#4 green
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お腹の子が助かる見込みはないと美空は気づいていた。人類はコールドスリープから目覚めると後遺症で記憶の大半を失っていたが、目覚めた美空はある程度の記憶を保持していた。
先に目を覚ました人類たちは地球がなにかも思い出せないまま、割り当てられた仕事をしていた。人間的な生活の基礎は覚えているようであいさつ含む簡単な日常会話で成り立たせているようだ。美空は目立たないように真似をすることにした。
目覚めて数日後に順番が回ってきた。検査を受けたが奇妙としか言えず、形としての触診や問診、形は正しいが液晶に何も表示されていないかノイズが走るだけの検査機器。だが医者と称する目の前の男は医者が使う言葉を並べてニコニコと説明してきた。医者なのにマニュキュアを塗っているのも妙だ。中指の爪だけべったりと塗られている。
何も指摘せず周りの人類のように薄いリアクションをする。医者のような人はくるりと振り返りながら看護師らしき人に私が住む部屋などの指示をいそいそと出していた。話が長い……後ろ姿を見ていたら昔の上司を思い出して美空は少しため息をついた。
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説明を受けた看護師とともに白いだけの長い廊下を歩く。ある地点でドアノブと鍵穴だけが現れた。看護師はポケットから鍵を取り出し鍵穴に差す。突然目の前に小さな町の一角が出現した。変わらず俯きがちのまま「ここは…」と他の人類と似たリアクションをする。看護師は淡々と街の中へ進んでいく。彼の大きな足を見ながら黙って静かに着いていく。
一つの家の前で看護師が立ち止まった。
俯きがちのままでもわかるほど外見はレトロかつオンボロな木造建築でがっかりしたけど鍵を回し引き戸を開けた看護師の後ろから静かに家に入りハッとした。勢いよく顔を上げて周りを見まわす。くっきーだ。クッキーが焼ける匂いがする!
やらかした。こんな大きなリアクションは絶対に異質で演技をしていたとバレる。お腹の子にも何をされるかわからない。どうしよう。
「えへへ、あはははっ」看護師はマスク越しでもわかるほど大口を開けて笑い出した。
「あっあなた!普通に笑える人なの!?」というより先に胸ぐらを掴んでしまった。低身長の私が長身の…あっ女性だ、の胸ぐらを掴んでしまった。後先考えてなかった。どうしよう。消されるかもしれない。
看護師は青ざめている私の長い髪をサラリと掬ってくちづけの仕草をしてきた。驚きと恥ずかしさから引っ叩こうとした時に耳元で「緑の爪の前では廊下を歩いた時のようにして、必ずだよ」とアドバイスと頬に口付けを残して部屋を出ていった。鍵がかかる音と共に引き戸は消えてなくなった。
あまりの展開の早さに着いていけずその場にへたりと座ってしまった。でも一番の迷いは
「クッキー…食べていいのかな」
空腹には勝てなかった。
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【こーど_しんこくなえらー】
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