物件探しの章:内見できないなら外見を見よう
「騒音のない家」として私たちがまず思い浮かべたのが、ここに越して来る前に住んでいたアパートだ。
今のアパートと同じく軽量鉄骨で、築17年のアパートだったが、そのアパートは全四世帯しかなく、隣人の部屋との間には階段があり、隣の世帯と隣接いる面がかなり少ない構造のアパートだった。そのせいか、隣からはほとんど物音を聞いたことがない――――1LDKと狭くはあったが今になって思えば引っ越したことがもったいないくらい、とにかく快適で貴重な物件だったのだ。
そのため、そのような間取りのアパートをひたすら探したが……何しろ少ない。特に最近の物件には少ない形のようで、あっても築年数の古い物件が多く、そのような物件を妻に見せても、綺麗な住居に住みたい傾向のある妻はどうも納得していないようだった。
それでもなんとか築浅で隣と接していないという、理想的な条件の、K市という町にある二件のアパートの物件を見つけた私たちは、貴重な物件だから内見をせずに決めてもよいのではないか、という勢いでどちらかに決めようとしていた。
というのもどちらも前の人が出て行くまでの間、部屋の内見ができない物件だったのだ。内見できるのを待って実際に部屋を見てから決めたいのが本音だが、その間に他の人に決められないだろうか、というのをお互い恐れていた。
もうこんな条件の物件見つからないんだしどっちか決めちゃいなよと言う妻に対し、実家の隣町で二人ともわりとよく知っているK市とはいえ、家の周辺の様子すらわからないのだから、外見だけでも見に行こう、と私は妻を説得。そうして今住んでいるところからは少し遠いが、迷っている二つの物件の外見を見に行くため、車を走らせた。
しかし実際に行ってみると――――隣と接していない点と、築浅の綺麗な物件という点についてはクリアしているものの、その他の面で、色々と問題点が見つかってしまったのだ。
やはり、外見というか、家の周りの様子だけでも見に行った方がいい。今回、私はこれだけは声を大にして言いたい。
まず、K市についてもよく知っているつもりではいたが、実は駅の周辺は行ったことがなく、実際に行ってみると駅の周りは意外と
そしてK市の一つ目の物件は、駐車場がついていると書かれているにも関わらず、そのアパートまで行くのに、車が入れそうな道が見当たらなかったのだ。人が通れる細道ならあるのだが……運転に自信のある私ですら、そこを無理やり通る自信はなかったし、運転に自信のない妻は尚更嫌がっていたようだ。その物件は内見に行ける日が数日後ではあったのだが、見に行く予約をすることなくその物件については諦めることにした。
別の場所に駐車場だけ借りるという選択肢はあったのだが、せせっこましい道を通るだけあってごちゃごちゃとした家の密集した地帯にあるアパートのため、わざわざそれをするまでの魅力はどうにも感じられなかった。
そしてK市の二つ目の物件は、一つ目とは違いアパートへの道も車の通れる広さ十分で、そこに関しては問題がなかったのだが……
なにしろ駅から遠い! 徒歩13分という物件情報を信じてやってきたが、実際に駅からの道のりを見てみると、30分は歩くんじゃないかという距離だった。そこから会社に通うことになる予定の本人から言わせてもらうと、これでは到底毎日通えそうにない。まあ、自転車通勤すれば問題ないとも言えるが――――嘘まがいの物件情報を載せていることからも、どうも不信感を感じずにはいられなかった。
そしてその物件は、内見できるのが三月後半。つまり一か月以上待たねばならないのだ。まあ写真は多く掲載されていて、最悪見ずに決めても問題なさそうではあるが……。
とはいえ他に希望物件の候補もなかったため、K市二つ目のその物件は、とりあえず仲介業者に話だけ聞きに行ってみた。すると誰かがすでに話を進めているとのこと。やはり内見せずに決めようとする猛者は存在するようだ。まあこの引っ越しシーズン、そうでもしなきゃ決まらないよな。
一応その物件は、交渉中の人が取りやめたりして、空いたら連絡をくれるとの約束は取り付けた。しかしこんな調子で、家が決まるのはいつのことになるのやら。今住んでいるところがどうにも安らげない家であるだけに、早く引っ越ししたいのに。
やはり隣と接していない部屋で絞った物件探しは、しょせん無理があったか。仲介業者の話だと、角部屋だけでも人気ですぐ埋まってしまうらしいのに。これでは一生決まりそうにない。
そんな鬱々とした気分の中、その日はK市の隣町にある実家に泊まらせてもらう予定だったので家を訪ねつつ、騒音やら物件探しの話をしてみると、母親から、思いもかけなかった言葉が返ってきた。
「だったら団地で探してみたら? 団地の壁は鉄筋コンクリートだろうから、隣からの騒音も比較的マシなんじゃないかなぁ」
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