第5話 絶望 side逢川唯人

「わかんないぃぃぃ~。なんだよ二元一次方程式って!」


「あぁ、これはXを移項してこれを代入すると、ほらできた!」


 僕は隣で嘆くなゆにわかるよう優しく教える。


「おぉぉぉーあったまいぃー!」


 そうすると彼女は僕をほめてくれる。自分がなゆの役に立てていると感じられてとてもうれしい。僕は今日、幼馴染のなゆと明日翔と一緒に夏休みの宿題をやっている。登校日まであと一週間ほどなので一気にやっちゃおうとなったのだ。そんな感じで宿題を4時間ほどやった後時計を見るともう帰らないといけない時間になっていた。


「じゃあ僕帰るね」


 そういうと明日翔が首をかしげて言ってくる。


「えっなんで?早くないか?」


「ほら、今日千紗の誕生日だからさ、早く帰ってお祝いしないといけないんだよ」


 今日は僕の妹、千紗の誕生日だ。千紗にも今日は早く帰ってきてねと念を押されているため早く帰らなければ機嫌を損ねてしまう。


「あっそうだったな。じゃあ俺たちも千紗ちゃんのことお祝いしたいんだけど」


「したーい!」


 明日翔となゆがそう言ってくれるのはとてもうれしい。だが


「ごめんっ、今日は家族で祝うって決まっててさ、明日必ず祝う場を用意するから」


 千紗に今日は家族で祝ってほしいといわれてしまっているため2人を連れていくことはできない。そういうと明日翔はなにか察したように引いてくれる。こういう細かい気遣いが明日翔のいいところだと思う。


「OK、そういうことね。じゃあ明日なんかプレゼント買って祝いに行くわ」


「ありがとう」


 僕はそういうと荷物を整理し、家を出た。このときふと胸騒ぎがしたが気にせず帰った。


 ほぼ自宅についたころ僕は鍵を出すためにバッグの中を探る。するとペンケースがないことに気づいた。


「あ~明日翔ん家に忘れたかな。」


 そう思い僕はもう1度明日翔の家に行くために歩き始めた。僕と明日翔の家の距離は歩いて8分ほどなので忘れ物を取りに行くぐらい何の問題もない。そのまま歩き、明日翔の家に着く。俺は筆箱をとるぐらいインターホンを鳴らさなくてもいいかと思い普通に開いていたドアを開ける。


「明日翔~筆箱忘れてたから撮りに来たんだけど~」


 少し大きめの声で言ったが何も反応がない。寝落ちた可能性もあると思い僕は明日翔の部屋に足をすすめる。ドアを開けようとドアノブに手をかけたその時僕は何かの声が聞こえていることに気づいた。ん?なんだこの声は?そう思い少し耳を澄まして聞いてみる。するとなゆの嬌声らしき声が聞こえてきた。


「…え?…なゆ?」


 僕の息が荒くあり、鼓動が早くなっているのがわかる。いや、まだなゆの声と確定したわけではないし、そもそもこれが嬌声でない可能性も十分にある。そう思いながら僕は音を立てないようドアノブを回し、静かに3cmほどドアを開ける。


「………あぁ、そうか、、」


 僕の目には、彼女が甲高い声をあげながら僕の親友の上で腰を振っている光景が映っていた。


「…はっ、、ははっ」


 僕は壊れたように少し笑うと無意識にスマホを取り出し録画した。





 その後僕は音をたてないように家を出て公園まで走った。公園につきそのど真ん中で僕は叫ぶ。


「ああああああああああああああああああああああっっっ


 なんでだよっ、どうして!


 俺が何か悪かったのかっ?


 そもそもいつからだよっ!くそっ」


 ひとしきり叫んだ僕は疲れてそのまま寝っ転がり空を見上げる。数分間星空を見ていると自分なんかちっぽけな存在なんだと思い始める。そんなちっぽけな人間1人いなくなった程度でこの世界は変わらない。


「あぁ死のうかな。」


 10分ほどそんな考えをしていると急に僕の視界に夜空の星にも負けないぐらいきれいな女性が映り込んできた。その女性は僕の顔をじっと見つめた後、話しかけてきた。


「君、逢川唯人君だよね?こんな公園のど真ん中でどうしたの?」





これが僕、逢川唯人と氷姫、七瀬凛の出会いだった。

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