第2話 3月20日

北陸地方の地方都市から特急に乗り数時間。

言葉がキツく五月蝿いイメージのある街に来てしまったが、私の心は晴れやかだった。


やっとあの家から出ていける。

仕事と周りからの評判にしか興味のない父親。

父からの愛情の飢えを私へのDVで埋める母親。

友人と結託し私を犯そうとした弟。

その全てから逃げられるんだ。こんなに心躍る事が他にあるだろうか。

あの家には何も残していかなかった。全て捨てた、掃除もした。

未練も思い出も一欠片も残してない。そんな顔で私は、あの町を捨て去った。



卒業前に彼は言った。「1年間は真剣に仕事に取り組みたいんだ。」

彼の仕事の厳しさを知っている私は頷き、そして夢見た。社会人になり成長した二人で今より輝いた幸せを手に入れるんだ。



新しい私の城は都市部から1時間ほど離れたところにあった。駅から徒歩15分、良く言えば自然が多いのどかな町(?)。

職場から用意してもらったアパートは広くない。壁は薄く、窓も一つしかない。

しかし、トイレから出る無関心な足跡も、リビングに響き渡る金切り声も、隣の部屋から聞こえる卑猥な音もない。

私の好きにできる城だ。

ここなら壊れた私も少しずつ治せるのかもしれない。


慎ましい幸せでいいんだ。

私を治し、少しばかりお金を貯め、彼と再会し、二人で暮らす。

明日から初めての仕事だ、そんな夢を見れたらいいな。

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