団地の章3:ついに引っ越し先が決定⁉

 それは、モデルルームを見に行った翌日のこと。T市にあるG団地のリノベーション物件を確保してもらったものの、未だ不安の残る私たちは、T市から離れ、T市の南の方に位置する地域の団地をいくつか見に行くことにした。そこいらの地域はかつてニュータウンと呼ばれた地域で、築56年のG団地よりかはまだ新しい団地もあるそうだ。

 とはいえネットでいい物件があるか調べたわけでもなく、見に行くといってもいくつか気になる団地をドライブがてら、どんな感じなのか外から見るだけのつもりだった。


 そんな中、なるべく綺麗な建物に住みたいと希望する妻の目すらも輝かせる団地が、突如として私たちの前に現れたのだ。


 それは白い壁に、ベランダだけ水色の配色をした、見た目が綺麗でかわいらしい感じの団地であった。ピックアップした団地のリストにもなく、ネット上では見つけられなかった団地だった。団地の入り口付近に看板があるので見てみると、「Y団地」という名前のようだ。

 早速Y団地で検索してみると、空き物件は15件程度でG団地ほど空いていなかったが、なんと、ちょうどよさげな2LDKの物件が一つだけあるではないか(他は3LDK以上のやや広い物件だった)!

 そのうえ外見通り築30年と比較的新しく、畳の部屋が一つあるが洋室もある。角部屋ではないが最上階の五階にあり、上からの騒音の心配はなさそうだ。それに最寄り駅まで徒歩15分と、今まで見た中では一番駅に近い団地の物件だった。


 なんとなくドライブだけしにきたつもりの私たちだったが、こんなにも希望条件に合った団地の物件は初めてだと、早速Y団地を管轄している、Y団地の最寄り駅にある営業所へと車を走らせた。

 すると今は空いている状態で、内見がすぐにできるとのこと。希望する物件の内見がすぐにできること自体が珍しいことだったので、私たちは感動しつつ、鍵をもらって早速見に行くことにした。

 今回も自分たちで直接現地へ赴くスタイルの内見だが、今度はじっくり見る時間をとれるようにと、最寄り駅から歩いて行くことにした。内見30分に現地までの往復の時間も含め、多めに見積もって一時間半後くらいに帰るように、と営業所の方に言われていた。道に迷ったりさえしなければ、十分にゆとりある内見ができそうだ。


 そのうえ物件のある現地までの道は一本道でわかりやすいだけでなく、思っていたよりも短く、Y団地までは15分弱で着いた。これならば五階の物件にたどり着くまで15分くらいだろう。家を出てから駅前まで15分……これから通勤をする身にとってはありがたいことこのうえない。


 で、実際にY団地を見てみた感想だが……今まで見た団地の中で圧倒的に雰囲気が良い! 敷地内は緑豊かで、道もレンガ造りのように舗装されている。そんな敷地の中には白と水色の配色の団地の建物が並んでおり、映えている。

 その上建物が最近壁を塗り直したのでは、と思うほどに綺麗だった。かつて事故物件の真上の物件に遭遇したD団地の方が築浅なのに、そこよりも綺麗とは。


 団地の管理状況というのは築年数よりも大事なようで、よく管理された団地は築年数が古くても意外と綺麗だということもあるらしい。そのため団地の外見はよく見ておくと良いらしいが、そこから考えるにこのY団地は、おそらく管理がしっかりなされている方なのではないだろうか。この時点で私は思わず期待してしまった。


 感動しつつも、希望する物件のある棟を探し出し、早速階段を上ってみる。階段はピカピカとまではいかないが、前に住んでいた築17年のアパートの階段くらいの綺麗さではある。G団地の階段よりも、広くて明るい感じの印象だった。


 そしていよいよ鍵を開け、室内へ。入ってまず驚いたのが、玄関の綺麗さだ。今まで住んでいたアパートとそう変わりのないおしゃれなデザインの玄関だったので驚いた(ただ、残念なことに靴箱はなかったが)。

 玄関の近くに窓もあり、陽の光が入って明るい印象の玄関になっている。壁にはコート掛け用と思われる突起があるのもポイントが高い。それから小さな窓だがちゃんと網戸もついている。どうやらここは網戸ありの物件らしい。網戸を全部の窓に買わねばならない心配もなさそうでひとまず安心した。

 

 そうして廊下を歩いて行く。廊下はフローリングで、踏み心地がややふわふわとしていた。下の階への騒音対策として、防音がしっかりなされている床のようだった。


 次に水回りフロアへ。洗面所が今のアパートに似ていて、鏡の裏にも収納ができる仕様になっている。トイレは温水洗浄便座はない簡易のものだが、G団地のものよりは広さがありそうだ。風呂はそこそこ広くて新しく、自動お湯張りと追い焚き機能も備わっているが、鏡や窓はなかった。そして洗濯機置き場は、ちゃんと風呂の横に備わっていた。


 それから洋室。六畳の広々とした空間だ。エアコンはないが、取付のできる穴や100V専用のエアコン用コンセントは備わっている(200Vのエアコンをつけたい場合は自分で費用を出して200V専用コンセントに改修工事してもらう必要があり、さらには出て行くときには元の100Vに戻す必要があるそうだ)。

 そして驚いたのが、洋室から外に出られる、ルーフバルコニーの存在だ。これはこの団地の最上階の物件についている特権らしい。広々としたバルコニーが付いていて、団地や街の景色を見下ろせる。手すりまで行くと隣の家のルーフバルコニーが見えてしまうのが難点だが(ちなみに隣の家は外で寛ぐのだろうか、バルコニーに椅子が置かれていた)ここで何か鉢で植物を育てたりすることもできそうだ。景色を見るのが好きな妻は、広々としたバルコニーに喜んでいるようだった。


 それから十二畳のリビング・ダイニングへ。今までで一番広い。キッチンはカウンターでなく壁際にあるが、ものすごく横に広いうえに、収納スペースの多さが半端ない! おまけに団地には珍しくコンロもついている。

 カウンターキッチンではないのが残念とは言っていたが、キッチンの広さと収納力には妻も喜んでいた。


 リビングにエアコンが一台設置されているのも高ポイントだ。十二畳用のエアコンなんて、買ったら二十万くらいはするだろう。工事費も入れたら結構な痛手になる。

 どうやらリビングやコンロがついているこの物件は「グレードアップ物件」というものに当たるらしく、普通の団地の物件にはついていないことが多いようなのだ。


 リビングからはルーフバルコニーとはまた別にベランダがあり、そこに繋がっている。ベランダも広々としていて、物干し棒をかけられる部分もあるし、隣が見えないようになっていて良い感じだ。それに、五階だからか景色が素晴らしかった。


 最後に和室へ。畳はピカピカの新品といった感じではなく使用感もあるが、まあそんなものか。この部屋には押入れがあり、収納はこことリビングにあるパントリーのような棚の二か所だけだった。物の多い我が家なのでいささか不安ではあるが、まあキッチンの収納スペースが大量にあるし、棚を置けるスペースは十分だから、必要であれば買うこともできるだろう。

 ただ、クローゼットがないので服を掛けられそうな場所はない。押入れに突っ張り棒みたいなものを使ったりして服を掛けるスペースを作ることもできるそうだが、長いコートなんかはそれでも押し入れ内にはかけられそうにないな。まあそれは外に服を掛けられるような家具を買うしかないか。


 最後に、騒音のチェックをしてみる。鉄筋コンクリートの建物内はどこかしんとしていて、やはり静かに感じる。どこからか多少ドアの音などは響いてはいたが、おそらくテレビの音や、人の喋り声までは聞こえないのではないだろうか。この団地は敷地内に公園もあり子供連れに人気そうなのだが、休日でも子供の声が響き渡っているといったこともなかった。

 壁を軽くたたいてみても中身が詰まっている感じがして、どっしりと頼もしい感じがする。今のアパートは叩いてみると本当に壁がすっからかんな感じだから、頼りないことこのうえない。コロナ後にできた建物のため、建材がケチられていていまひとつなのではないか、と妻は言っていたが、実際に騒音トラブルに合ってしまったのも、その壁の薄さが原因なのかもしれない。そう思うと鉄筋コンクリート造の建物というのは強くメリットを感じられた。


 内見の結果、ここは団地ではあるがお湯張り機能などのあるガス機器や、網戸、エアコン、コンロといったものも揃っていて、今まで住んでいたアパートとあまり違和感ない住み心地のような感じがした。安心感が半端ない。家賃も団地のわりにはそこそこするが今のアパートよりは一万円以上安くなるし、私たちの今までの生活から考えるに、ちょうどよい具合の団地の物件という感じがする。


 それならY団地に、と即決できそうなものだが、とはいえG団地の家賃の安さと、内装に関しては新築同然になり、某ブランドのリノベーション物件であるというのは大きな魅力であり、なかなかそちらもスッパリとは諦めきれない。よって、一日待ってから返事をすることにした。


 改めて考えてみると、Y団地の内装はいたって普通ではあるがおしゃれではないし、十分に綺麗だが新築のようにピカピカとまではいかず、よく見れば多少の使用感もあった。

 なので内装だけ見ればG団地の方がいいかもしれないが、そちらは間取りに古い箇所も残っているし、建物の古さへの懸念が残る。外見や団地の雰囲気はY団地の方が魅力的だ。そして最寄り駅まではY団地が圧倒的に近い(G団地は見た感じ、案外遠かった)。

 そしてY団地は内見も済ませている安心感が半端ない。G団地は内見できるのがまだまだ先なので、実際に見るまでは即決できないところがあった。


 早く安心できる我が家が欲しい状況でもあった私たちは、G団地の内見ができる3月14日までは到底待てないという結論に至り、Y団地を次の住処にすることを決定したのだった。


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