第10話 葛屑
俺は今まで自分は善良な人間だと思っていた。なゆを寝取ったのはなゆが誘ってきたからで自分は悪くない、そう心の奥で思い込んでいた。会長のスピーチで社会的地位を失ったことには虚脱感や喪失感を感じた。けどなゆを寝取ったことは後悔していないし反省など1度もしていない。これまでなゆに対して見せてきた心配も心配することで自分を善良だと思いたかったからしているだけだ。
俺、クズだなぁ。今までのことを振り返えるとそう認めざるを得ない。でも、なんでだろうか。俺はまだなゆのことが大好きだし諦めていない。というかここでなゆを諦めたら俺は俺じゃなくなってしまう気がする。俺の本質はクズなんだ。ならこれからはクズとしてクズらしく精一杯生きてやる。
なら手始めに、俺はなゆに
「わりぃ唯人、お前の彼女もらうわ」
俺はなゆの家に行くために支度を整える。わからないけど多分家にいるはずだ。家を出た俺はなゆの家のほうに走り出す。数分も走っていればもう家が見えてくる。到着した俺は1度深呼吸をした後インターホンを鳴らす。すると女の人の声が聞こえてきた。
「はーい。」
「神野明日翔です。なゆいますか?」
「あら明日翔君、どうぞ上がって。」
10秒ほど待つとガチャンと鍵が開く音がした。ノブに手をかけドアを開けるとなゆの母、響子さんが出迎えてくれる。
「いらっしゃい、久しぶりね。ちょっと背も伸びたかしら。」
「ええまあ少し。あっ、なゆは自室ですか?」
「ええそうよ。でも帰ってきてから1度も部屋を出ていないから、ついでに様子も見て来てくれる?」
「はい、わかりました。」
この感じだとあの件はまだ伝わっていないようだ。けどまあ会長があれだけ大きくいったのだから伝わるのも時間の問題だな。バレた時はどう謝るかな。そう考えながらなゆの自室に足を進める。部屋の前に来た俺は部屋をノックした。
「なゆー、いるか?」
何も返事が返ってこない。もう1度同じことをやってもダメだった。このままだと出てこないと思い俺はドアを開けることにする。
「なゆー、入るぞー。」
俺はドアを開けた。すると案の定なゆはベットの上で毛布にくるまっていた。数秒眺めてから毛布を剥ぎ取る。すると中には涙袋が赤くなり、髪はボサボサ、シワのできた制服をきているなゆが出てきた。
「……なにすんだよぉ。」
はっきり言ってめっちゃ庇護欲がそそる。
「んー、これからのこと話そうと思って。」
「…無理だよもう。学校には行けない。」
「なんで?」
「なんでって、…そりゃもう学校中にこのこと広まっちゃってるし。」
「だからどうした?」
「え?」
「ということはこれから堂々と2人で歩けるな。」
「え?え?」
あぁ、あたふたしてるとこも可愛いな。まじ全部が可愛い。
「あーくんどうしたの?なんか今日変だよ?」
「うーん、どちらかというと今の俺が本当の俺っていう感じかな?」
「そ、そうなんだ。」
「まあそれはどうでもいいんだ。それより明日もちゃんと学校行けるか?」
「それは、、」
「なあなゆ、なんで行きたくないんだ?」
「…周りから白い目で見られるし、」
「そりゃ俺たちはそれだけのことをしたからな。」
「けど、」
「けどじゃない。ていうかそんな奴ら無視しちまえ。な?俺も一緒に行くから。」
「う、うん。わかったよぉ。」
「よし。けどなゆには2つのルートがある。1つ目は俺と一緒にいるルート。2つ目は今すぐ俺と縁を切って唯人に土下座しに行くルートだ。まあ俺についてくるか唯人の方に行くかっていうことだ。どうする?」
ここでなゆが唯人の方を選んでも俺は止めない。俺には止める権利なんてないしなゆがそっちの方が幸せだと思うならそっちの方がいいからだ。
「あーくんについてく。」
「OK、でもなんでだ?」
「だってあーくんに初めてあげたんだから。」
「…ははっ」
やっぱりクズが愛する人間はクズなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます