第5話

 朝起きると、彼が隣にいる。

 それだけで嬉しくなる。


 彼の寝顔を見てるだけで幸せ。

 ‌可愛いんだよね。ふふ。


 遠距離恋愛の時は、都会に来る日だけ、これを体験出来るんだ。

 会えるのは土日だけだったから、彼の寝顔を見るためだけに、土日の早起きに慣れたんだよ。


 彼の長いまつ毛を、ちょんちょんと触る。

 ここ気持ち良いんだよね。

 ふふ。大満足。



 いつもだったら、次の日は帰らなきゃいけなかったりするんだけれども、今日は帰らなくていいんだ。


 ゆっくり彼の寝顔を楽しもう。



 昨日は慌ただしかったしね。

 新幹線移動した後に、すぐに不動産屋さん行ったり。

 不動産屋さんでは、ドキドキすることもあったりもしたし……。


 自分自身でも疲れていたと思ったけれども。

 このホテルに泊まれた嬉しさで、疲れを忘れてしまったみたい。


 彼も、途中までは私の事を心配してたのに、結局は私に気を遣わずに求めてきたりして……。

 ‌久しぶりに、熱い夜だったな……。


 そしたら、彼の方が疲れてしまったのか、ぐっすりと寝ている。


 私は、こっそり彼の唇にキスをする。

 朝はあっさりとしたキス。



 このまま、寝顔を見ているのもいいけれども。

 そろそろお腹空いたから、起こそうかな?

 ホテルの朝食ビュッフェがあるって聞いたしね。

 楽しみにしてたんだ。


「……悠真、起きて? ‌朝だよ?」


「……ん。まだもう少しだけ。……みう……さん」


 そう言って、隣にいる私に抱きついてくる。

 寝ぼけながらも、私の名前を呼んでくれるって、可愛いな……。


 それも、『さん付け』で呼ぶなんて、出会った頃の夢でも見てるのかな?

 寝ぼけすぎだよ。ふふ。



「ほらほら、早く起きないと、ビュッフェ食べれなくなっちゃうぞー?」


 そう言って、また唇目掛けてキスをすると、彼は目を開けた。


「……んー。……あれ?……みう!?」


 すごい驚きようだなぁ。

 いつも一人だから、寝起きに人がいたら驚いちゃったのかな?

 記憶飛ばすくらい、お酒飲んじゃったのか。

 もしくは、私との情事が記憶が吹き飛ぶくらい激しかったのかな?

 そうだとしたら、恥ずかしいな……。


「……悠真、起きたなら、早くビュッフェ食べよ!」

「お、おう! ‌そうだよな、ビュッフェ行こう!」


 さっと身支度を済ませて、ビュッフェへと向かった。



 ◇



 ビュッフェ形式の朝食。

 広いレストランのスペースに、色んな種類の料理が並べられている。

 どれも、見たことがないような料理。


 どれを食べようか、目移りしちゃう。

 ‌と言うか、全部食べたくなっちゃう。


 私の好きなことを本当に、よく分かってるなって思うよ。

 こんなホテルを探してくるなんて、あらためてすごいな。


 私は手に持った皿に、各料理を少しづつ乗せていく。

 出来れば全種類食べたいもんね。


 そんな中で、彼はお目当て料理の位置が分かっているかのように、すいすいと進んでは、食べたい料理を取っていく。

 ‌一周まわる頃には、綺麗に皿に盛り付けられていた。


「悠真、すごいね! ‌こういうビュッフェで一周するだけで完璧に取れる人は中々いないって、テレビでやってたよ?」


「……え? ‌そうなの?……‌いや、仕事のおかげで、先を見る力が付いたのかな? ‌一年で俺も成長したからさ」

「えー! ‌そうなの? ‌すごーい!」



 私がそう言うと、悠真は照れているのか、鼻の頭をかいていた。


「そんなに褒めないでよ、照れるよ」

「分かったよ。ふふふ」


 ……ふふ。私は知ってるんだ。

 鼻の頭をかく時は、ちょっと隠し事してる時なんだよね。


 きっと悠真は、デキる男を演出したくて入念な予習をしてたりするんだよ。

 私に内緒で下見にでも来てたりするかもしれない。


 私のために、カッコつけようとしてね。

 それを聞くのも野暮だけど、聞いてみちゃおうかな?

 私の推理は、当たってるかな?



「……もしかして悠真、ここに一回来たことあるでしょ?」

「……え? ‌……うん? ‌なんの事?」



 ……ふふ。すごい慌てよう。

 悠真は、相変わらず嘘が下手だなぁ。


 私のためにしてくれてることなら、包み隠さずい言ってくれればいいのに。


 私のために来てたとしたら、それはそれで嬉しいのにな。

 こんな高級なビュッフェ。

 予習しに来るなんて、値段も高いだろうし。


 一人でこんなところに来るなんて、結構勇気いると思うもん。

 教えてくれてもいいのになぁ……。

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