第2話
ティアとバルアンは、土の四天王ミヨグストの元を訪ねていた。
既にダンジョン持ちであり、土を操りダンジョンをも建築できる、ミヨグストを訪ねれば、ダンジョン購入に役立つだろうと考えたからだ。
「それで、私の領地を訪ねたと」
ミヨグストは、地上より天高くそびえるアリ塚のような土のダンジョンの中腹にある、応接の間と名付けられた場所で、数人の部下と共に二人を出迎えた。
ミヨグストは陶器のような肌を持ち、髪の代わりに葡萄の葉を頭から生やしている、人型の魔族である。人型ではあるが血は通っておらず、その体は石と陶器と宝石、一部の植物で装飾される形で出来上がっている。
ミヨグストの種族であるピュグカリストは、鉱石の身体を持つ種族だが、自身の身体を自在に加工することができる。如何に美しくあるかは彼らの在り方において非常に重要だと、ミヨグストの息をのむ美しさから、他種族でも理解できる。
ミヨグストは穏やかな笑みと共に二人に応える。
「風の徒たちが住みよい物を作れるかは解らないが、ほかならぬ前風の四天王リシアンは私の友。彼の子供たちである君たちの願いなら進んで叶えようじゃないか」
その回答にバルアンは少し残念に思い、ティアは笑みをこぼした。
のだが……
「とはいえ、私が直接ダンジョンを作るわけにはかないだろう」
ティアは思わず口を挟んだ。
「え! な、なんで!?」
バルアンがティアを抑えようとするも、ミヨグストは笑いながら答える。
「考えてもみなさい。風の徒の住む場所を土の徒が造ったなど、風の徒に示しがつかないだろう?」
「んー、風のみんなはそんなの気にしなさそうだけど」
ティアのおてんば具合は風の徒の間では知れたことなので、確かにそこで揉めることはあまりないかもしれない。
と、バルアンが思っているのをミヨグストはその表情から読んだのか、続けて付け加える。
「いや、言い方が悪かったね。土の徒にも示しがつかないんだ」
そうして困ったようにミヨグストは微笑んだ。
「実は、土のダンジョンは未だに改築を続けていてね。土の徒の多くは職人気質だ。そこでカシラである私が他所の建築に出払った場合、私が止めても何人かは、土のダンジョンでの仕事を放り出して風の徒のダンジョン造りに参加してしまうだろうし、そうするとあらぬ噂なども出てくるだろう」
「あー、そっかぁ、ミヨさんも困るのかぁ」
「そう、困っちゃうなぁ」
一人冷や汗をかくバルアンを他所に、四天王二人は朗らかに笑い合う。ミヨグストの部下たちは自身の上司を舐めてかかる小娘にイラつきを込めた視線を送るが、ティアにはまったくどこ吹く風であった。
ミヨグストは「これは独り言なのだけど」と前置きをして、明後日の方向を見ながらつぶやいた。
「土のダンジョンの下層に居る
何を言ってるのか解らない様子のティアを他所に、言葉の真意を理解してどこか残念そうなバルアンは、ティアを連れて謁見の間を後にする。
その足でそのまま噂のノーム、カナンを探し出して早々に見つける。
ノームは小さく、ともすれば人族の子供にも見える姿だが、その等身は四頭身ぐらいの、頭の大きいずんぐりした種族である。ノームのこのデフォルメされたかのような様が可愛いとティアは日ごろ思っていた。
土のダンジョンの下層、アリの巣の個室の一つにそのノームは住んでいた。カナンと思われるノームは、他種族には少々小さな部屋いっぱいに、何かのスケッチや設計図を足の踏み場もないほど広げて、床の上で熱心に作業をしている。
ティアはカナンのいる部屋に体を折り曲げ押し込み、無茶な姿勢で話しかける。
「か、カナン! オレの、オレたち風の徒のためにダンジョン作ってくれ!」
直球な言葉を投げかけた結果、カナンの手が止まる。
そして、作業の手を止めて、苦しそうにしているティアの顔を見る。
「誰だお前は?」
「は、はじ、めまして、風の四天王に新しくなった、ティアだ! よろしく!」
何とか体をひねって握手を求めるティアに、カナンは怪訝そうな表情で応じる。
「風の四天王……代替わりしたのか。外のことにすっかり拙は疎くなったな。で、ダンジョンを作れって言った?」
体の大きさの問題で部屋に入れないバルアンが、外からカナンの言葉遣いに苦情を口にするが、部屋の中の二人には聞こえない。
ティアが床に落ちているスケッチを拾い上げ、感嘆の声をこぼした。
「わあ、すごいな! こんな感じのダンジョン、作れるのか? 外見のイメージだけなのか? 中身は? 機能は? 立地は?」
「おいおい、勝手に人のスケッチを見るんじゃない……それはまだ、ただの妄想だ。水の徒が地上にダンジョンを作るならどうかなぁ、とか、考えただけだ」
「おお! すごい! すごいすごい! 今ない物を想像する事って大変なことじゃないか!」
ティアは屈託なく思ったことを口にした。
彼女の知らないことだが、カナンは土の徒の中では変わり者である。ただ土のダンジョンの増改築を続けていればいい土の徒にあって、土の徒以外の魔族が住む住居はもちろん、人族の住居すら学びの対象としていた。しかし、昔気質の土の徒たちは彼女の勤勉さを理解できず、彼女は孤立していたのだが……
カナンは卑下を込めて頬を歪める。
「すごくなんかない。これぐらいは他の奴でも考えられる」
「そうなのか? オレからするとやっぱりすごいと思う。うん、オレにはできない」
「それはお前が……いや、何でもない」
ティアはカナンの手を取って改めて頼み込む。
「よし! カナン、オレたち風の徒のダンジョン、作ってくれ!」
カナンは少しためらった。
だが、ティアが直後に言った口説き文句によって重い腰が上がる。
「どんな作りでもオレは構わないからさ!」
ティアのその一言に、部屋の外で寒気を覚えたバルアンが居たのは言うまでもない。
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