頂上に、俺たち四人は潜入。

 人類連合軍への出兵や、俺とジェニへの追っ手で守りが少し手薄か?

 いずれにせよ、俺は戻ってきた。


「エルお兄ちゃん、私もやる!」


 向こうの追っ手を全滅させたので、こちらから戻ってきた故郷。

 とはいえ、兄さんも姉さんの人生を否定して、二人ももう居ない故郷。

 さらに俺のかつての幼馴染連中も俺を見限ったようだし、もはやこの地には憎しみしかねえ。

 滅んじまえばいいと思っている。


「クローナ……お姫様のあんたに頼むのも変だが、俺がやってる間……ジェニを見てやって欲しい……」

「エルセ……」

「何となくだけど……ジェニにはやんないで欲しいと思ってる……」


 俺はどうなってもいい。もう、皆殺しにしたっていいぐらいに思ってる。


「エルお兄ちゃん……私もやるよぉ……テラお兄ちゃんとお姉ちゃんの仇……」

「ああ……お前の分も全部俺がぶん殴ってきてやる。お前は手を出すな」

「ふみゅぅ……」


 でも、やっぱりジェニにはそこまでやって欲しくない。

 そんな感傷から、俺はジェニを遠ざけることにした。

 兄さんも姉さんも優しかったから、俺がこういうことをやろうとしていることも許さねぇだろうな。

 悲しむだろうな。

 でも、それでこのことを忘れてこれからの人生を生きるなんて俺には無理だから。

 せめて、ジェニだけは故郷への復讐には絡ませないことで勘弁して欲しい。



「……エルセよ。どうやら、逸れていたクローナ様の部隊と、吾輩の軍も分散しながらこちらに向かっている。私怨に軍は貸せないが……王都攻めということに部下たちはかなり乗り気だ。良かったな」


「そうか……」


「で、ターゲットは? 民か? 騎士団か? 王か? それとも……皆殺しか?」



 ……というか、兄さんを殺した張本人とこういうことしている時点で兄さんに怒られるだろうけどな。



「ターゲットは……俺があの国に降りて、向かってきた奴ら全員……その果てで……あの時の覚えている奴ら片っ端からぶちのめす。国王、王女、貴族のバカ、クソオッサン、姉さんを殺した奴ら、クソ女ども……」


「ほう……」


「それとキハク。あんたとあんたの軍は最初はまだ戦わなくていい。最初はただ……俺の魔力がカラになったら遠隔で魔力を送って回復して欲しい……できるか?」


「魔力の回復? それだけで良いのか?」


「ああ。まずは先に俺が暴れる。あんたたちが現れたら、みんなビビって逃げちまう……だが、先に俺だけ現れたら……皆、俺に集まる。そうやって大人数を王都の中心に集める」


「ふっ……まぁ、構わんがな、それで。まずは単騎で駆けるか……勇敢な」



 キハクからしてみれば、人類の国の王都を攻撃するという、魔王軍にとっても決して軽くない場面を、どうやら俺の意見を尊重してくれてるようだ。



「そして……もう、俺がいいやと思ったら……あとはもう魔王軍であの国を好きにすりゃいい……占領すんのも滅ぼすのも……弄ぶのも勝手にしろ」


「……承知した。では貴様が大暴れして混乱した王都の制圧は任せよ」



 複雑な気持ちだし、全面的に信じられるわけでもないが……ただ、クローナは信じていいかもしんないという気持ちもあるし、だからジェニを預けるわけだ。



「エルセ……あなたの望み通り、ジェニはお任せください。と言っても、ジェニは強いので何も問題ないとは思いますが……いずれにせよ……」


「クローナ?」


「ふふふ、人間にこんなことを言うのは生まれて初めてですが……どうか、御武運を!」



 そして、俺がこれまで悪だと思っていた魔族という種族でありながらも、真っすぐな強い目と言葉に背中を押され、俺は走る。



「うおらあああああああああああああああああ!!!! エボリューション風林火山! 侵掠すること火の如し! 大火拳銃連射!!」


 

 魔力の温存を考えずに初っ端からぶちかます。

 宮殿目がけて大火球をぶつける。

 屋根に穴をあけ、ガラスをぶち割り、宮殿を破壊してやる。


「敵襲!」

「ぐっ、一体……おい、あそこを見ろ! 誰かいるぞ!」

「あ、アレは……!」


 早速騒ぎを聞きつけて、衛兵や騎士団たちが至る所から集結してくる。

 ああ、来いよ、ドンドン来い。そして向かって来るなら容赦はしねえ。

 宮殿も、そして街の連中もな。


「疾きこと風の如し! 風速瞬動!」


 全員集めて全員ぶちのめす!


「おい、あの男は……間違いない、戦犯勇者の弟、エルセだ!」

「あの野郎、ノコノコと帰ってきやがって!」

「だが丁度いい! あのクソガキをすぐに葬ってやろうぜ!」

「おお!」

「待て、逃げんなッ!」


 逃げるわけじゃねえ。

 兵たちを引き付けて街へ……そして、街の連中にも俺の存在を気づかせる。

 それにより、俺を殺そうと向かってくる奴らを全員ブチ殺す。


「おい、なんか騒がしい、何が……! おい、あいつ……」

「アレは……エルセだ! あいつが……」

「おい、急いで騎士団に連絡しろ!」

「今度こそあの戦犯一族に裁きを!」


 そうだ、好きなだけほざけ。どんどん呼べばいい。



「よう、帰ってきてやったぜクソ野郎共! オラァ、俺にむかついてぶっ殺してえんだったら相手してやる! 全員かかってきやがれ!」



 そして開き直って向かってきやがれ。


「おい、あのクソガキを殺すぞ! 武器を持て!」

「おお! 戦犯勇者の一族に死を!」

「お前の兄がしっかりしていれば、私の弟は死なずに済んだんだ!」

「私たちの怒りを思い知れ!」


 そうすれば、僅かに芽生えるかと思っていた罪悪感も消える。



「疾きこと風の如しに加え、侵掠すること火の如し! 風火竜巻撃ッ!!!!」



 炎を纏った竜巻が、俺を襲い掛かろうとした数十人のクソ野郎どもをまとめて引き裂く。



「燃えろぉおお! お前ら全員燃えて吹き飛ばされちまえぇぇぇ!!!!」



 全ての魔力を解放し、天まで昇る俺の一撃に、民衆や騎士団たちが腰抜かしてやがる。

 本来ならこの一撃でかなり魔力を消費する。

 だが、俺はその瞬間に魔力が全身に供給されているのを感じた。

 膨大な、そして濃密で強靭な魔力だ。

 

「お……あいつ、どうやら本当に俺に魔力を……ま、今はありがたくもらっておくよ!」


 離れた位置から送られてくるキハクの魔力を受けて、再び俺は魔力を解放。


「あのガキ、なんてことを! 急いで消火に当たれ!」

「そんな、家が……俺の家が!」

「くそぉ、人の家を燃やすとは、何というクズ――――」


 途中耳に入る俺への恨み言も、もはやすべてが俺を猛らせる。



「先に人の家を燃やしたのはテメエらだろうがァ! 今度は俺の番だ! この国を、燃やし尽くしてやらァ!」



 もう俺は止まらねえ。

 滅ぼすまで!


「接近したらまた同じのをやられる! 手の空いている奴は、魔法で一斉に攻撃しろ!」

「くたばれ、クズ野郎!」

「魔法騎士団が、目に物を見せてくれる!」

「皆、あんなやつ、さっさとやっちゃって!」

「俺の弓で射抜いてやるッ!」


 そして、まだ戦意のある奴らが一斉に俺に向けて火や氷の魔法や、弓矢や投擲などで周囲から俺に一斉攻撃。

 その攻撃全てを俺は……



「動かざること山の如し! 大魔山障壁ッ!!」



 俺の周囲を鉄壁の魔法障壁で覆い、襲い掛かる全ての攻撃を弾いて無傷。



「「「「「ッッッ!!??」」」」」


「ったく……この間、俺とジェニにぶちのめされたのをもう忘れたか? まぁ、今日は魔力が尽きることは無いから……向かってくる奴全員一人残らず相手をしてやるからな! 遠慮すんなぁ!」



 今度はこっちの番。今攻撃してきた奴らは全員驚いて固まっている。

 その隙を逃さねえ。

 風の速度で、一瞬で間合いの内に入り込んで、顔面を殴る。腹を抉る。あばらを粉砕する、手足をへし折って叩きつける。


「な、こ、こいつ……強い!」

「ええい、怯むな! どうせまた魔力がすぐに尽きて、そうなればぶぼおほお!?」

「な、何をしている! 取り囲め! 人数で押しつぶせば……ひっ!? や、やめ、ぶぼっ!?」

「な、なんだこいつ……まだ魔力が尽きない……エボリューション状態であれだけ大魔法使ったらすぐに魔力空になるんじゃないのか!?」

「あ、ああ、この間だって最初だけで、後はジェニと一緒に逃走したぐらいだし……」

「ば、バケモノ?!」


 スッキリする……同時に不愉快に感じる……つまり両方だ。

 兄さんは、どうしてこんなカスどもにバカにされなきゃならなかったんだ?

 どうして姉さんはこんなカス共に殺されなければならなかったんだ?


「ぎゃあああ、き、斬られ、ひいい、血が、血がぁ!」

「悪魔だ……こいつは悪魔だぁ!」

「た、助けてくれぇ!」


 向かってきた奴は一人残らず叩きのめす。そして向かってきた以上は逃がすことはねえ。


「ええい、そんなガキに何をしている!」

「障壁がどうした! それ以上の力でぶち破ってくれる!」

「巨重騎士部隊、前へッ!」


 すると、騎士団の中でも選りすぐりの巨漢の男たちのみで構成されている、巨大な筋肉質の馬に跨った超重量の部隊が俺の正面に整列した。

 王都の通りを埋め尽くすように並んだ百人規模の武装した超重量騎士たちは、余計な小細工をせずに、まっすぐ俺に突撃粉砕しようとする意志しか見られない。


「小僧、もう許さんぞ!」

「踏みつぶす!」

「肉片すら残さんぞ!」


 だから……どうした!



「「「「「突撃だァあああああああああああ!!!!」」」」」



 そんなもんにビビる俺じゃ――――



――ふわふわ世界ヴェルト


「ッ!?」



 その瞬間、目の前の百人規模の大男たちが、跨っていた巨大馬から引き離されるように空に浮いた。


「わ、な、なんだァ!?」

「お、俺たちが、う、浮いて……これは、魔法か!?」

「な、こんなの、俺のパワーで、ぐぬ、ぬ、あ、抗えん!?」

「うわあああああ、や、やめ、どうなってんだあァ!?」


 もはや全員、武装した武具も含めればどれだけの重量かは分からない。

 それを――――



――エルお兄ちゃんは手を出すなって言った……だから、念力出した


「……おま……」


 

 ジェニの念話が頭の中に飛んできた。

 屁理屈言うとは生意気な。

 それにしても、さっきの場所からここまでだと、かなりの距離がある。

 この距離で、これだけの数と重量を浮かせちまうとは、我が妹ながら本当に恐ろしい魔法の才能だな。

 とりあえず……兄さん……姉さん……ごめん。ジェニも復讐に関わっちまったよ。


「ったく、だが、関わらせちまったんなら……同じ怒られるなら……なら、とことんやってやらァ!」


 だから、もうどうにでもなれ!

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