第8話 含羞 side逢川唯人

「おほんっ、ではまず疑似カップルの概要について考えていこう。」


「わかりました。」


 これから疑似カップルとしてふるまうことになった僕らはその設定について考えていくことになった。


「最初は私たちの出会い方だ。これは矛盾点をなくすためにも公園で落ち込んでいた君を私が発見した、というのでいいと思う。」


 確かに矛盾点があると気づかれると疑似カップルだとばれてしまうかも知れないため真実を混ぜるのはいいと思う。そう考え僕は会長さんに了承の意を示す。


「次は互いの呼び方についてなのだが、どう思う?」


「どう思う、と聞かれても別にこのままでいいんじゃないですか?」


 特に変えなくても支障はないと思う。


「今の「君」と「会長さん」という呼び方だとなんか距離があるだろう。恋人とはもっと親密そうな呼び方をするもんだ。」


「そういうもんですか?」


「そういうもんだ。」


 少し会長さんの顔が赤くなっていることに気づく。もしかして会長さん呼びは嫌だったのだろうか。


「じゃあこれでいいですか凛さん。」


「ばっ、いきなり下の名前呼びだなんてっ、は、破廉恥はれんちじゃないか!」


「はぁ、じゃあ凛さん呼びやめますね。」


「そ、そうはいってないだろう。」


 なんなんだこの人は。


「じゃあ凛さんでいいですね。逆に凛さんは僕のことなんて呼ぶんですか?」


「う、うーんそうだな、唯人でいいか?」


「いいですよ。」


「なんで貴様は照れていないんだ!」


 んなむちゃくちゃな。ん?というか


「会長さっきのは照れてたんですか?」


「て、照れとらんわ!」


 なんとなくこの会長さん、じゃなくて凛さんの扱い方がわかってきた気がする。


「ここまで話してきて思ったんですけど凛さん僕のイメージとは全然違いますね。」


「ん?そうか?」


「はい。氷姫なんて呼ばれているんだからもっと怖くて喋らない人だと思っていました。」


 これは本当だ。というか学校では無言で冷徹な人だと聞いていた。だが今の凛さんはその真逆のように思える。


「まあ、それはここまで親しく話す異性なんて君と家族ぐらいだからな。」


「そうなんですか?」


 それはちょっと驚きだ。


「ああ、学校で話しかけてくるやつらのはだいたい無視か冷たく返している。」


「なんでですか?というかじゃあなんで僕とは普通に話してるんですか?」


「んー1つ目の質問は他人に興味がないからで2つ目は君が例外だからかな。はいっこの話はおしまいっ。次の設定考えるぞっ。」


 なんか無理やり話題を変えられた。とても気になるがしつこい男は嫌われると母が言っていたのでここは引き下がることにした。


「次考えるのは私たちがどこまで進んでいるかというのだ。」


「どういうことです?」


「だから恋のABCのどこまで進んでいるかということだよっ。」


 ああ、そういうことか。でもどこまで進んでいるのが一番いいのだろうか。


「まあ最後までいっているというのは流石に無いだろう。」


「そうですね。」


 もし最後までしたことになったら僕も彼女を失ってすぐに他に移ったクズになってしまう。


「最後までいってはないけどその一歩手前みたいな感じでいいんじゃないですか?」


「そうだな。ハグや同衾はもうしたていにしよう。私と唯人が親密なほどあいつら2人へのダメージもでかいだろうしな。」


 凛さんがだいぶ照れながら喋っている。この人異性を家にあげたことすらないと言っていたし、だいぶピュアなのかもしれない。

 その後も細かい設定を決めていって最後まで終わった頃には夜11時を過ぎていた。今日1日で色々なことがあり過ぎた僕は体に疲労が溜まっていた。今にも眠りこけてしまいそうだ。


「凛さん、今日ほんとに泊まっていっていいんですか?」


「ああもちろん。今日はというかいつも親は家にいないから全然大丈夫だ。」


 親いないほうが問題だが今の僕にはそれをつっこむ気力すらない。


「ありがとうございます。じゃあ僕どこで寝ればいいですか?」


「ん、ああここだ。」


「はい?どこです?」


「いや、だからここだって。」


 おかしい、僕の目にはどうしても先輩が自分のベットを指さしているように見えてしまう。あまりにも疲れて目に影響が出てしまったのだろうか。


「凛さん、僕今ちょっと目が疲れているようで。口頭で伝えてくれませんか?」


「この部屋にあるそこのベットだが?それより目が疲れているのか?大丈夫か?」


 僕の目は間違っていなかった。


「じゃあ凛さんはどこで寝るんですか?」


「私も同じベットで寝るが?」


「「…………」」


「凛さん、申し訳ないですがあなた馬鹿ですか?男女2人が同じベットで寝るなんてそれこそ破廉恥ですよ?」


「私たちはカップルじゃないか。」


「(偽)がつきますけどね。」


「そんなのどうでもいいじゃないか。」


「全然どうでも良くないですね。」


「まあ私たち同衾したことある設定だったしリアリティ出すためにもさ、ね?」


「凛さん、このためにその設定つけましたね?」


「はて?何のことだか。」


 はぁ、あの設定を許容した時点で僕の負けだったのだろう。今の僕は睡魔との戦いで劣勢なため凛さんに対抗する力が残っていない。しょうがなく僕はベットに入る。


「あまりくっつかないで下さいね。」


「それ普通は女の私が言うセリフなんだよな。」




 こうして僕の一生忘れないであろう1日の幕は閉じた。


 ああそうだ、これだけは言っておこう。

 凛さんのベットは心地よい甘ったるい香りがした。


 


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