第12話 爽快

「なあ、いいだろ?」


「そうだよ、どうせ神野ってやつとももうやったんだろ?」


 職員室から帰っている途中、廊下の角からこんな声が聞こえてきた。俺は気になって少し近づいてみる。


「…やめてください」


 なゆが2人の男に絡まれていた。この光景を見た瞬間、堪忍袋の緒が切れた。俺は2人に近づくと片方の男の腕をつかむ。


「おいてめぇら、いったいどういう了見で人の女に手ぇだしてんだ?」


「ひっ」


「やべっ。早くいくぞ!」


 そういうと男らは速足でこの場を去った。そして俺は今起きたクズがゴミを脅すという世にも奇妙な状況に笑みをこぼす。


「あーくん、ありがと」


「おう、教室戻るぞ」




 教室に戻るとすぐに1時間目の授業が始まった。社会の授業だ。前では先生が抗日民族統一戦線がなんちゃらとか言っている。だが俺の頭は先ほどの出来事のことしか考えていない。今後なゆへのああいった絡みは増えていくだろう。まあそうなった原因を作ったのは俺たちなんだがそれでもなゆに被害がいくのは許せねぇ。なゆへの被害がなくなるいい方法ってなんだ?頭で必死に考えていると先生と目が合った。


「では神野、ポツダム宣言を受諾した日本は次の日に何をした?」


 うわっ、目合わせなきゃよかった。俺は立ちながら自分の記憶をたどり答えを考える。


「えっと、天皇自ら日本の敗戦を国民に知らせる玉音放送をしました」


「正解だ。座っていいぞ」


 俺は勉強ができないわけではないので先生の質問に答えるぐらいなら余裕だ。まあ自慢できるほど頭よくはないが。玉音放送ぐらいはわかる。ん?玉音、放送?

…それじゃん。

 その後も普通に授業は進んでいき2、3、4時間目まで問題なく終わった。



「あ、ああ、あ、これ聞こえてんのか?」


 俺は昼休憩の時間に放送室へと来ていた。何をするかは、まあ、わかるだろう?放送開始のスイッチを押し、隣の赤いランプが点灯したのを確認する。


「え~、こんにちは今学校中で騒がれているであろう神野明日翔です」


 学校中のざわめきが放送室まで届く。自分の声が聞こえていることを確認した俺は覚悟を決めて話し出す。


「皆さんも言いたいことはたくさんあるだろうけどまず俺の言葉を聞いてください。まず、俺が黒咲なゆのことを寝取ったのは本当です。」


 えぇ~という声が聞こえてくる。俺はまじめな雰囲気を出しながら話し続ける。


「要するに黒咲なゆは俺の女だということです。ということは、みなさんわかりますよね?まさかこの学校に人の女寝取るようなクズはいないでしょう。まあ、要するに俺の女だから手ぇだすなってことです。おわかりいただけましたでしょうか?そして最後に」


 俺は大きく息を吸ってから、1つ1つの言葉を噛みしめながら言う。


「なあ唯人、なゆはもう俺のもんだ」


 言い終わると俺は放送停止のスイッチを押す。そろそろ先生たちが駆けつけてくるだろう。俺は急いで放送室を出た。速足で教室に戻るとクラスメイト全員の視線が俺に向けられるのがわかる。だが話しかけてくる奴なんかいない。俺は席に座り、爽快感と優越感に浸った。








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