第15話

 私の足元でうずくまる悠真。

 悪いことをしたって思ってるみたい。

 ‌私に謝ってくれているみたいな格好だな。


 悠真は、微かに震えてる。

 なんだか、小型犬みたいにも見えてくる。

 そんな姿が、とても愛おしく思える。


 私は、悠真の頭を撫でてあげる。


 優しく、髪の毛に指を通して、手ぐしをするように。

 悠真の髪の毛って、サラサラな感触がとても気持ち良い。

 なんだか、本当に犬の毛みたいなんだよね。

 ずっと撫でていたいくらい気持ち良い。


「悠真、過ちは誰にでもあるものだからね。大丈夫だよ、私は許すよ」

「……うぅ」


 まだ痛みが続いてるのかな?

 さすがに強く握り過ぎちゃったか。


 けど、しょうがないよね。

 躾けるっていうためには、こういうお仕置きが必要なんだよ。

 私も好きでやってるわけじゃないんだよ?



 ……これはこれで、ゾクゾクしなくも無いけど。

 ……好きな子を虐めたくなる気持ちって、こんな感覚なんだね。

 ……これは、悠真が私だけに見せてくれる一面だもんね。


 ふふふ。



 こういうのも、嬉しいけれども。

 もう少し従順になってもらいたいんだよね。



 そうそう。

 躾けをするためにはね。

 お仕置きをした後は、しっかりと甘やかすの。


 私も、その場にしゃがんで、悠真に視線を合わせる。


「私は、悠真の事が好きなの。だから、私だけを見ていて欲しいんだ。私は悠真のためになんだってするし、悠真にどこまでも尽くすつもりだよ?」


 こうやって、飴と鞭を使うことで、飼い犬のように手懐けるんだって。

 私の愛読書に書いてあったんだ。ふふ。



 その本によるとね、男はしっかり手網を握ってないと、どこかへフラフラ行っちゃうらしいんだよね。

 フラフラと遊びに行かないように、しっかりと愛を持って自分の方を向かせることが大事。


 そうしても、男は悪いことをする場合があるから、その時はしっかりと叱る。

 叱る際には、痛みを伴うことも効果的らしくて、多少はやむ無しなんだって。

 そうしないと、いつまでも過ちを繰り返しちゃうから。

 初めに一回痛いことを味わってもらえば、その後は学んでくれるはずだから。


 痛みを伴う躾をした場合は、そのあと十分に甘くすること。

 それも、愛読書から学んだことなんだ。


 私は、悠真を離したくないから、熱心に勉強してるんです。


 ……できれば、私に服従させたいなって。



 悠真の頭を優しく撫でる。


「なんでも言ってね? ‌私は、なーんでもするからね!」



 ◇



 悠真の痛みがおさまった後は、私に対してすごく怯えた顔をしていた。


 私は、そんな悠真に愛情をもって接していった。

 夕飯を食べさせてあげて。

 お風呂にも一緒に入って。


 最初は怯えていたけれども、段々と元の悠真に戻っていった。


 悠真と二人で布団へと潜る頃には、いつもの状態になっていた。

 悠真の方から、私に話しかけてくれる。


「俺も、あらためて真剣に未羽のことを真剣に考えたいと思うんだ」

「うんうん」


 ちゃんと元の状態に戻ってくれて良かった。

 そして、躾の効果もちゃんと出てるみたい。

 私に対して、より真剣になってくれたみたいだな。

 良かった良かった。



 悠真は、真面目な顔を私に向けて言う。


「新しく住む家を、早く決めちゃおうと思うよ。だから、明日休みを取ることにしたよ!」

「えっ、そうなの? ‌私のために仕事休んでくれるってこと? ‌それって、すごく嬉しいよ!」


 私は悠真に抱きつく。

 まさか、こんなに早く躾の効果があるなんてね。

 すごいな、あの本。


 悠真の方が、私を撫でてくれる。


「この前行った不動産屋さんがあったじゃん? ‌あのお店が良さそうだったからさ、あそこに行って、内見出来る物件を案内してもらおう」



 ……あそこか。



「俺的には、街も良さそうだって思うしさ。あの不動産屋さんを中心にして考えていくのが良いかなって。未羽は、どう思う?」



 ……まぁ、いいか。

 ……私は何もしてないし。内見をさせてもらっていただけだし。



「……うん。良いと思うよ」

「……あれ? ‌あんまり気に入らない感じなのかな? ‌未羽の目が泳いでる時って、言いにくいことを隠してる時だよね」



 ……。


「……私、目が泳いでる?」

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