第8話


「終わったーー!!!」


 とある女子生徒の声を引き金として教室に喧騒が鳴り響く。

 一学期中間試験の全科目が終了したことをみんな喜んでいる。


「おっすー! 宮内お疲れえ!」

「……山内か」

「何でそんな残念そうな顔!? 価値にも友達だろ?!」


 後ろから俺の肩を叩いた不届者、山内……何だっけ?


「……お前って下の名前何だっけ」

「晃樹! 山内晃樹! 泣くぞ俺!?」

「ウエーい! ミヤッチお疲れー!」


 さらに俺の背中を叩いてきた女の子、新田美咲。一言で言うならオタクに優しそうなギャル。因みにこの前ひなちゃんと俺を睨みつけたあの金髪女ではない。


「おつかれー。美咲はテストどうだったの?」

「え、俺は……?」

「んー。全部百点!!」

「お、俺は……」

「奇遇だねー。俺もそんな感じー」


「「ウエーい」」と言ってハイタッチする俺と美咲。彼女はこの頃一ヶ月間で仲良くなってそれから一緒に話したりしている。


「ひなっちー! テストどうだったのー?」

「ひゃ! み、美咲ちゃん……。いきなり抱き付かないでよ……」


 ひなちゃんに抱きつく美咲に続いて俺も彼女に声をかけた。


「ひなちゃんお疲れ。ひなちゃんが勉強教えてくれたおかげでめっちゃ手応えいい感じ」

「私も私も! 神様仏様ひなっち様って感じ!」

「俺のキャラが、足りない……!!!」

「あ、あはは……。お役に立てたなら良かったです……」


 膝をついて何かを嘆いてる奴が約一名いるが無視するとする。


「ひなっちとミヤッチはこのあと用事あるー? 後ついでにやまちーも」

「俺ついで!? 俺、ついでっ!?」

「俺は無いけど……ひなちゃんはどう?」

「私は……はい。私も大丈夫です」

「やったー! じゃあこの後カラオケに行って打ち上げしよー?」

「いや俺の返事は!?」


 ここまで来ると山内のことが少し可哀想になる。だからと言ってどうこうするわけじゃ無いんだが。


「いいよ。この近くのカラオケって何処だった?」

「駅の近く! 歩いて十分くらいだよ!」

「高校生割ってあったっけ!? 俺、金、無いん、だけど!?」

「やまちーうるさーい」

「ああ、良かった。俺の声が届いていないのかと……」


 そんなこんなで学校を出た俺たちはカラオケへ向かって歩き出す。


「みんなはどんな曲歌うのー?」

「俺はモテる曲は練習してる! あとはKPOPとか!」

「へー。ミヤッチとヒナッチはー?」

「俺? 俺は演歌とか好きだよ」

「わ、私はらっどうぃ◯ぷすとか、です……かね?」

「へー。ミヤッチ渋いネー」

「らっどうぃん◯す。俺も聞いてる!」


 演歌良いだろ。前の時は上手いって言われてたしいけると思うんだが。


「てゆーか演歌ってどゆーのがあるの?」

「えー? 津軽◯峡とかが有名?」

「あ、それ私知っていますよ? お父さんがよく聞いているので」

「ほえー」


 自分から聞いたのにこの気の抜けた返事。


「あっ」

「んー? どったのひなっち」

「あ、ごめんね。大丈夫だよ美咲ちゃん」

「そーお?」



──カラオケ店舗内。


 カラオケ内に入ると美咲は迷いなくカウンターへと歩みを進めた。


「はい、四人でーす。あ、みんな生徒手帳あるー?」

「あるぞー」

「あ、はい。私もあります」

「はいどーぞ」


 俺たちは店員に生徒手帳を確認してもらう。前の高校生時代ではカラオケ自体はしたことがなかったので、制服で今ここにいるということが少し違和感がある。


「番号二四だってー」


 いつの間にか受付を終えた美咲が入退室時間を書いた紙と、全員分のコップを持って部屋へと向かおうとしていた。


「美咲ー。飲み物もう入れていくからコップ貸してー」

「あ、じゃあ私のも入れといて〜。オレンジジュースで!」

「じゃあ俺はメロンソーダー」

「あ、わ、私はお手伝いをします」


 美咲はコップを全て俺に預けて部屋へと向かう。山内もそれについて行った。

 

「ひなちゃん……別に手伝わなくても良かったのに」

「いえ……拓巳くんだけに任せるのは気が引けましたから……」

「そっか」

「はい」


 ひなちゃんに告白してから約一ヶ月。未だ敬語。美咲には敬語じゃ無いのに……やはり同性だからだろうか?


「俺はオレンジにするけど、ひなちゃんは?」

「あ、それじゃあ私もオレンジジュースをお願いします」

「わかった」


 俺は全員分の飲み物を入れ終える。


「はいどうぞ。コップの入れ物があったのでこれを使ってください」

「ありがとうひなちゃん」


 ひなちゃんは四つの窪みが空いたトレイを渡してくれたので、俺はそれにコップを入れて持ち直す。


「ひなちゃんカラオケは初めて?」

「え!? あ……う……じ、実は、そうなんです……」


 ひなちゃんは何処か言いにくそうに俺にそう告げた。未だ敬語が取れない仲ではあるが、この一ヶ月俺が何もしていなかったわけでは無い。彼氏くんの目を掻い潜りつつ、ひなちゃんとの距離を詰めている。今では困ったことなどがあったら話してくれたりする。


「やっぱり?」

「……あの、何でわかったんですか?」

「ん? 俺はひなちゃんのことなら何でもわかるよ」

「ま、またそういうこと……。そんなにわかりやすいですか? 私……」


 自身の頬をムニムニと触るひなちゃん。女の子が自分のことをどう見られているか気にする姿って可愛いよね。あと可愛い。


「んー。まあ、可愛いから良いんじゃない?」

「それ、答えになってます……?」

「ひなちゃんのことがわからなくなるの、俺は嫌なんだよねー。だから、答えたくない」

「……!」


 ひなちゃんの言葉の裏に隠された真意。今の自分を変えた方が良いのか、否か。

 女の子はいつだって発言の裏に真意を隠す。恥ずかしがってるのか、それとも他の理由があるのかは男の俺には分からない。

 ただ、俺は今の彼女が好き。ただそれだけは伝えたい。


「〜〜っ!」

「ひなちゃん顔、赤いよ? もしかして、俺のこと好きになっちゃった?」

「っ! もう! 拓巳くん!」

「あははー」


 揶揄われたと思ったのか、声を上げるひなちゃん。俺はそれを笑ってかわしながら、二四と書かれたカラオケ部屋の扉を開ける。


「お先にどーぞ」

「……ありがとうございます」


 俺たちがそこに入ると、山内がもう既に歌い始めていた。美咲は備え付けていたであろうタブレットを操作していた。


「あ、ひなっち、みやっちジュースありがとー!」

「いえ……私は何もしてないので……」

「ふむ……図が高い! 控えおろう〜」

「ははーっ!」


 俺はオレンジジュースが入ったコップを、頭を下げて両手を皿の様にしている美咲に手渡した。


「もう曲入れた? 入れたら次、俺入れて良い?」

「ちょっと待ってねー? ……はい、どーぞ」


 俺は手渡されたタブレットを操作して『津軽◯峡・冬景色』を入れた。


「ねーねー! ひなっちは何歌うのー? あ、そうだ! 後でデュエットしよー?」

「え、えっと……う、うん!」

「やった! えーそれじゃあ──」


 まるで暴走列車の如き勢いだ。このまま行くと本当に美咲が止まりそうに無いので、俺が仲裁に入る。


「こらこら美咲。ひなちゃんが困ってるでしょー。ひなちゃん、初めてなんだから優しくしてあげなよー?」

「た、拓巳くん!?」

「へー! ひなっちなんだー……じゃあ、私が手取り足取り教えてあげるよー!」


 何だか悪意のある言い方だったが、とりあえず乗っかることにした。


「えー? 俺もひなちゃんの欲しいなー?」

「うおい! このイケメン野郎が! 俺を放って一体ナニしようとしてやがる!」


 歌を終えるや否や山内はそんなことを言ってきた。


「山内……いきなりそんなこと言うのはどうかと思う。正直ないわー」

「やまちーきもーい」

「え、えっと……すいません……」

「え、これ俺が悪い流れ?」


 うん。これは山内が悪いね。(拓巳視点)


 

 




 







 




 


 

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