<KAC2024お題作品>海沿いのアパート

口羽龍

海沿いのアパート

 岳弥(たけや)は町工場に就職する事が決まった。少し遠い所にあるので、この近くにいい住居がないか、探していた。この辺りは決して人が多くないので、なかなか見つからなかった。だが、ようやく見つける事ができた。その建物は、数年前にできた、比較的新しいアパートで、清潔で窓からの眺めがいいそうだ。


「これが、その物件ですか?」


 岳弥はその部屋の内見に来ていた。とてもいい所のようだ。町工場に近くて、歩いて行ける距離だ。ここならよさそうだ。


「はい、どうです? いい部屋でしょ?」

「うん。清潔で、セキュリティがしっかりとしていて、海がきれいで」


 岳弥は海の近くにあり、眺めがいいというのが気に入ったようだ。だが、海と聞くと、大家は少し落ち込んだ。


「海・・・、ですか・・・」

「どうしたんですか?」


 岳弥は大家の表情が気になった。海に何か嫌な思い出があるんだろうか?


「いや、何でもないんです」


 だが、大家は言おうとしない。岳弥はますます気になった。


「そうですか」

「はい」


 だが、この部屋はなかなかいい。いい方向に考えておこう。


「でも、ここいいですね。いい方向に考えときますね」

「はい。どうかよろしくお願いします」


 岳弥は帰っていった。ここ以外にあんまりいいのはない。それに、なかなかいい部屋だ。ここに住む事に決めよう。岳弥は嬉しくなった。これで来年度からの準備は完了しそうだ。




 岳弥はその部屋を借りる事になった。そして、岳弥はその部屋にやって来た。大家は喜び、岳弥を受け入れた。あんまり売れない物件だったので、大家はとても嬉しがったそうだ。


 そして3月の下旬、岳弥はそのアパートに引っ越してきた。岳弥はワクワクしていた。これから新しい部屋での生活が始まる。初めての1人暮らしだ。どうなるかわからないけど、楽しみだな。


「これが新居か」


 岳弥はアパートを見上げた。


「お気に入っていただけて、嬉しいです」


 大家は笑みを浮かべた。気に入ってもらえたようだ。これから長く住んでほしいな。


「はい。いい所ですね」


 大家は岳弥を部屋に案内した。部屋は2階にあり、海がよく見える。


 大家と岳弥は部屋に入った。窓の向こうには海が広がっている。とてもいい景色だ。岳弥は感動した。大家はすぐに部屋を出ていった。岳弥はしばらく外の景色に見とれていた。


「はぁ・・・。いい眺めだな」


 今日は引っ越しなどで疲れた。ひと段落したから、昼寝しよう。


「ちょっと寝よう」


 岳弥は部屋の床に横になり、寝入った。新しい部屋での寝心地は、最高だな。


 だが、夢の中に入った途端、岳弥は大きな揺れを感じた。地震だ。入居した直後に地震なんて。


「じ、地震?」


 部屋は大きく揺れている。岳弥は呆然としている。そして、家具が倒れるのを恐れて、机の下に逃げようとした。だが、向かう途中で家具が倒れてきた。


「うわっ、家具が・・・」


 岳弥は家具に挟まれてしまった。まさか、こんな事になるとは。


「う、動けない・・・」


 岳弥は何もできずにいた。岳弥は気づいていないが、海からは大津波が迫ってくる。岳弥もそれを予感していた。海沿いにあるのなら、津波が襲い掛かってkるかもしれない。今度は大津波なんて。しかも、家具の下敷きになって動けない。どうしよう。もう逃げられない。このまま津波に飲まれるんだろうか? それは嫌だ。


 と、部屋に海水が迫ってきた。大津波だ。


「つ、津波?」


 やがて、津波はアパートを飲み込んだ。岳弥はなすすべなく、津波に飲まれた。入居した直後に、こんな事になるなんて。それで命を落とすなんて、嫌だよ。


「うわぁぁぁぁぁ」

「大丈夫ですか?」


 岳弥は大家の声で目が覚めた。岳弥が目を覚ますと、そこには大家がいる。どうやら夢だったようだ。岳弥はほっとした。だが、とてもリアルな夢だったな。


「ゆ、夢か?」

「どうしたんですか?」


 大家は、岳弥が悪夢にうなされているのが気になった。一体、どんな夢を見ていたんだろう。気になるな。


「地震に遭って、津波に飲まれる夢を見たんです」

「そうですか・・・」


 と、大家は何かを思い出したような表情になった。何を思い出したんだろう。岳弥は気になった。


「えっ、何か知ってるんですか?」

「ここには昔、別のアパートがありまして、地震の後に起きた大津波に飲まれたんです。で、そのアパートの人々はみんな、倒れてきた家具の下敷きになって、後から来た大津波に飲まれて亡くなったそうです」


 ここでは何年か前に巨大な自信が起きたそうだ。それによって、この集落には大津波が襲い掛かってきて、多くの人が犠牲になったそうだ。そして、このマンションに住んでいた人々は、みんな家具の下敷きになり、この後にやって来た大津波に飲まれて、亡くなったそうだ。


「そんな過去があったのか・・・」


 岳弥は驚いた。こんな過去があったとは。だとすると、あの夢はあの時の出来事の夢だろうか?


「慰霊碑、見に行きますか?」

「はい」


 岳弥は、高台にある慰霊碑を見に行く事にした。その大津波の後、地震や大津波で亡くなった人々の冥福を祈るため、慰霊碑が作られたようだ。岳弥はその存在を知っていたが、まさかここにあるとは。そして、どんなものだろう。ぜひ見たいな。


 2人は高台にある慰霊碑にやって来た。訪れる人は少ないが、地震と大津波が起こった日には多くの人が集まり、その時になったら黙とうが行われるという。


「こちらです」


 大家は慰霊碑を指さした。それを見て、岳弥は絶句した。


「これですか?」

「はい」


 2人は慰霊碑をの前で手を合わせた。そして今日、何事もなく平和に生きられるのを素晴らしいと思って生きていかないと。

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