第23話

 昼下がりは、まったり過ごすに限る。

 私は、ゆっくりと落ち着いた気分で過ごしていた。


 先程まで騒がしかった音が止んだからって言うのもあるけど。


 やっぱり天窓がある家って良いのかもしれないよね。

 天窓から空が見えるっていうのは開放感もあるし、時間が分かりやすくて良いかもしれない。


 昼間は、電気を付けなくて良さそうだし、それで自然の中に暮らしてるような気持ちも味わえる。

 段々と日が落ちていく時間に変わっているっていうのがわかりやすいの。

 もうこんな時間かーっていう心配が無いよね。


 うん。

 ここの物件は、良い。


「ねぇ、悠真。この物件やっぱりいいね!」



 私の言葉に対して、悠真からの返事はなかった。


 悠真は、ぐったりとして、フローリングに座っていた。

 壁に背をもたれて。

 テディベアみたいな格好。


 流石に疲れちゃったのかな?

 連日頑張ってたもんね。


 悠真のこういう姿は、意外とよく見る。

 こんなになるまで、頑張ってくれたって事だなって嬉しくなるんだよね。


 私は、悠真に近づいていき、軽くキスをする。

 ご褒美のキス。



 それをしても、あまり反応は無いみたい。

 疲れ過ぎだよー。

 もうー。



 うーん。悠真が対応できない時は、私が話を進めるしかないなー。


 もう一人静かになってしまった人に話しかけてみる。



「三浦さん。もし、ここを契約するとしたら、いつくらいから住めそうですか?」



 私の言葉は、広いリビングの中で、また迷子になってるようだった。

 話し相手は、すぐそこにいるのにね。


 三浦さんからも返事がない。


 もしかすると、三浦さんも連日頑張ってたのかもしれない。

 それは、ご苦労様なことです。

 そうだとしたら、ご褒美あげないと。


 私は、フローリングに横たわる三浦さんにも、軽くキスをする。



 三浦さんも、私のキスに反応はなかった。

 生気が抜けたようにぼーっとしちゃってる。


 もしかしたら、泣いてるのかな?

 色々な液が垂れてる気がするけど、これってなかなか珍しい光景だよね。

 こういう所も動画に保存しておこう。

 記録を付けるのも大事だよ。


 先程まで隠したスマホで撮影していたけども、今度は三浦さんに見えるようにスマホを取り出してみた。

 そして、それを三浦さんに向けてみる。


 けど、三浦さんは、もはや何をしても反応も示さなくなっているようだった。


「うーん……。二人とも、お疲れ様なんですね……」



 なんの反応も無いと、それは悲しくなっちゃうんだよなぁ……。

 そもそも、不動産屋さんの三浦さんが物件の話を進めてくれないとなんだけどな。


 こんな状況じゃ話にならないなぁ。



 私は、二人から無視されちゃってるみたい。

 これって、犬の躾を間違えちゃった時みたいだな。

 犬って、叱りすぎたりした時とか、ストレスを与えすぎると、なんにも言うこと聞いてくれなくなっちゃうんだよね。


 そういう時には、ご褒美とかをあげるのが良いって本に書いてあったんだ。


 その時に一番欲しいものをあげちゃうの。


 私はまた、三浦さんに話しかけてみる。



「三浦さん、あなたはただ悠真と純粋に恋愛してただけだもんね?」



 私の声に、少し三浦さんの目線が動いた。

 ちゃんと、私を見てくれる。

 よしよし。


「三浦さんは、騙されてたようなもんだもんね?」


 段々と焦点があってきた。


「三浦さんを、悪いようにはしないから大丈夫ですよ。安心してください!」


 そう言うと、三浦さんはその場で、また泣いてしまった。

 嬉しくても泣いちゃうの、可愛いなー。


 三浦さんは、このくらいにしてあげようっと。

 弱みは握れたようなものだし……。



「やっぱり、一番悪いのは悠真だって思うんだよ?」


 もう一匹の犬は、ビクンと動いた。


 犬の躾は、順番が大事なんだよね。

 私は、順番を間違えちゃったみたい。

 こっちの犬は、先にご褒美をもらったようなものだもんね。


 楽しんでいたわけだし。


 私は悠真に近づきながら言う。


「昨日言ったこと覚えてるかな? ‌私以外の人に大事な大事なものをあげちゃうなんて?」


 さすがに何かを察知したのか、反応してくる。


「いや、これは、未羽がやれって言ったから……」


「だけどさ、私は途中で、『大丈夫か?』って聞いたじゃない? ‌ちゃんと私にだけくれるって、昨日は言ってたと思うんだけど?」


「いや……、そうだけど……」


「悠真との約束って一日で、破られちゃうものなんだね」


 ふふ。

 私は、飴と鞭ができる女だよ。


「じゃあさ、このことを無かった事にして欲しい? ‌それとも、もう一つの卵を無くして欲しい? ‌選ばせてあげるよ」

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