第4話 君に奏でる別れの曲


「ねぇ蘭丸」

「どうしたのカタリナ?」

「どっか街に行きたいな」

「人間の街に?」

「うん。でも本当は蘭丸がいた国に行きたいな」

「行っても楽しくないよ」

「また蘭丸はそんなこと言って! そんな暗いことばっか言わないで」

「あはは、ごめん」

「そうやってすぐ謝るし。謝るの禁止!」

「じゃあ悪ことしたらどうすればいいの?」

「愛してるって言って?」

「わかった、愛してる」

「気持ちがこもってない!」

「本当に愛してるよ?」

「うん、知ってる。でも、蘭丸」

「なに?」

「私はもういないから」

「なに言ってるんだよ。ふざけないでよ」

「ごめんね」

「え? カタリナ」

 彼女の姿が煙のように消えた。


「カタリナ――!」

 叫んでいる自分の声で目を覚ました。



 僕は木造のベットの上に寝ていた。

 

「痛っ」

 全身を激痛が駆け抜ける。体を見ると包帯だらけで見覚えのないハーフパンツのようなものを履いている。


「まだ動いてはダメですよ。凄い火傷なんですから」

 声の方に目を向けると、銀色の髪に、美しい顔をしたシスターの姿があった。僕より少し背は低いくらいで、まるでモデルのようにすらっとしている。


 そうだ、確か彼女に助けてもらったんだ。


「助けてくれてありがとうございます」

「ここに来た方を癒すのが私の仕事ですから、気にしないでください。すぐに怪我を治す魔法は使えませんが、ちゃんと治しますので安心してくださいね」


 そう言うと彼女は僕の腕にそっと手をあて唱えた。

「光が生み出す、癒しの力」


 腕が光に包まれた。でも眩しくない凄く優しい光だ。すごく心地いい。


 それから反対の腕や足、全身に魔法をかけてくれた。

 

「今日はここまでです。続きはまた明日」

「あの、あなたは?」

「私はこの教会のシスター、名前はルシアと申します」

「僕は蘭丸と言います。何から何までありがとうございます、シスタールシア……様?」

「ルシアで構いませんよ」

「は、はい。ちなみに包帯もあなたが?」

「ええ、そうですよ」

「ということは……全部脱がせてもらったんですか?」

「そうですよ。でないと治療ができませんでしたから。お洋服はボロボロでしたので捨ててしまいましたよ。大切なものでしたか?」

「いやいや、そういうことじゃなくて……あの、下もですよね?」

「ええ、もちろん」

「あ、はぁ、なんかすみません」

「食事持ってきますからゆっくり寝ていてくださいね」

「ありがとうございます」

 普段なら恥ずかしくて慌てふためいていてるけど、今の僕にはそんな感情なんて湧いてこなかった。


 ルシアはすぐに食事を持ってきてくれた。上半身を起こし、僕に食べさせてくれた。そして食事が終わると彼女はベット横の椅子に腰をかけた。


「昨日あなたの姿を見たときは驚きました」

「そうですよね、こんな傷だらけで」

「それにも驚きましたが、何よりあなたのマナを見て驚いたのです」

「マナって見えるものなんですか?」

「見えますよ。大体は身体を纏う薄いオーラのように見えるのですが、魔力が強ければ強いほど、はっきり見えてくるものなんですよ。そして色や形も人によって違ってきます」

「そうなんですね、僕のオーラはどんな風に見えるんですか?」

「今は身体を纏うようにしか見えませんが、あの時は……」

 シスターは下を向いた。

「どうしたんですか?」

 

「黒と赤色の混ざったマナで、少女の形をしていたのです。あなたを守るかのように寄り添っていました」

 僕はその言葉を聞いて迷わず思った。


「カタリナだ」

「やはりそうでしたか……あなたはカタリナを知っているのですね。カタリナの髪が編み込まれている『最愛の輪』をつけてらっしゃいますし」

「前にカタリナから最愛の教会の話を聞いたことがありました。お世話になったって」

「そうでしたか。カタリナとカタリナの姉、マヤは私に出来た初めての友達なのです」

 シスターは顔をあげ、目には涙が浮かんでいた。

「友達……だったんですね」

「はい。この教会から出ることのできない私と友達になってくれました。もう亡くなりましたが、教会にいらっしゃった神父様からの命により、私はここの管理を任されているのです。もし私が教会を出てしまえばこの教会は消滅してしまいます。そうなれば助けを求めている方を救えません。そんな私と彼女たちは仲良くしてくれました」

「僕がこの教会に来ることができたのは助けを求めていたからなんですか?」

「あなたは『最愛の輪』に導かれてきたのです。一度この教会に来た人のマナを含んだ『最愛の輪』があればここに来ることができます。この教会の鍵はその『最愛の輪』なのです。それを持つものが助けを求めた時だけ、この教会は現れるのです」

「そうだったんですね」

「はい。カタリナはマヤと一緒にこの教会へ来ました。最愛の輪はカタリナの父親からマヤが授かったもので、マヤと共にカタリナはいたので、ここまで来られたのでしょう。私は物心ついた頃からこの教会で育ち、ここでのみ生きてきました。私に出来た初めての、そして唯一の友達なのです。だから……だから……あなたのことが知りたいのです。なぜあなたのマナがカタリナの姿をしていたのか、なぜカタリナと同じマナを持っているのか、なぜカタリナと同じ髪に眼をしているのか教えてもらいたいのです!」

「同じ髪? 眼? どういうことですか?」

「気づいてないのですか?」

 ルシアはベット横にある棚の引き出しを開け、中から手鏡を取り出して僕に渡した。


 嘘だ。


 僕の髪色はダークレッド色をしており、眼はカタリナと同じ赤い眼になっていた。


「気づかなかった……」

「それと……あなたが意識を失った時、大切そうにこれを持っていました」

 ルシアはカタリナの眼が包んである布を取り出した。

「カタリナの……」

「話してくれますか?」


 僕はルシアにカタリナと婚約していて一緒に住んでいたこと、サリスマレの兵士に連れて行かれ、囚われたこと。そして、そこで何があったかを全て話た。


 僕はもう悲しみを通り過ぎて、涙も枯れ果てていた。


 ただ、胸が張り裂けそうに痛くて苦しい。体の痛みとは違う我慢することのできない苦しみ。


 ルシアは何も言わず、溢れ出る涙を拭っているだけだった。


「それで……この教会に入ってきたんです」

「……」

「ルシアさん? 大丈夫ですか?」

「ごめんなさい、言葉が出なくて」

「辛いですよね。カタリナとルシアさんは友達だったんですから……」

「……どうして……どうしてでしょう。どうして、そんな残酷なことができるのでしょうか? 私はこの教会しか知りません。あとは書斎にある本の情報と、ここへ来た方から聞いたお話しか知りません。戦争があったことや魔族への迫害があることは知っています。でも……こんなにも酷い話、初めてです」

「そうですよね。本当の絶望というものを味わった気がします」

「ごめんなさい。蘭丸様の心中お察ししたいですが、辛すぎて察することなどできません」

「気にしないでください。僕は大丈夫ですから」

 ルシアは僕の手に優しく手を重ねた。

「あなたに神の祝福がありますように」

 ルシアは立ち上がり僕の額にキスをした。

 

「カタリナの眼には保護の魔法をかけておりますので、体が治ったら蘭丸様の手で埋葬してあげてください」

 そう言い残し、ルシアは部屋を出た。



 

 それから僕はルシアの介抱を受け、徐々に回復した。そんな生活の中で一番困ったのがトイレだった。トイレのことを聞くとルシアは桶を持ってきた。「私が手伝いますから」と。ルシアは服を脱がせようとしたが、なんとか静止した。そしたら、車椅子を持ってきてくれて、トイレまで連れて行ってくれた。それから三日後には杖をつきながら歩けるようになった。魔法の治療がなければ歩けるまで何日かかっていたものか。


「はい、今日の治療はここまでです」

「あのさ、今まで突っ込まなかったけどルシアは光の加護を受けているんだね」

「ええ、そうですよ」

「凄いね。光魔法も闇魔法と同じくらい珍しいんでしょ?」

「そのようですね。どの本にもそう書いてましたし、いらした方も皆さんおっしゃってましたから」

「じゃあ、今、光と闇で高属性が揃ってるんだね。あ、カタリナが来た時もそうだったか」

「あはは、同じことカタリナにも言われました。蘭丸とカタリナは似てますね」

「そうかな? でもカタリナとは凄く気が合ったし、一緒にいると本当に幸せで、心から通じ合っていたと思う。カタリナは僕の全てだったんだ」

「……そうだ! 後で一緒にお祈りしませんか?」

 ルシアは下を向いた僕を気遣うように言った。

「そうだね。まだ一度もお祈りしてないし。教会にいるんだから祈らないとね」

 僕はルシアと一緒に聖堂へと向かった。


「ルシア、祈りってどうやればいいの?」

「カタリナのことを想えばいいのですよ。そして彼女と過ごした時間や彼女と出会えたことに感謝するのです」

「あとさ、どの属性の神様に祈ればいいの?」

「蘭丸は闇を司る神、イライアス様に祈りを捧げればよろしいと思いますよ」

「わかった」

 僕は両手を合わせ、祈り始めた。カタリナと過ごした時間は毎日夢のようで輝いていた。確かにあんな時間をくれた神様に感謝をしないといけない。イライアス様ありがとうございます、カタリナという明るくて、優しい……あれ? イライアス様? カタリナの名前にも……あれ? めまいが。


 バタン。


「どうしたのですか!? 蘭丸!」


 ルシアの声が遠のいてく……倒れたのか僕……。

 




 ん!?



 目を開けると、会社の社長が座っているような長机に、髪を後ろで束ね、メガネをかけた整った顔の……。



「久しぶり、蘭丸くん」

 神は笑顔で言った。

 

「神……様?」

「色々大変だったね」

 神は席から立ち上がり机の前まで歩いてきた。

「大変だったねって……」

「君が過ごしてきた日々は見させてもらったよ」

「それなのに助けてくれなかったんですか」

「蘭丸くん、僕が力を貸せるのであれば貸したかった。でもね、神は直接世界に干渉することができないんだ。だから魔王に関することは君にお願いしたんだよね」

「そうなんだ……じゃあせめて、カタリナを生き返らせてよ!」

「それもできないんだ」

「どうして! 僕を生き返らせたでしょ!」

「本当は君、死んでいなかったんだよ。飛び降りた瞬間に連れてきただけなんだ」

「死んだって言ってたよね?」

「あれは異世界に行って自殺して欲しくなかったから言ったんだよ。死ねなかったから次こそはって考えないためにもね。だから君を傷つけるために嘘ついたわけではないんだよ、わかって欲しい」

「じゃあ、時間を戻すことは?」

「たとえ戻したとしても、運命は変えられない。神でもね」

「そんな……」

「すまない、私もできるならなんとかしたかった。あの子を死なせてしまったことは本当に悲しい」

「僕のことを見ていてカタリナのことも見ていたから感情移入したんですか?」

「それもゼロではないけど、彼女は僕の眷属だから」

「眷属? どういうこと?」

「少し長くなるけど聞いてくれるかい?」

「うん」

「まず、世界の始まりから。世界は原初の神がふたつ作り出した。そのふたつの世界に生命を宿らせたんだ。ひとつの世界は神の力が色濃く残った世界で、そこに誕生させたのが魔族。もうひとつは神の力が存在しない世界。そこに誕生させたのが人間。ただ、原初の神はあることで悩んだ。魔族の世界は平和だけど中々発展しないし、人間の世界は争いが絶えないけど発展を続けている。この相反する世界のバランスを取るためにはどうすべきかと。そしてある方法を取った。それは魔族の世界に人間を送ることだった。人間には平和を学ばせ、元の世界に戻らせる。魔族には発展について学ばせる、そんな考えから大人数の人間を魔族の世界に送ったんだよ。だから今君がいる世界には人間と魔族が存在するんだよ」

 神は話をしながら机の上のパイプをとり、たばこ葉のようなものを詰め始めた。

「そんな理由が……」

「そうだよ。そして眷属の話だが、私たちが魔族を誕生させた際、自分たちの力を授けた。それぞれの神が魔族を誕生させたから、持つ力に違いが生じた。その違いこそ、属性という訳だ。そして、その子孫達が今の魔族だよ」

「じゃあ……あなたは――」


「名乗るのが遅れてごめんね、私の名前はイライアス。闇を司る神だよ。だから彼女は僕の力を受け継ぎし眷属なんだよ」


 まさか……この人が闇を司る神だったなんて。


「てっきり、風とか水だと思ってました」

「えぇ!? どうして?」

「闇っぽくない。なんか闇って言ったらそれはもう、いかつくて、恐ろしくて……ってイメージ」

「それは人間の勝手なイメージでしょ? 勘弁してよ」

 イライアスは苦笑いした。

「でも神達は人間送ったことに失敗したんでしょ? 戦争があったんだもんね」

「そう、最初のうちは共存していた。だけど次第に人間は魔法を恐れ、魔族と争い始めた。だから元の世界に人間を戻すかって話になったけど、原初の神は平和を学んでいない人間を戻しても意味がないと判断し、戻すことはなかった」

「それだったら、僕と同じ世界の人がいるの?」

「それは何千年も昔の話。それに原初の神は人間から前の世界に関する記憶を一旦消し、戻る際には記憶を復活させようと考えた。ただ発展に必要な記憶は残して」

「どうして?」

「それは世界の秩序を守るため。魔法は神の力だから、それを利用して世界を行き来する者が現れるかも知れない。だから他に世界があることを魔族に隠したかったんだ。当然、神に匹敵するマナを持つものが誕生することはなかったし、これからもないとは思うんだけどね。きっと念の為でしょう」

「だったら人間はどうして魔法を使えるようになったの?」

「君のもといた世界で、人間がいくら魔法の訓練をしても使えないのは、マナが存在しない世界だからなんだ。だから魔族が君の世界に行ったら魔法が使えなくなる。でも、今いる世界には、少量だけど空気中、水や植物、魔物にもマナがある。生成するとは言っているけど、マナは外から体内に取り込まれ、それを体内で増強させているから魔法が使えるんだ。だからこの世界で訓練などにより、マナが生存に必要だと体が判断すれば、マナを体内に取り込み増強させる『生成』を行うわけだよ。そんなマナを生成できる体の人間が子供を作れば、生まれつきマナを生成する機能を持っている子供が生まれるわけだよ」

「なるほど」

「君の場合は魔族と一緒に過ごし、魔法をみじかに感じていた。だから魔法に馴染みのない他の人間達より、魔族との生活に臨場感を感じていたわけ。だから半年足らずで水のチョロチョロができるようになったんだよ。外国語を覚えるにはその国に行って生活するのが一番ってのと同じ理由だね」

「きっとこの世界に来る前だったら理解できなかった」

「だから話さなかったんだよ」

「あとひとつ聞きたいんだけど、どうしてこのタイミングでイライアス様……イライアスでいいよね、イライアスに会えたの?」

「君カタリナに似てきたよね。長く一緒にいたし、彼女のマナが流れてるから半分カタリナみたいなものか」

「いや、でもちゃんと男だから」

「流石に髪や眼の色は変わっても、性別までは変わらないよ」

「それで、どうして会えたの?」

「教会で祈りを捧げたからだよ」

「これからも祈りを捧げれば会えるってこと?」

「そう。でも教会の聖堂じゃないとダメだよ。あと暇だからとかで来ないでね」

「そんなことしないよ」

「蘭丸くんはこれからどうするの?」

「とりあえずククル村に戻ってカタリナのことを伝えないと」

「わかったよ。魔王のことも頼んだよ」

「思ったんだけど、魔王になる人を探す必要あるのかな? あの世界で悪いのは人間だよ」

「うん、それはわかっているよ。ただ、全ての人間が悪い訳じゃない。それは魔王のことを追っていればわかるさ。それに予言では魔王が復活したら多くの者が死ぬと言われてるんだよ。人間だけじゃなく、魔族もね。魔族達の平和のためにも復活させない方がいいんだよ」

「そうなのかな? でも、このまま魔族の迫害される世界が続いていいの?」

「よくないさ。だからそんな世界を変えるために動いてる人たちがいるんだろ」

「反乱軍のことか」

「反乱軍の指揮を取ってるリーダーのことを知っているかい?」

「知らないよ」

「村に戻ったら聞いてみるといいよ」

「わかった」

「戻るかい?」

「ルシアが心配するから」

「わかった。生きるんだよ蘭丸くん」

「わかってるよ。もう死なない」


 イライアスのおかげで少し元気が出た。


 そして、足元の魔法陣が光り、僕は目を閉じた。



「うわあ!」

 目を開けるとルシアの顔が目の前にあった。あらためて思ったけど凄い美人。


「大丈夫ですか? 目を覚ましてくれなかったらどうしようかと思いました」

「ちょっと疲れちゃったみたい、ごめんね」

 僕は体を起こそうとした。

「ダメですよ。もう少し休んでいてください」

 僕は起き上がらないよう頭を軽く抑えられた。というかこの状態って膝枕じゃないですか。

「あ、あのちょっと恥ずかしいんですけど」

 感情も少し戻ったみたいだ。

「何も恥ずかしくありませんよ」

 ルシアは僕の頭を撫でた。



 

 それから一週間の時が流れた。


 体の火傷は傷跡も残らないほどに回復した。もうほとんど全回復と言っていいほどに。


 歩けるようになってからは教会の掃除なんかを手伝うようにしている。とにかくこの教会は広い。どうしてこんな広さがあるのかルシアに聞いたら「それは分からないんです」と答えた。

 

 今日も初めて入る部屋の掃除をすることに。


 中に入ると、そこには大きなグランドピアノが置いてあった。


「凄いね、このピアノ」

「これは『ぴあの』というのですね。知りませんでした」

「少し弾いていい?」

 僕は幼い頃にピアノのレッスンに通っていた。だから少し弾ける。

「構いませんが、私は触ったことないので音が出るかどうか分かりませんよ」

 僕はピアノの前に座り、鍵盤蓋を持ち上げた。その瞬間、ピアノに風のようなものが走り、屋根が勝手に開いた。

「魔法がかけられてたのか」

「そうみたいですね。きっとこの魔力は神父様のものでしょう、彼は風の加護を受けていましたから」

 弾いてみると、まるで定期的に調律されてるような洗練された音色だ。

「凄い」

「どのような曲を弾くのですか」

「ショパンって人が書いた『別れの曲』だよ」


 僕はカタリナのことを想いながらピアノを弾いた。



 

 カタリナ・イライアス・コールフィールドに捧げる。

 

 君と出会った日から、ずっと僕たちは一緒だったね。

 共に過ごした日々はかけがえのない宝物だよ。

 一生忘れないし、一生君を想い続けるから。

 でも、過去に縛られて動けなくなっちゃいけないんだよね。

 そう君が教えてくれたんだ。

 だから、僕はもう前を向いて歩いていくよ。

 

 君が望んだ平和な世界を、みんなが笑って生きられる世の中を、僕が作ってみせる。

 そのためだったら、なんだってやってやる。


 それまで僕は死ねない。いや、死なないんだ。

 

 だから、それまではお別れだよ。


 再び会えた時、戦争や迫害のない世界の話をしてみせるさ。

 そしたら、僕を褒めてくれるかな?

 いや、褒めてくれなくたっていい。

 また君の笑顔さえ見ることができれば、それだけでいい。

 

 

 心から愛しているよ。


 そして、さよなら。

 

 

 

「とても美しい曲ですね」

「うん」



 

 カタリナ……。

 

 愛する気持ちをありがとう。



 

 第一章 愛する気持ちをありがとう

おわり






 



 



 

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