第9話 怨嗟
「私は、逢川唯人が、好きだ。」
くそっ、なんでだよっ、なんで唯人が会長に好かれてんだよっ。会長がつい先刻全校集会で放った言葉が耳を離れない。はぁ、と一度ため息をついたあと救いを求めるかのように空を見上げる。全校集会の後クラスに戻ると俺はクラスのみんなに責められた。まあ誰がどう見てもあっちが正論だが。はぁ、俺ってこの先生きてていいことあんのかな?そんなことを考えていると屋上のドアがキィと音を立てて開いた。誰だ?ここは生徒立ち入り禁止だぞ?俺はその姿を確認するために後ろに振り返る。すると
「ここにいたか神野明日翔。私を知っているか?」
俺の頭から離れない言葉を放った張本人様だった。
「あなたがそれを言いますかね。」
「あぁ、確かにそうだな。」
よくわからない言い回しに少しイラッとしたが表情には出さない。
「それで?なんのご用件ですか?」
「わからないのか?」
「まあ大方予想はついてますが。」
「そうか。なら単刀直入にいう。金輪際、唯人に近づくな。そして傷つけるな。以上だ。」
あぁ、予想通りだけど面と向かって言われると少し傷つくな。というか内容も唯人の妹とほぼ同じだ。
「はい、わかってますよ。」
「ならいい。まあ実のところを言うと貴様のことは大嫌いだが感謝もしている。」
「は?」
「もともと彼女持ちだということで手も届かなかったあいつに近づくチャンスをくれたのだからな。では失礼する。」
どういうことだ?会長はもともと唯人のことが好きだったのか?で俺がなゆを寝とったから唯人がフリーになった。それを感謝しているということだろうか。
「……まあ今の状況はどう足掻いても変わんないし考えなくてもいっか。」
俺はまた空を仰ぐ。今日の朝と同じで俺の心情とは真逆のイラつくほど清々しい青だった。
それから数時間が経ち下校のチャイムが鳴った。俺は教室に人がいないことを確認してから俺は身支度を整え、終わったらすぐさま下校する。自宅までの道のりをほぼ何も考えずに歩いていると唯人の家の前に誰かいることに気づく。誰かと思い少し近づくと
「あれ、明日翔君じゃない。久しぶり。」
「えっ、ああ、お久しぶりです。」
唯人の母の夏江さんだった。なんだ?このかんじ、まだ母親に伝えてないのか?そうだったら普通にありがたいな。
「あっ、明日翔君、なゆちゃんのこと寝取ったんだって?」
全然そんなことなかった。まあ普通そうだよな。
「えっと、……そう、です、ね。」
「ふふっ、若気の至りね。私も大学時代の彼氏には浮気されまくってたわ。」
「そっ、そうなんですか。」
え、なんて返せばよかったんだ今の。すると夏江さんの雰囲気がガラッと冷たいものになるのを感じた。
「でもまあ唯人の親という立場から言うと、」
「はい?」
「人の彼女寝取るようなど畜生明日翔君、もう二度とうちの子に近づかないで。そして傷つけないで。」
「「…………」」
「じゃあね。」
そういうと夏江さんは家の中に入って行った。
自宅に帰ってきた俺はそのまま自分の部屋に行き、ベットに倒れ込んだ。
俺は黒咲なゆのことが好きだ。幼稚園の頃からずっと大好きだ。この思いの強さは誰よりも強い。けど今回悪いのは俺だ。俺は手順を間違えた。だから
俺は今、悪役だ。
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