第19話
……もしかすると、この店員さんには、私と佐々木さんの内見のことが、バレてるのかもしれない。
店員さんは表情を変えないで聞いてきたのだ。
内見に時間がかかっているのを知っているとしても、どこまで分かっているんだろう……
ベッドの汚れとか、直接見たのかな?
この人が見るなんてことあるのかな……?
私は、詰まりながらも答える。
「えっと……そうですね。その節は、佐々木さんにお世話になりました……」
店員さんは、営業スマイルを顔に貼り付けたまま表情を変えなかった。
「まぁ、立ち話もなんですから、まずはお席にどうぞ?」
そう言って、商談席を案内してくれる。
先日も座っていた四角いテーブル。
私と悠真は隣り合わせで座る位置に進む。
店員さんは、悠真に対しては椅子を引いてくれているが、私に対しては笑顔を向けているだけ。
店員さんの目の奥は、明らかに笑っていない……。
こちらを睨みつけるような目……。
多分、バレてるんだ……。
「お二人とも、アイスティーで良いですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
店員さんの問いかけに対して、悠真が返事してくれる。
私は声が出せなかった。
「確か、甘いものがお好みですよね?」
「そうです。よく覚えて下さいますね」
「もちろんですよ……」
そう言いながら、店員さんは一旦裏へと下がっていった。
声を荒らげない辺りが、逆に怖い……。
私刺されたりしないよね……?
店員さんの様子が気になったので、悠真に聞いてみる。
「なんだか店員さん……、少し怒ってるのかな? 態度が違うような気がしない?」
「えー……? そうかな……? いつも通り優しそうだけれども」
私の勘違いだったら良いんだけれども。
あの店員さん、絶対何かありそう。
私が店員さんの態度を気にして俯いている所へ、悠真は明るい声で聞いてくる。
「それよりさ、今日の内見はどうする? 未羽の気になる部屋を見てみよう」
悠真の笑顔。
やっぱり救われるな……。
「私は、部屋の綺麗さとかも気になるし。あと、毎日家事をするってなると、やっぱりキッチンとかも気になるな。悠真の今の家だと、キッチン狭いからさー……」
そんな話をしていると、裏から店員さんが戻ってきた。
手に持ったお盆の上にアイスティーが二つある。
それを一度机に置いてから、私と悠真に渡してくれるようだった。
――ガン。
私の目の前で、コップを叩きつけるように置く。
アイスティは、衝撃で少しこぼれてしまった。
「どうぞ?」
店員さんは笑顔を崩さないけれど、怒っているよう……。
態度があからさまに違うよ……。
「あら、こぼれちゃいました。すいません、お拭きします」
「……あ、いえ、大丈夫です」
私は自分でティッシュを取り出すと、こぼれた部分を拭いた。
その間に店員さんは、悠真に対してガムシロップと、ミルクを入れてくれていた。
「彼氏さんは、甘いのがお好きらしいので、入れておきますね。一つずつですよね」
この時は、目の奥がしっかりと笑っていると感じられた。
今度はストローを取り出して、悠真のコップへと入れる。
ストローを使って、優しく丁寧に回してくれている。
そして、悠真に顔を近づけて。
「このくらいで良いですか?」
「あ、はい……」
優しいと言うよりも、すごく馴れ馴れしい。
「はい、どうぞ?」
「ありがとうございます」
私へ当て付けなのだろうか……。
都会の店員さんの本性が分からない。
悠真がアイスティーに刺さるストローへ口をつけて、一口飲むところで店員さんは悠真に向かって話しかけてきた。
「そういえば、この前内見頂いたお部屋はどうでしたか? じっくりと時間を見てもらいましたけれども……。昨日の彼女さんたちのように……」
悠真は、慌てて口に含んだアイスティーを飲み込んだ。
少し咳き込みながら返事をする。
「いや、それは内緒でお願いしますよ……」
「あれ、言っちゃいけなかったでしたっけ。すいません。ついつい……」
悠真は、何かを隠しているような口ぶりだった。
「内見、楽しかったですよね。あんなに隅から隅まで。好奇心旺盛な子供みたいに。私もついついサービスで色々見せちゃいましたけれども……」
それって、どういう意味なのだろう……。
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