第11話

 こういう時どうすればいいのだろう。

 見つけてしまった生ゴミを見つめたまま、しばらく呆然としていた。


 私がこの物体を見つけてしまうなんてことは、少し考えれば分かることじゃない……。

 私がこっちに来てるって言うのに。


 悠真は、気を抜き過ぎだよ……。

 もしくは、本当になんでも無い、ただの一人だけの息抜きなのか……


 仕事の合間に、ストレスでも溜まったのかな……?



 でも、そうだとしたら、私に言ってくれれば良いのに……。

 忙しくて時間が無かったとかなのかな……?


 分からない……。



 これを、悠真に聞いてのが良いのか。

 けど、これを見たと言ってしまったら、私と悠真の関係は、壊れてしまうかもしれない。

 そうなることが怖い……。



 そう思うのだか。

 気が付くと、私はゴミを漁っていた。

 この生ゴミは、何個あるのかな……。


 出てきた生ゴミを、まな板の上へと並べる。

 一つまた、一つ……。


 キッチンだけでなく、寝室の方のゴミ箱も漁ると、そちらからも出てきた。

 丁寧に、それだけを取り出すと、まな板の上に並べる。


 私ってば、貴重面だから……。

 ゴミの分別をしたいだけだから……。


 私は、家中の全てのゴミ箱を漁り終えた。



 何回分あったのかな……?

 出てきた生ゴミは、合計五つ……。


 可燃ゴミの日は、毎週二回。

 だから、今溜まってた生ゴミはこの三日間に出たゴミ。


 この三日間での回数は、私よりも、多いわけだ……。



 いつから、こんなことが行われていたのか。

 この一年間は、遠距離恋愛だったわけだから。

 私の方が浮気相手なのかもしれない……。


 けど、これから同棲するっていうことは、私が本命なはず……。


 そうだよね……?


 段々自信がなくなってくる。

 何を信じれば良いのか。

 悠真を信じていたのに……。


 もう頭の中がぐちゃぐちゃ。

 幸せな春色だった視界が、暗くなっていく気がした。



 半分は、信じたい気持ち……。

 半分は、許せない気持ち……。


 そんな気持ちが混じりあって。

 分からなくなる。


 分からない時は、何かをして落ち着かないと……。

 何か、単純な作業をして……。



 一旦生ゴミのことは忘れて、目の前のことに集中しよつ。

 とりあえず、料理の続きを。


 続きの作業。

 卵を潰そう。

 それで、自制心を保とう……。


 見なかったことにすれば、問題無いから。

 一度の浮気くらいね……。



 卵を潰して、細かくする作業。

 大きな塊を細かくする。食べやすいように。


 小さくすれば、すんなり飲み込めるようになるから。


 この生ゴミを使う関係。

 よく良く考えれば、それは本気では無いっていうことだよね。

 本気であれば、使わないはずだし。


 私に見られても良いくらいの、なんでもないこと。

 それだけの関係ってこと。


 デリバリーとかかも。

 それなら、愛なんてあるわけないし。


 そうだね。

 きっとそう。


 悠真ったら。

 それなら、それで言ってくれれば良いのに。

 少し怒るけど、許してあげるよ。



 卵を潰し終わる頃には、気分は落ち着いていた。

 落ち着くと、段々と違う気持ちが湧き上がるのを感じた。


 愛情と憎悪は、似ていると思った。



 この後の続きを作ろうにも、マヨネーズが無かったんだ。


 マヨネーズの代わりでもあれば。

 代わりでも、あればね。


 そうか、無ければ、作れば良いんだよね。


 酢を入れれば、作れるんだよね。



 半分は、愛情。

 半分は、憎悪。


 そんな感情で作られた料理って、どんな味がするんだろうね。


 私の今の気持ち。

 どっちか強い方の味がするはずだよね。


 結局、気持ちはぐちゃぐちゃ。

 今の気持ちは、自分でもよく分からない。



 この生ゴミがあるからいけないんだもんね。

 これを無かったことにすれば良いだけ。

 話は単純明快。


 こんなことをするのが悪いし。

 隠し通せないのも悪い。



 けど、それをなかったことにすれば良いだけ。


 難しいことは無いの。

 自然の摂理だよね。

 悠真の身体から出てきたものは、悠真の身体の中に戻せば良いだけ。

 それで、なかったことになるから。


 ゴミ箱から取り出して、まな板の上にある生ゴミ。

 結ばれた袋に入った生ゴミ。


 袋の口をハサミで開ける。

 そこからは、特有の匂いがしてくるけど、大丈夫。


 二日三日は、まだ新鮮なはず。

 保健体育で習ったからね。

 ふふ。昔からそういうことに興味はあったから、記憶力はバッチリだよ!


 過酷な環境でも、生きていけるのが、この子達。生命力抜群。


 ふふ。

 こんなに生命力があるなら、悠真の滋養強壮に役立ってくれそうだな。


 君たち。

 今度は私の身体に来るんだよ?


 私は、卵ペーストの中に、袋から取り出した液体を絞り出して入れた。

 ちゃんと、全部入れたんだよ。


 勿体ないし、この子達が可哀想だからね。


 私の子になるかもしれなかったこの子達が、五回分。

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