第12話 こんなもの
「ひィ、た、た、助けてくれぇええ!?」
「やめろおぉお、俺たちをどうするんだァ!」
「降ろせえええ!」
大の男たちが空中で何も出来ないでいる。
ジタバタ暴れ、パワーでも魔力でもジェニの拘束を解くことができないようだ。
「ジェニ、降ろせ……だってよ」
―――分かった。解除
もはや、屋根より高く上がってしまった超重量騎士たち。
その高さで降ろすというより……落下したらどうなることやら……
「「「「――――――――ッッ!!!???」」」」
そして、望み通り王都の中央通りに空中から受け身も取れずに全員が落下。
「いで、ぇ、ひ、いでぇよ……」
「おれ、たァ、ひぐ、し、しぬぅ」
「い、あ、が……」
激しい轟音と舗装された石造りの通りが至る所に亀裂が走ったり陥没したりし、両手足が変な方向に曲がって痙攣した男たちが虫の息で這いつくばっていた。
「本当に痛くなると悲鳴も上がらねえんだな……まさに虫の息ってのはこのことか」
鉄が割れ、肉が潰れ、骨が砕けて血が広がる。
「嗚呼……俺たちは今まさにこの国を……同じ人間である俺たちが……兄さんが守ろうとしたこの国を―――」
だからどうした!
「出て来い! クソ国王! クソトワレットブス女! クソビトレイ! そして……あの日あの場所に居た全員残らず俺の前に出て来いやァァァ!!!!」
消えてなくなればいい。
「いたぞぉ! あのガキ……なんてことを!」
「逆恨みでこの国を……ふざけんな、エルセ! お前は悪魔だ!」
兄さんと姉さんを否定したお前らなんて――――
「それで結構! 兄さんですら勇者であることを否定されている以上、正義だの何だのにこだわりはねぇ!」
まだ動く。
「くっ、こんな小僧に……なんという醜態!」
「おのれぇ……我が王国の平和を壊し悪漢め!」
「だが、もう好きにはさせん! 我ら精強を誇る王直属の―――」
体力が続く。怒りが続く。魔力はどんどん補給できる。
「火の海の荒波に飲み込まれろ……侵掠すること火の如く!
「「「「「―――――――ッッ!!??」」」」」
「これでもう陣形もクソもねえだろ?」
気づけば、そこには燃え盛る故郷と、味方が一人もいない王都の中心部に俺は立っていた。
「な、なんで、あいつが……これは……ま、まずい……わ、ワシは……」
「ッ!?」
そして、俺が逃さねえ特別な存在を見つけた。
ちょっと肥えたハゲのオッサン……ガキの頃から知っているが、商会長でアルナの親父。
「いよう、おっちゃん……どこ行くんだよ……あんだけ率先して俺とジェニをぶっ殺そうとしていたくせによ……」
「ひ、あ、ま、待て、あ……あ……」
俺は王都の中央広場にて周囲全てを民衆や兵たちに囲まれていた。
その場にいる連中はあの日と変わらない視線や、先に俺の暴れっぷりに顔を青ざめさせていたりと様々だ。
ただ、そんな中でオッサンはコッソリ逃げ出そうとしたようだが、そうはいかない。
「兄さんと姉さんの思い出眠る俺たちのあの家を燃やし……なぁ? 俺を殺してぇんだろ? なあ!」
「ま、待ってくれ、エルセ! わ、ワシも本当はあんなことは……そ、それに、アルナとヴァジナのことについては、も、もう―――ぶべっぼ!?」
「知るかよ、もうそんなこと」
顔面を殴って、鼻の骨や頬骨が砕ける感触が伝わった。
勿論そんなことで許さない。
「きゃーーー!」
「会長!」
「な、何てことを……お前、何てことを!」
「小さいころからお前たちは会長に世話になっていたはずだ! そ、それを!」
俺がオッサンを殴った瞬間、再び周囲の連中が非難の声を上げる。
勝手なもんだな。
そっちは俺を……ジェニを……そして姉さんを!
「がべ、ひ、ま、待ってくれ、許してくれい……エルセ……」
「あ゛?」
「な? わ、ワシはお前が小さい頃から面倒を、ぶぶぼっ!? っぎゃああ!?」
許してくれ? なに言ってんだよ今更。
気絶なんてさせない。アバラに拳を入れて砕く。
クソオヤジがのたうち回る悲鳴を上げ、既に半壊した騎士団と一緒に民衆共が顔を青ざめてやがる。
「どうしたぁ! 俺をぶっ殺してえんだろうが! 責任取らせてぇんだろうが! だったら来いよぉ! 俺を非難するならあの日みたいに力ずくでやったらどうだよ!」
だが、俺がこれだけ叫んでも、周囲は声を上げるだけでかかってこない。
「あ、あいつ何てことを……お、おい、他の騎士団連中は何やってんだよ! おい、そこのお前、さっさと行けよ!」
「ぐっ、う、え、援軍はまだか! 他の部隊は! は、早く援軍を!」
「ど、どうする……お、おれたちだけじゃ……」
やってきた兵たちも完全に腰が引けている。
「おいおい……こんなもんかよ……」
キハクの魔力を貸してもらってるとはいえ、あまりにも容易く蹴散らせるこの現実にどうしても憤ってしまう。
どうして俺はこんなカス共から姉さんを目の前で……
「ひ、い、ま、待ってくれぇ、エルセ! 仕方なかったんだぁ! ああでもしないと……ああでもせんと、商会が潰れて……わ、ワシは皆の生活を守ろうとしただけだ! ごほっ、し、仕方なかったんだぁ!」
「…………は?」
「「「「「…………………?」」」」」
そのとき、クソオヤジが意味不明なことを叫んだ。
「おい……何で兄さんを中傷して俺たちを殺そうとしたことと、商会が関係あるんだよ……」
「だ、だから……ワシだってしたくなかった……だ、だが、アルナとヴァジナを差し出し、そ、そして、テラを中傷してお前とジェニを……そ、そうすれば国から援助が出ると……ワシだって仕方なかったんだぁ!」
「……? え? は? ……え?」
「ああして、ああなるように皆を扇動すれば……援助してくれると……ビトレイ殿と、トワレット姫に言われて!」
「……………………え?」
どういうことだ? 俺は話が全く理解できなかった。どういう……
「ど……どういうこと、お父さんッ!!」
「父さん……」
「ッ!?」
その時、混乱するこの場に、珍しくドレスを纏ったアルナとヴァジナが血相を変えて飛び出してきた。
何だ? 俺とジェニを追放して自分たちはパーティーでもやってたか?
ただ、今はそんなクソどうでもいいことよりも、今のオッサンの言葉は本当にどういう意味だ?
「お父さん、今のはどういうこと? だ、だって、その条件は……私とヴァジナが嫁げばって……テラさんを中傷して……扇動ってどういうこと?」
その疑問に、どうやら周囲の民衆共も、腰が引けていた騎士団連中も目を丸くしてやがる。
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