ヒロインを殺さないと世界が滅びる?そんなの関係ねぇ!
長多 良
ヒロインを殺さないと世界が滅びる?
「俺は、たとえ世界を敵に回しても、彼女を守る!」
少年はそう叫んだ。
その隣では少女が感極まって涙を流している。
彼女は少年の幼馴染だった。
どこにでもいる普通の女の子だ。
それが、ある日突然、モンスター達に狙われ襲われるようになった。
人々は彼女を「呪われた子」と忌み嫌い、迫害するようになった。
しかし少年は彼女を守るために立ち上がり、
長い冒険の旅を経て、
ついに黒幕にたどり着いたのだ。
だがそこで驚愕の真実を告げられる。
この世界は滅亡の危機に瀕している、と。
このままでは世界を滅ぼす魔獣がこの世界に降臨する。
それを防ぐためには、彼女を殺し、その命を生贄として捧げる必要があったのだ、と。
少女はその真実を知って、一度は自身の運命を受け入れた。
自分一人が犠牲になることで、世界が救われるなら・・・。
だが少年は、そんな事は許せなかった。
どこにでもいるただの普通の少女に、そのたった一人に世界の命運を背負わせ、
殺してしまうなんて。
世界中を敵に回してもいい。
自分が彼女を守るのだ。
彼女が死んでしまったら、世界が平和になっても少年にとっては意味がないのだ。
黒幕・・・神と呼ばれる存在は、そんな彼の気持ちが理解が出来なかった。
「こんなことをしている時間は無い。
もうあと数分で生贄を捧げないと、魔獣が現れる。
その少女の命が大切、と言っても、魔獣が現れ世界が滅びれば同じことだろう」
だが少年に迷いはない。
「彼女一人が犠牲になることは無い!
その魔獣とやらだって、この俺が倒してやる!」
真っ直ぐとした目だ。
本気でそう思っている事が伝わる。
神は感動した。
人の持つ愛の力に。
そして、これまで多大な苦労を乗り越えてきた少年と少女に敬意を払うことにした。
「分かった。彼女を生贄にすることはやめよう」
その言葉を聞き、少年と少女は驚き、そして喜びの表情を見せる。
「本当か!わかってくれたのか!!」
神は頷いて答えた。
「ああ、生贄には、どこか遠くにいる、お前たちと関係ない人間を使うことにする」
「・・・え?」
少年と少女の反応が止まる。
「ど・・・どういうことだ?」
「その少女が助かれば世界がどうなってもいい、と言っただろう。
その望みを叶えて、生贄には他の人間になってもらう」
「そんな!今すぐやめるんだ!」
「彼女が助かればいいんだろう?」
「そうだけど・・・いや、そういう事じゃなくて・・・!」
「あ、もう時間だ。
はい、儀式は終了した。
これで世界は救われたし、お前たちも救われたぞ」
「え・・・・」
あっさりとしたものだった。
もともと生贄が絶対に彼女でなければいけない、というわけではなかった。
公平を期すためにくじ引きで選んだだけだった。
失敗したらいけないので、念のため目の前に連れてきて儀式をしようと思っていたが、
これまた失敗したらいけないので、予備の生贄を選んでおいたのが功を奏した。
儀式自体は遠く離れていても出来るようにしていたので、実行は簡単だった。
遠く離れた場所でその生贄は突然息絶えた。
とにもかくにも世界の危機は去った。
神は胸を撫でおろした。
ついでに、少年と少女の熱い愛の冒険譚も見ることができて満足だった。
だが少年と少女は喜んでいない様子だった。
怒りでも悲しみでもない・・・困惑と言うか・・・気まずそうな表情をしている。
これもまた神には理解が難しかった。
◆
そして世界は平和になった。
少年と少女は、自分たちと全く関係ない人を身代わりにしたという、
その罪悪感に耐えられなかった。
正確に言えば、赤の他人を身代わりにした事実を誰にも知られたくなかった。
だから口封じのために神を殺した。
人々の元に帰って、黒幕を倒して世界は平和になったと伝えた。
そして少年と少女は結婚し生涯を共にした。
正直言うと、最後の身代わり事件が気まずすぎて、
恋愛的な気持ちはすっかり冷めてしまったのだが、
別れたら相手が真相をばらしてしまうのでは、と疑心暗鬼になり、
お互い監視するような気持で、ずっと一緒にいたのだった。
とにもかくにも、世界は平和になったのだ。
了
ヒロインを殺さないと世界が滅びる?そんなの関係ねぇ! 長多 良 @nishimiyano
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