第4話


 ……ついついひなちゃんに嘘をついてしまった。本当は足に怪我なんかしていない。

 ただ、あの時はあそこから離れることだけを考えていた。


 そうでなければアイツを即座に殴り飛ばし、爪を一枚ずつ剥がすという蛮行をへ至る所だった。


 そんな事したらひなちゃんに嫌われてしまうので本当に危なかった。


 俺は泥だらけになってしまったズボンを洗濯機で洗いながらシャワーを浴びる。


 そんなこんなとしていると、いつの間にか午後の十二時。もうすでに学校は終わっていまっているだろう。


 俺はメールアプリを開く。ひなちゃんへとメールを送る。


拓巳:『ごめんね〜。制服とか洗ってたらいつの間にかこんな時間になってて』

ひな:『いえ、足は大丈夫ですか? もし、痛むようなら病院へ早めに行ってくださいね』

拓巳:『大丈夫大丈夫。湿布貼って寝たらすぐ良くなるよ。それよりもテストどうだった?』


 今日は本来なら春季課題の確認テストだったのだ。


ひな:『大丈夫でしたよ。勉強だけが取り柄ですし』

拓巳:『勉強以外にもいろんな良いところあるよ〜。今日みたいに人のいいところを見つけるのがうまかったり、ああ言ってくれてめっちゃ嬉しかったよ?』

ひな:『……そう言われると照れますね//』


 ん〜。メール越しですらかわいい。


拓巳:『ひなちゃんの照れ顔を目の前で見たい人生でした……』

ひな:『何言ってるんですか!//』

拓巳:『冗談だって笑』

拓巳:『あ、そうだ。ひなちゃんってお昼食べた?』

ひな:『いえ、まだですけど……』

拓巳:『じゃあ、一緒にどこか食べに行かない? 二人でね!』


 そこで初めてメールが止まる。既読自体はついているので席を外したわけではなさそうだ。


ひな:『大丈夫ですよ』

拓巳:『やった! じゃあ平白駅に今から集合で』

ひな『はい、分かりました!』

ひな:ハリネズミが『楽しみ』という看板を持っているスタンプ。

拓巳:狐が親指を立てているスタンプ。

 

 やったぜ。


──平白駅前。


「た、拓巳くん。お、お待たせしました……」

「いきなり誘ったのは俺だし全然大丈夫だよ! それよりも私服めっちゃ可愛いね!」

「あ、ありがとうございます」


 少し嬉しそうに頬を緩めたひなちゃんの服装は、ゆったりとしたカジュアルなものでとても可愛らしい。まあひなちゃんは何着ても可愛いだろうけどね!


「ひなちゃんはどこか行きたいところある? 無いならファミレスに行こうかなと思っていたけど」

「あ、はい。私もファミレスで大丈夫です」

「おっけー。じゃあ行こうか……あ、もしかして手でも繋ぎたかった?」


 俺がそう言いながら手を差し出す。


「だ、大丈夫です……!」


 そう言って手を振る彼女には忌避感が見て取れた。

 少し距離を詰めすぎたか、それとも今日のことを気にしているのだろうか。まあ、どちらにしても少し調整しないとな。


「はは、冗談だって。それよりも早くファミレスに行こうか。俺、めっちゃ腹減っててさ」

「……そうですね。私もお腹空きました」


 ひなちゃんは俺の言葉に同意した。少し表情が硬いが先ほどよりも全然柔らかい。


「じゃ、行こっか」



──ファミレス。


「奥のソファー使ってね」

「あ、ありがとうございます……」


 店員に案内された席に俺たちは腰をかける。


「よし。じゃあ何を食べようかな〜」


 メニュー表を二人が見えるようにして開いた。このファミレスは豊富な種類のメニューがあり、さまざまな人のニーズに応えられることを目的としているらしい。


「ドリンクバーはいる? 俺は頼むけど」

「そうですね……。じゃあ、私もお願いします」

「おっけー。ポテトも頼むけど食べるよね?」

「え、でも、悪いですよ……」

「こう言うのは誰かと摘むから美味いんだよ。それに、今回誘ったのは俺だしね」

「……じゃあ、お言葉に甘えさしていただきます」


 申し訳なさげにそう言うひなちゃん。こう言うの慣れてないのかな?


「ん? もしかして、何か頼むから迷ってる?」

「あ、そ、そうですね……グラタンかラザニアのどちらにしようかと……」

「ふーん。じゃあ俺がラザニア頼むから、ひなちゃんはグラタン頼んでシェアしよ」

「え? でも……」

「いいから、いいから。俺、お腹空いてるしピザも頼んじゃおうかなー」


 俺は店員を呼んで注文をする。ちなみにピザはマヨコーンピザだ。万人受けの味だ。


「ひなちゃんって普段こう言うところ来ない?」

「そうですね……私の家族は普段お家で済ませちゃうので」

「へえー。ひなちゃんも料理したりするの?」

「簡単なものだけですけど……」

「いいね。じゃあ、高校の昼も自分で作るつもり?」

「余裕があれば、お弁当は作ろうと思ってますけど……」

「あの彼氏くんにも?」


 その言葉にひなちゃんは頬を赤らめ、視線を迷わせる。しかし、どことなく幸せそうな表情。彼氏くんに弁当を作った想像でもしたのかな。


「で、でも迷惑……じゃないですかね……」

「何で? ひなちゃんからの弁当なんて、金払っても俺は食べたいけど」

「わ、私のお弁当なんかにそ、そんな価値なんて……」

「ひなちゃん……安心してくれ。──五千円までなら払える」

「そう言う意味じゃ無いです!」


 ムムッという表情で俺を睨みつけるひなちゃん。


「はは、じゃあ俺飲み物とって来るよ。ひなちゃんは何飲みたい?」

「えっと、カルピス……でも、それくらいなら私で──」

「俺一人で行っちゃった方が楽でしょ。じゃあすぐ戻って来るから」


 俺は席を立ち、ドリンクバーへと歩いていく。コップを二つ取り出し、氷を入れる。

 ひなちゃんはカルピスで……俺も一緒でいいかな。

 俺は席を立ったついでにおしぼりを二つ取る。


「ただいまー。あ、もう料理届いたのか。ごめんね一人で対応させちゃって」


 テーブルに戻るともうすでに頼んだ料理の数々が届いていた。


「も、もう、これくらい一人でできますよ!」

「ごめんって。はいこれカルピスね」

「……ありがとうございます」


 どこか拗ねた様子のひなちゃん。今すぐカメラに収めたい。

 とりあえずひなちゃんの機嫌を戻そうとした俺はラザニアを一口分取る。


「はい。ラザニア一口どーぞ。あ、結構熱いと思うから俺がフーフーしてあげようか?」

「……ま、またからかおうとしてますか?」

「……ほら、熱いうちに食べちゃって!」

「……もう、フーフー……ハム」


 髪を垂れないように耳に掛け直す仕草のままラザニアを冷ますひなちゃん。なんかエロい。

 あと餌付けしてる感じ。ゾクゾクする。


「おー……美味しかった?」

「はふ、ふん……美味しいです……」

「じゃあ俺も、頂きます」


 ムグ……。ん。美味い。パスタ生地はモチっとしててミルフィーユみたいになってるミートソース?とホワイトソースが濃厚で良い。


「…………っ!?」

「?……どうかした?」

「い、いえ……なん、でもないです……」


 そう言って、少し頬を朱に染め俯くひなちゃん。多分間接キス云々というやつだろう。ちなみに、俺は一向に構わん。


「そう? あ、俺もグラタン一口頂戴」

「あ、はい。良いですよ」

「アーン」

「……え?」

「だから一口頂戴? アーン」


 俺がそう言って口を開く。ひなちゃんは羞恥心やら何やらで口をはくはくさせている。可愛いだろ。


「じ、自分でとってください!」

「えー、ひなちゃんからのアーン……」

「や、やりませんから!」

「ちぇっ」


 頬を真っ赤に染めて俯いてしまうひなちゃん。ひなちゃんは何処かいじめたくなる可愛さがある。


「ん、グラタンも美味いね」

「そ、そ、そう、ですね……」


 ひなちゃんは俺が使ったスプーンをじっと見つめる。そして恐る恐ると言った様子でそのスプーンを使い始めた。はは。


「あ、食べたいならマヨコーンピザもどうぞ」

「……頂きます」


 俺がそういうとひなちゃんはマヨコーンピザを一切れを食べ始める。

 俺も食べよ。


「美味かったー」

「確かに……もうお腹いっぱいです……」


 ひなちゃんの満足そうな顔に俺もニッコリ。プライスレス!

 店員さんに食器を下げてもらった俺たちは、フライドポテトを摘む。


「ポテトはお腹いっぱいでも食べれるよね」

「そうですね……」

「……ねえ、お願いがあるんだけど……いい?」

「は、はい。私に出来る範囲でなら……」


 俺は横の椅子に置いていたリュックからとあるものを取り出す。


「……ノート?」

「そうそう、俺に勉強を教えてくれない? 今から一時間くらいで良いし……あ、もし用事があるなら断ってもらってもいいよ。もちろんお礼もするし……どう?」

「……そ、それくらいなら。私が力になれるなら」

「マジありがとう」


 これに関しては本当だ。前に学校の勉強をやったのは七年ほど前だろうか……それすら曖昧だ。


「暗記科目は自分で頑張るしかないし、数学をよろしくお願いします!」

「は、はい。頑張って教えます……!」


──少年少女四苦八苦。


 俺はファミレスを出て凝り固まった背筋をほぐすように伸びをする。

 一時間と言った筈が気付けば二時間半も経っていた。


「ご、ごめんなさい。奢ってもらって……」

「だから、これは勉強教えてもらったお礼だって。てかまだ全然返せてる気しないし」

「いえいえいえいえいえ……」

「いやいやいやいやいや」


 お互いに首を振り続ける。そのうち首壊れそう。


「ま、ともかく今日はありがとう。めっちゃ教え方上手かったし勉強になった。

「お役に立てたならよかったです」

「お役に立ちすぎたまである」

「そんなこと言っても、何も出てきませんよ?」

「純度百の本音だよ。じゃ、そろそろ俺は行くかな。ひなちゃんもまた明日」

「はい。また明日」


 今日は一時はどうなるかと思ったが、結果的には大幅にプラスだった。敬具。









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