第4話
カナンは、ぼろぼろの廃墟に様々な魔法を施していく。
ノームは元来小さな家具などは作製できる種族であるが、種類や細工などは質素なものが多い。だがカナンは土の徒以外の建築や家具にも造詣が深く、新たな風の徒のダンジョンとなる屋敷は人族らしい家具で埋められていく。
とはいえ、家具のこと以外を心配するバルアンが疑問を口にする。
「人族が住むには良い内装なのだろうが……先も言ったが我ら風の徒にはいささか広さが……」
またしてもカナンは指を振ってバルアンに応える。
「甘い。激甘だな」
そう言って、地下室への階段をカナンは指し示した。
地下室への階段を下りていくと、暗がりの向こうから青葉の香りを感じる風が吹き抜ける。風に導かれるように長い階段を下ると、黒塗りの扉に行き着く。その扉を開けると、強い風が吹き込み、陽光が扉の向こうから射しこんでくる。
扉の向こうは、見渡す限りの高原だった。遠くに山々の峰々が見て取れる。雲が視線の高さを流れていくことから、ここがとても標高の高い場所であることがバルアンにも想像できる。
カナンはどや顔で新築ダンジョンの説明をする。
「今回の
人里近くの廃墟の地下から、人里離れた山奥へ。カナンは空間を繋ぐという荒業をやってのけたらしい。
「風の徒がのびのびできる広くて風を感じられる空間。しかも巨体なら地上の屋敷を訪ねる必要がないように外部からアクセスできるように設計。巨大な連中も駐屯自由な月並み駐屯場として、ちょーっと伝手を通じてご用意させてもらった」
一通り高原を走り回ってきたティアが嬉しそうにカナンに抱き着いた。
「最高! 最高だよ、カナン! 広い! 空気が美味い! しかも地上はすごく便利! 要望を全部通しちゃうなんてすごい!!」
「ま、まあ、オーダーに極力叶えるのがノームのプライドってもんよ」
照れくさそうにしているカナンは、考え込む様子のバルアンにむっとした様子で問いただす。
「なんだよ、何か不満があるのか?」
「ええ、まあ……いえ、不満というより疑問があります」
「疑問?」
バルアンは促されて疑問を口にする。
「まず、この地下空間はどこなのでしょう? 体が大きくて地上から入れない者は直接ここを訪れれば良いのでしょうが……逆に誰でも入れるような立地では防犯能力もないでしょう?」
「ああ、ここは魔族の住む領地の奥深く、魔域にそびえる霊峰ドランを切り取った物を……」
「霊峰を切り取った!? ちょ、あの」
「魔域の空に浮かべた物だ」
「何ですかこのトンデモ物件!!」
霊峰ドランは、魔王の住む魔王城の背後にそびえる巨大な山である。山肌は鋭く登る者はまずおらず、しかし鉱山としては非常に優秀であり、火の四天王アーガットの種族アイロニクスなどにとっては重要な場所であるとされている。
それを切り取って挙句魔族を統べる王である魔王の頭上に浮かべるとは……
「す、すぐに領地のお返しをしなければ!」
焦るバルアンの肩を誰かが叩いた。見れば、黒く細い炭で出来た人型のような存在が居る。僅かに顔と思わしき場所には火花が散る眼窩と口がある。
その何かがバルアンに穏やかに語り掛ける。
「バルアンくん、大丈夫。火の徒と他ならぬ魔王様の協力の元このダンジョンは作られたから」
バルアンはそれが誰か解らなかったが、ティアはその燃えカスのような存在に抱き着いて歓迎の意を全身で表した。が、見かけ通り脆いらしく、燃えカスのような存在は今にも崩れそうになっている。
「アーガットおじさん! やっぱり? やっぱりおじさんも協力してくれてたんだ! ありがとう!」
「あ、あはは、ティアちゃん、相変わらず元気だね……おじさん折れちゃいそう」
「あれ? というか、おじさん細くない?」
「ここはちょっと、火の気がない方が良いかなって思って、いつもより九割九分ほど熱と火力を減らしたら……すごく体が脆く……」
「そんな! 折れたら嫌だよアーガットおじさぁん!!」
みるみるうちに折れそうになっていくアーガットをティアは力いっぱい抱きしめる。
バルアンはその光景にようやく頭が追いついた様子で口を開いた。
「ま、待って、待って! 整理させて! あとティアは放しなさい!」
ティアのハグから解放された使用済みマッチ棒のようなアーガットが説明する。ちなみに、本来のアーガットは見上げるほどの大男で全身から火炎とマグマを吹きださせる益荒男である。
カナンの支援を土の四天王ミヨグストから要請され乗り気ではなかったが、他ならぬティアの四天王就任祝いならということで、ご祝儀代わりに霊峰の一部を贈与したとのこと。しかもその話を聞いた魔王も乗り気で支援をすると言い始め、地上の廃墟と地下の霊峰を繋げたのは魔王だし、魔王の魔力でこの地下部分は魔域の上空に浮いているらしい。
アーガットはどこか申し訳なさそうにしながら説明した。
「だから、セキュリティで言うなら魔族で一番のセキュリティが効いているよ」
バルアンは申し訳なさと大人たちの行き過ぎた悪乗りに何とかツッコミを返した。
「そらそうでしょうよ、魔王様が防衛に当たってる四天王のダンジョンってどういうことなんですか!?」
「ティアちゃんの姪っ子属性には魔王様もメロメロだからね」
バルアンは、なんとなく解る気がしてそれ以上言えなかった。
ティアはそんなバルアンを他所に元気いっぱいに宣言する。
「よーし! ここを風の徒にとって住みよくするために、オレ、頑張るぞー!」
ちなみに、アーガットはそれとなく、バルアンが求める助けを無視して速攻で帰った。
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