第7話 採取しているモノ

 最上はチョコボールを三人のネズミ獣人に分け与えた。そして自身も三粒ほど口に放り込む。


「美味しい」

「ありがとう」

「お姉さん大好き」


 三人のネズミ獣人はそれぞれ最上に謝意を述べ、最上から貰ったチョコボールを貪った。その様子から彼らが甘味をほとんど与えられていない事が伺えた。


「じゃあ話してくれるかな?」


 三人のネズミ獣人はお互い見つめ合ってから頷いた。


「私はアンジェリカ」

「僕はシャルル」

「僕はエドワード」

「みんな立派な名前ね。姉弟なの?」

「はい」

「じゃあ、ここは何なの?」

「ここは時間をほぼ凍結している特殊空間です」


 ネズミ獣人の話が始まった。

 この特殊空間は時間を凍結しているが、完全ではない。時間の流れは通常の約100倍遅い。この空間で一日経過した場合、外の世界では100日経過している事になる。


「この施設に収容した人は、ここで三週間眠っていただきます。外では5年ちょっと経過します。この三週間で5年分の生命エネルギーを採取します。これは寿命とも言わるものです。採取した後、外の世界に帰っていただきます。多くは特定期間の記憶喪失として処理されます。5年分ほど老化しただけなので健康上の問題はありません」

「採取した生命エネルギーはどうするの?」

「有効に活用するとしか聞いていません」

「有効ね。例えば、若返りの秘薬を製造しているとか?」

「どういう使い方をしているのかはわかりませんが……多分そういう事だと思っています。他には、例えば、私たちの国では、その、人の寿命5年分は、私たちにとって100年に相当するとも言われています」

「100年も」

「はい。しかし、私たちは下級種族なのでその恩恵に預かることはありません」

「貴方たちは下級種族なのね」

「そうです。管理者はレーザ星系のアレです。逆らうと食べられてしまうんです」

「なるほど……」

「ところでそこのおじさんなんですけど」

「僕の事かな?」


 三人のネズミ獣人が黒田先生を指さしている。


「えーっと、幽体離脱しちゃってます」

「このおじさんはよく魂が抜けちゃうんです」

「早く戻さないと死んじゃいますよ」

「そうなの? 僕は今、霊なの」

「死にたくなければグダグダ言わない」

「さっさと戻って」


 ネズミ獣人の長女であるアンジェリカがとあるベッドに備え付けられていたホースを掴んでいた。その先端はラッパのように広がっていた。


 キュイーンと空気を吸い込む音が響き、黒田先生はあっさりとそのホースに吸い込まれてしまった。


「大丈夫……なの」

「はい。これでおじさんの霊体は肉体に戻りました。もう安心です」

「良かった。申し遅れましたが、私は萩市立地球防衛軍の最上と申します」

「地球防衛軍?」

「私たちをやっつけるの?」

「何も悪い事はしてないのに?」

「貴方たちに罪はないと思いますが、この施設は星間連合法違反ですね。防衛軍として、この施設の運用停止と閉鎖を求めます」


 最上の言葉に三人のネズミ獣人は狼狽し始めた。


「私たちにはその権限はありません。単なる労働者なので」

「労働者です」

「わかってるわ。管理者をとっちめてやらないとね。貴方たちは自分の国へ帰れるように手配します」

「ありがとうございます」


 三人は手を取り合って喜んでいた。しかし、地震のように部屋が揺れ始めた。


「何なの?」

「管理者が、レプタリアンが来ました」


 ゴオオオンと鐘が鳴るような音が響く。大きな金属がぶつかったような音だ。先ほどは開かなかった玄関が開き、中へ入って来たのはレプタリアンだった。


「おい。チビ共、飯の用意だ。ああん? お前は誰だ? ここで何をしている」

「私は防衛軍の最上。重巡洋艦のインターフェースです」

「インターフェースだと? 食えるのか?」

「私を食べても美味しくないと思いますよ」

「旨いかどうか、食ってみなくちゃわからねえよなあ」


 レプタリアン……肉食の爬虫類型人間……銀色の衣類を付けているが、頭部はトカゲそのままだ。そのレプタリアンがのっしのっしと歩き、最上との距離を縮めた。

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