第22話

 昼のひと時は、ゆったり流れる。

 天窓から光が注いできて。

 暖房とかが無くても、部屋の中は温かい。


 それって、もしかすると三人も人がいるからかもしれないけれども。

 人の熱って温かいよね。


 最初に見せてもらったリビングが、やっぱり一番の推しスポットだって思うんだ。


「ああぁーーー……」


 うん。

 やっぱりここが正解かも。

 近所迷惑はかからないだろうっていうことで、三浦さんに声を出してもらっているけれども、良い感じ。


 天井が高いと、声の広がりも違う。

 それも含めて、開放感が良い感じ。


 思った通り、良い感じだな。

 見学するっていうのもしてみるものだね。

 悪くない。

 むしろ、楽しいかもしれない。


 ずーっと見てたくなっちゃう。ふふふ。



 推しのライブDVDを延々と見続けちゃうのと似ているかもね。

 私、同じライブでも何回も見ちゃうんだよね。


 最近だと、マルチアングルって言ってね。

 いろんな方向から見れるんだよ。

 こっちから見たら、どうなのかなって。


 私は、リビングの中を移動してみる。

 悠真と三浦さんの邪魔をしないように、さささーっと。



 おぉー。なるほどー。

 こっちのアングルも良い。


 三浦さんの目線の方から見ていたのとは、また違う感じに見える。

 推しの表情が見れたりするアングルって、やっぱり良いよね。


 推しがね、一生懸命に声を出しているような顔って、そそるんだよね。

 見てるだけで、ゾクゾクだよ……。



 三浦さんって、本当に綺麗な人だな……。

 そんな人が、汗ばんだりする姿って、たまらない。

 営業スマイルなんかじゃなくて、本能を剥き出しにしたような女の顔。


 それでもやっぱり、三浦さんは綺麗な人。

 こんなところなんて、普通は見れるものじゃないなー……。

 内見ってすごいなぁ……。

 もっと見たくなってくるよ……。


 私は悠真におねだりしてみる。


「ねぇ、悠真? ‌まだ見ていたいな。大丈夫?」

「……わ、わかった。未羽のためだと思って頑張ってみるよ」


 はは。

 私のためだなんて言ってるけど、楽しんでるのは悠真も一緒だって思うんだけどね。


 頑張る悠真に、私はキスをする。

 動いていたらキスはしにくいから、顔を抑えてたっぷりと。

 愛を確かめ合うような、深いキス。



 上半身と下半身。


 男の人って、どちらの本体なのかな?

 男性の特徴があるからか、下半身に目が行きがちだけれども、私は上半身が本体だって思う。


 耳だって、鼻だって、口だって。

 首から下の方も、まだ上半身。


 私はどの部位も好きだけれども。

 悠真はどこが好きだったかな?

 ここだったかな?


 私の指って、柔らかいんだよ。

 自分では肉球くらい柔らかいかもって思っちゃう。


 あ、悠真の表情が変わった。

 っていうことは、ここが正解っていうことかな?


 ふふふ。

 肉球みたいな、私の指、ふにふに。

 ふにふにするたび、悠真は眉間に皺を寄せてる。


 天窓からの光が眩しいのかな?

 ちょうどお昼時だしね。


 けど、楽しんでるなら、もっと楽しそうな顔をしたらいいのになぁ。



 次は三浦さんの方のアングルを楽しもうっと。


 綺麗なものを汚すっていうのって、意外と快感だったりする。

 こんな悪いことしちゃっていいのかなっていう。

 これが、背徳感っていうのかな?

 私悪いことしちゃってるんだっていう感覚……。


 取り返しがつかないことほど、良いと思うけれども。

 それは、さすがに拒否されちゃった。

 残念。



 そうは言っても、私は悪いことなんてしてないけどね。

 今の私は、見学させてもらっているだけ。

 やっぱりリビングは良いなーって。


 そこにいる三浦さんは、綺麗だなーって。



 築年数で言うと、私と同じくらいの年代だと思うのだけれども、あまり使われていなかったのかな。

 すごく綺麗なんだよね。


 こんなに綺麗なのに、ここを経験した人は少なかったのかもしれないんだよ。

 なんだか、勿体ないなー。


 私が経験したいくらいだなー。


 ……そう思うなら、経験したらいいのか。

 ……そのための内見でもあるしね。



 女の人もね。

 下半身よりも上半身が本体だって思うんだよ。

 やっぱり、耳も鼻も口もあるし。

 そこがチャームポイントだっていう人もいるし。


 三浦さんはと言うと、そこは違うかもかな?


 けどね、まだまだ上半身には良いスポットもあってね。

 首筋もね、鎖骨が女性は綺麗だって思うんだ。

 そこから下にすらーっと細い腕だって、上半身。


 そこも違うのかな?


 人って隠れてるところほど、くすぐったいって言う話を聞いたことがある。

 弱点を隠したいみたいなの。


 腋からのお腹にかけての部分。


 そういうところが私は好きだったりするけれども。

 三浦さんはどうかな?


 あ、同じみたい。

 これは、仲間になれそうだね!


 あとは仕上げといえば、体の中央部分だよね。

 三浦さんって、脱いだら凄いんです!

 っていう感じで。


 私にも、そんなにあったらいいのになぁ。

 せっかくだから、ご利益にあやかっておこうかな。


 私の肉球と勝負!

 肉球って、すっごーーく柔らかいんだから。


 ……けど、私の肉球よりも柔らかいものって、あるのかもしれない。

 まさかだね。これは、大発見。


 ふふ。楽しいな……。


 私も楽しいけど、三浦さんも楽しそう。

 そんな、三浦さんに伝えてみる。


「なかなか良い物件ですね。期待を上回ってます。ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、三浦さんもお礼を返してくれた。


「喜んでもらえて……、何より……です……!」


 こんな時くらい、悠真は動きを止めたらいいのに。

 まぁいいか。



 私も、三浦さんにお礼に答えないとだね。


「内見するにあたって、写真撮影、動画撮影も良いって佐々木さんが言ってたんですよね。今日のは、永久保存版ですね!」


 私がそう言うと、三浦さんから段々と笑顔が消えていった。


「心配しなくても大丈夫ですよ? ‌顔も身体も綺麗に撮れてます!」


「……」


 だから、話してる時くらい悠真は動きを止めろって言うのに……。

 三浦さんと会話で巻きないじゃん。


「あ、声もしっかり撮れてますよ! ‌部屋に入る前から撮れてるので、三浦さんだってしっかり分かりますよ!」


「……」


 悠真は、本当に大型犬みたいだよ。

 発情期の大型犬。

 頑張ってって言ったけどさー、限度があるよね?


「そうそう、もう一つ安心材料があってですね。この動画が消えないように、すぐに私のクラウドにバックアップされてるんです‌。私って意外とIT強いんですよ。ふふふ。これで、安心でしょ?」


 三浦さんは、何かを諦めたかのように、悶え始めていた。

 悠真のせいっていうのもあるけれども。


 背徳感って、やっぱり好きだな……。ふふ……。

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