第6話 金のエンゼルと施設管理者
「これは何なんだ。何がどうなっているんだ」
「落ち着いて。何かのトラブルに巻き込まれているみたい。あの中に黒田先生はいませんか?」
「わからないよ。顔がマスクで覆われている」
「そうだね」
何故このような場所……閉じた異空間に人が囚われているのか。
ベッドは五つ。そこに寝かされているのは五人。
黒田先生とその後の住人だと思われる。
人間を閉じ込めて行方不明とする。その後、格安の賃料で入居者を募集する。そんな流れだろうと最上は考えた。
人が死んだり家出して行方不明になったり。そんな事故物件でも破格の家賃であれば入居者は後を絶たない。
本来、この物件であれば5倍以上の家賃が必要だろう。そうでなければ割に合わない。赤字続きでは物件の維持もできないしリフォーム工事など以ての外であろう。つまり、人を閉じ込めて人体実験のような事をする事で利益を得る。そんな仕組みを作っている。そう最上は考えた。
人間を使って何か新薬を製造するのか。それともエネルギーとして消費するのか。例えば〝不老不死〟など。
人ひとりの寿命を他人に移植する事は可能かもしれない。それで若返るならどうだろうか。この程度の家一軒ならどうでもいい位の大金を積む金持ちはいるに違いない。
何の目的でこんな事が行われているのか。最上には確実な回答を導き出せなかった。しかし彼女は人間の生命を私欲のために使うこのような行為に怒りと嫌悪を覚えた。あってはならない事だと。
その時、カサカサと衣擦れの音がした。
最上はカーテンの後ろに小さな人影を発見した。
「そこにいるのは誰? 出てきてちょうだい」
カーテンの陰から顔を覗かせたのは小さな子供……ではなく、ネズミのような顔をした小人だった。
「助けて。酷い事はしないで」
「私たちは施設の管理をしているだけ」
「何も悪いことはしてない」
三人の小人がいた。彼らは三歳児くらいの体躯にハムスターのような、いや、ハムスターそのままの顔をしていた。
「貴方たちはねずみの獣人なのですね。ここで何をしているのですか」
「施設の管理です」
「具体的な事を教えてください。この施設で何をしているのですか?」
「それは……」
「守秘義務があって……」
「言えません。言うと罰せられます」
三人で寄り添っているネズミ獣人たちの小さな体躯は細かく震えている。彼らが彼等の上司を酷く恐れているのが伺えた。
「そう。言えないのね。じゃあどうしようかな」
最上は三人のネズミ獣人に向かって優しく微笑んだ。そして、ポケットの中から小さな箱を取り出した。それはチョコレート菓子だった。
「はい。ここにあるのはみんなが大好きなチョコボール。ピーナッツをチョコで包んだ大人気のお菓子ですよ」
最上は三人の前でチョコの箱を振った。コロコロと小気味よいチョコが転がる音が響き、三人のネズミ獣人はチョコボールを凝視していた。
「開け口がキョロちゃんのくちばしになってるの。ここに、金のエンゼルが出ればおもちゃの缶詰がもらえるんだよ。知ってた?」
三人のネズミ獣人はそろって頷いている。
「さあ、開けてみましょうか……残念。今回は外れでした」
ちなみに、このおもちゃの缶詰は作者が子供の頃から存在していたのだが、作者とその周辺の人物が当選した事は無い。尚、当選確率は銀のエンゼルが4%、金のエンゼルは0.2%程度である。
「さあ、このチョコボール。食べたい子は手を上げて」
三人のネズミ獣人は迷うことなく挙手していた。
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