第6話 豊岡で野宿〜比治麻奈為神社・有名なおかきや

 豊岡市街地北西にある簡易パーキングは物静かで寝心地最高でした。現地の物産展的な商売っ気に支配されている道の駅とは違って、ただ運転疲れをとるという目的に特化した簡易パーキングは自販機などなくトイレと駐車場のみ。若者がブレイクダンスしたりスケボーの練習したりといった音を立てる来客が無いため、駐車してる車は多いもののとても静か。

 車を枠に止めてライトを切りエンジンを止めると静寂に包まれる。静寂に包まれるにも関わらずとても明るく、この施設が管理され稼働しているということが実感として理解できる。さて、この施設が管理され運営されている目的は?ドライバーが寄って休むことで過労運転を防ぎ道路の安全を確保するという目的であり、そのターゲット層にビッタリと自分が当てはまる。つまりここで車を止めて休むということは施設の目的に沿った利用方法であり、なんら咎められるものではないということだ。

 てなわけで、明るく静かな簡易パーキングで車を止めて、助手席にタオルやら下着やら詰めてあるビニール袋で凸凹をならして、寝袋展開。気が付くと日が出ていた。道の駅とかだと、他の客の騒音で寝つきが悪くそれもまた旅情とばかりに楽しめるのだが、豊岡簡易パーキングでは寝袋入ると即意識飛んで眠る。旅情を感じるのは翌朝へ持ち越し。


――5月4日 朝――

 車内で目が醒める。極度の疲労があったり睡眠が深すぎたりすると、前日の記憶と繋がらず、あれ?ここはどこ?って困惑する。この、肉体が完全にリフレッシュされているのに記憶が飛んでる感覚がまた気持ち良い。これぞ旅情だ。

 ナビを起動して現在時刻と自分の場所を確認する。そしてこのパーキングには自販機も喫煙所もないことに気付き、出発する。これが簡易パーキングの寝心地の良さの秘訣でもあるのだろう。その時自分も周りのノイズになっているはずだが、それをやる動機が薄く、休んだらすぐ出発。


 進めど進めど街が全然見えてこないことで、 記憶が飛んで来た道を戻ってしまっていた事に気付く。あるある。


 コンビニ寄って水分補給したりタバコ吸って目指すは次の目的地、比治麻奈為神社へ。朝の6時30分頃到着。駐車枠には宮司さんと神官さんのクルマが止まっており、スタンバってるんだなとわかる。ここは観光地としての神社とは一線を画する。よく究極の聖地とか言われたりもしてるが宮司さんと神官さんが、欠かすことなく毎日儀式を行っている。

 朝のすがすがしい光を浴びて心地よい空気のなか、さすがに宮司さんと神官さんより先に境内に踏み入れるのははしたないと想い、周囲をカメラ片手に散策する。4x5の大型カメラじゃなくてお手軽なデジイチ。

 朝の儀式を脇で見る。わざわざ椅子まで出してもらったのに拝殿を直視する角度でなく、参道に向かって(90度ズレてる)座ろうとして正される。普段の何事に対してもONE OF モブキャラという立ち位置が身に染み付いてしまっていたようだ。もっと自信持っていこうよ……。


 農耕をこの地に広めた羽衣天女がこの祭神の原型なのだから、やはり「貴女が広めた技術はきちんと今も引き継がれて人々を養っているんですよ。」と報告するのがここへの参拝であって、何か願いを叶えてもらう参拝とか、ましてやパワースポットやなんだかんだというのは、少なくともここでは場違いな感じがする。そして、ここではやはりお供え物は食べ物でなくてはならない。ホックで購入した米をひとつ奉納。


 そんなこんなで今年の豊作を願う儀式への参列は個人的には完了。帰路につくが、現場へのお土産に、某有名なおかきやさんがこの辺り(といっても豊岡なので一旦戻る形になる)にあったことを思い出して、向かう。

 某有名なおかきやさんというのは、社長が東京で特殊な活動をしていてみんな知ってるアレです。多くの人にとって「アレ」なおかきやの製品は本当においしいというギャップ萌えも、その店を知る人にはそこそこ有名な事実で、製品そのものには何の瑕疵も無い。ただ、すごい地方の店なので製品を知る人もまたほとんどは通販で購入し、本店店舗で購入するという体験はしてない人も多いだろう。

 本店もまた、ほとんどテーマパークと言える実に凝った庭園に「売店」があるという構造。案内として製品お求めは売店でと書いてあるのに、ココは本店店舗じゃないんかい?とツッコまずにはいられない。

 「売店」での一定額以上の購入で、お善哉とお茶のおもてなしを受けられる。


 派遣先の現場に、しれっとなんの説明も無しでお土産として配って何人気付くか、というか気付いて話のタネにするか楽しみだ(1人気付いて話が盛り上がりました。作戦成功w)

 知らない人、知ってても触れてはならぬのかもしれんくらいの認識の人、知ってて笑う人くらいの三段階に分かれると思う。そういう「扱われ方を味わう」ことも含めた営業アイデアなのだろうなと思う。小分けで数が揃ってリーズナブルな価格設定であるのもまた職場へのお土産にお誂え向きの設定だ。



 

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