第17話
朝が訪れたということを、道路工事の音が教えてくれる。
この家には、ドアとか窓とか、そういうものが無いんじゃないかってくらいに、騒音が部屋の中に侵入してくる。
しっかりと全て閉まっているのだが、壁が薄いことで、このような事態になっている。
一言で言えば、とてもうるさい。
「この家ってさ、壁が防音の機能をしていないよね……」
「そうなんだよね。部屋の外を歩く足音だって聞こえるしね」
このくらいの声であろうと、隣の家の人には聞こえてしまっているのだろう。
そうだとした場合、この部屋で起こったことは全て、隣の部屋の住人に聞こえてしまっているはず。
昨日のことを考えると、とても恥ずかしくなる。
私は、悠真の腕枕の中に潜った。
「もう。悠真ったら、昨日は激し過ぎでしょ。この家は壁が薄いんだから、気を付けてよね」
「ごめんごめん、ついね」
なんだかんだで、私は悠真の元にいる。
私と悠真は、二人で痛み分けした形で許しあっていた。
お互いに怒っていた部分はあったけれども、そのことについて、深くは問い詰めない。
自分のことを正当化しきれないから。
お互いさまってこと。
それが表向きの理由。
私は悠真に直接言ったわけじゃないんだけれども。
私が過ちを犯したことで、悠真がより一生懸命に私を満足させようとしてくれることに気付いたんだ。
私のことを何とか取り戻そうとして、一生懸命になって。
何とも言えない多幸感だった……。
もちろん、佐々木さんと一緒にいた時なんかとは、比べ物にならないくらい幸せだったの。
私は、気付いてしまったのかもしれない。
これは、ハマっちゃいそうだな……。
もしかすると、悠真もそうなのかな?
直接は聞けないけどね。ふふ。
けど、悠真の場合は、今度やったらもっとキツイお仕置きをしないとだね。
気を取り直して、準備しよう。
今日も、あの不動産屋さんに内見の案内をしてもらわないとだね。
悠真の嫉妬する顔がまた見れるって思うと、ゾクゾクしちゃうな……。
佐々木さんに対して、なんて言うのかな?
悠真のことだから、殴り掛かるなんてことはしないと思うんだよね。
歯を食いしばって悔しがるのかな?
佐々木さんの前で、イチャイチャしてくれるのかな?
想像するだけで……。
ふふ……。
悠真を虐めてる時って、なんでこんなに嬉しくなっちゃうんだろうな……。
悠真自身も、実は楽しんでいたりしてね。
「あ、そうだ! 私ね、今日の朝ご飯を、昨日のうちに作っておいたんだよ! たまごサンドイッチ!」
「えっ、本当? それは嬉しい! 僕の大好物だよ、それ!」
悠真のために作ったものだからね。
もちろん、もう許してるけれども。
特製のたまごサンドは食べてもらおうかな。
悠真も嬉しそうだし。
私は先に布団を出て、朝食の準備をしようと台所に立つ。
冷蔵庫に入れて、冷やしていたタマゴペーストを取り出す。
もちろん、匂いなんてしない。
どちらかと言うと、美味しそうな匂いがしてくる感じ。
すごーーーく美味しそうだよ。
それをロールパンの中に、詰め込んでいく。
溢れだしそうなくらい、たっぷりと。
うん。
これで悠真も元気になれそう!
悠真の食べれる分として、二つ分出来が上がり!
「せっかく作ったから、悠真が全部食べちゃって良いからね!」
「そうなの? 未羽も一緒に食べようよ?」
「大丈夫、大丈夫。私は、昨日食べたようなものだからさ」
「作る時に味見でもしたんだね」
「うん! 昨日食べ過ぎちゃったから私は別の味を食べたいなーって思うの」
私は、ニコニコと笑って答える。
理想の朝食の風景って感じだね。
悠真も笑い返してくれる。
「じゃあ、冷蔵庫にイチゴジャムが入っていたと思うからさ、それ使いなよ?」
「おぉーいいね。私がイチゴジャム好きなの覚えててくれたんだね」
「もちろんだよ……」
私も、栄養いっぱい取らないとだね。
昨日みたいに体調悪くならないように、朝ご飯はしっかり食べなきゃね。
私は、悠真に言われたイチゴジャムを冷蔵庫から取り出した。
初めてみる感じの、オシャレな瓶に入ったイチゴジャム。
とっても赤いイチゴジャム。
なんだか、血の色を思い出すくらい真っ赤な色をしている。
そのイチゴジャムをたっぷりとパンに塗って……。
うん。美味しそう。
「悠真も、イチゴジャム少し食べる?」
「いや、俺はたまごサンドだけで大丈夫!」
悠真は笑顔で食卓に座って待っていた。
二人分のパンをテーブルに並べる。
「じゃあ、今日の物件探しに向けて栄養取りましょー! いただきまーす!」
「いただきまーす!」
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