第4話 虚脱
俺は席に着き、朝会が始まるのを待つ。数分ほどたったころ教室の前の扉が開いて担任の
「起立、気を付け、礼」
朝会が始まるとクラス中が静まりかえる。出席確認や今日の予定の確認などが終わり最後の先生からの報告となる。
「今日は4時間目に全校集会があるので3時間目終わったらすぐ整列するように」
全校集会があるのか、少し不安がよぎる。だが俺はあまり気にせず聞き流した。
「気を付け、礼」
「ありがとうございました。」
気づくと朝会が終わっていた。俺はこの夏休み前と変わらない日常にひそかに感動していた。夏休みにいろいろありすぎだったのだ。
10分ほどの休憩があった後すぐに1時間目の授業が始まった。1時間目は学活の時間で、夏休み中の宿題などを回収をした。あの日から俺は部屋に閉じこもっていたため、宿題はすべて終わらせてある。そのため何の問題もなくこの時間は終わった。2時間目は体育だった。俺は運動音痴というわけではないのでここも問題なく終わる。そして3時間目は国語だった。終わっている。体育からの国語というコンボに負けた人たちは1人、また1人と夢の世界へ旅立っていく。最終的に生きのこったのはクラスの3分の1ほどだった。この英雄たちは必ず後世へ語り継がれるだろう。
といったふうに俺は久しぶりの学校を楽しんでいた。俺が楽しんでいいのか、唯人は今どうなのかなど考えるべきことは多くあるけど、俺は、楽な方に逃げていた。
4時間目、全校集会が行われる体育館へ行くため廊下に整列する。前のクラスがどんどん動き出し、ついに俺らのクラスも歩き始める。すると前方になゆの姿が見えた。なゆは友達と談笑していた。よかった、ちゃんとなゆも楽しそうだ。俺はそう思いさらに気が楽になる。体育館につき、全体に敷き詰められているパイプ椅子に腰を掛ける。
「はぁ~つまんねぇよな、全校集会って。どこに意味あるんだよ。」
「まあ確かに。でもこんなこと言っても何も変わんないんだから。」
「そうだけどさ、あっ、そういや1組に転校生が来るらしいぞ。それもピアノでめっちゃすごい人が。」
「へぇそうなんだ」
「興味なさそうだな。」
隣に座っている英俊と全校集会が始まるまで喋っておく。中高生の会話の最初は愚痴から始まることが多い気がするんだがどうしてだろうか。
「皆さんお静かに、これから全校集会を始めます。」
またどうでもいいことを考えていると全校集会が始まった。
「まずは校長先生からのお話です。」
「えぇ~みなさん、夏休みは元気に過ごせたでしょうか。また、規則正しく過ごせたでしょうか。そこをもう一度心の中で振り返ってみてください。これで終わります。」
うちの校長は神だった。こういったスピーチで長くても1分ほどしかしゃべらないのだ。全校集会はどんどん進んでいく。もう終盤に差し掛かってきた。おし、もう大丈夫だろう。朝会の際によぎった不安が気がかりだったが無駄な心配だったようだ。そう、俺は盛大なフラグを立ててしまった。
「次に生徒会長からの言葉です。生徒会長の七瀬凛さんお願いします。」
背筋が一瞬にして凍り付いた。顔の筋肉が固まっているのがわかる。そうだ、そうじゃねえか。唯人の隣を歩いてたのは誰だ?生徒会長だろ。額に冷や汗がでてくる。頼む、変なこと言わないでくれ。すると生徒会長がいつもの倍ぐらいの声を出してしゃべりだす。
「私は、逢川唯人のことが、好きだ。」
あぁ、終わった。生徒会長の言葉に生徒たちはざわめく。生徒会長は大きく息を吸ってからもう一度話し始める。
「私は、唯人がこの学校に入ってきたときあることがあり好きになった。けど、唯人には彼女がいて手は出せなかった。そうだよなぁ黒埼なゆ。私はこの恋をあきらめようと思った。さすがに彼女もちの男には手を出せない。けどな、チャンスを作ってくれた男がいるんだよ。それに関しては感謝しないとな、神野明日翔。」
ほぼすべての人からの視線が俺に集まるのがわかる。ふとなゆのほうを見ると青ざめた顔をしていた。
「お前は、彼氏持ちの、黒崎なゆに手を出した。お前は、唯人を裏切った。お前にどんな考えがあったかはわからない。けどてめぇそれで唯人がどれだけ傷ついたと思う?唯人は自殺まで考えてたんだぞ、お前に、人間一人の命の責任取れんのか?
まあ私にとってはお前は叶わない恋を叶えてくれた恩人だがな。」
「ち、ちょっと七瀬さん、すいませんこれで全校集会を終わります。各自教室に戻ってください。」
進行役が場の混乱を感じ、急遽全校集会を終わらせる。
俺はどこから間違えたんだろうか?なゆに手を出したときか?それともなゆに恋をした幼稚園のときか?まぁわかったこともある。罪は償わないといけない。それが罪を犯した者の義務なのだ。俺は純愛のつもりだった。けど周りの人から見て不純ならそれは不純になる。
今の俺は絶望や悲観の感情はなく、ただただ虚脱感に覆われていた。
俺は無心で教室に帰ろうとする。帰る最中にも多くの人から視線を向けられる。軽蔑、憎悪、興味、嫉妬、好奇。それぞれがそれぞれの感情を持って俺を見る。それらを無視して教室につき、席に座る。クラスの奴らは様子見とでもいうように俺のほうをただ見つめてくる。そうすると英俊が近づいてきた。
「おい、あれは本当か?」
英俊はまるで信じたくないかのように、でもはっきりとした声で問いかけてくる。
「会長のあの話は本当なのかって聞いてんだよ!」
「……本当だよ。」
俺の言葉を聞くと英俊は顔をゆがめた。
「なんか重大な理由があったとか?」
俺はゆっくり強雨室から出ていく
「じゃあ唯人がくそ彼氏だったとか?」
また俺は首を横に振る。
「…なんでだよっ、お前らいっつも仲良さそうだったじゃねえか!」
「…あぁ、そうだな。」
「じゃあなんで人の女に手ぇ出すなんか真似したんだよ!」
「……………」
「…そうか、お前はそういうやつなのか、知らなかったよ。もう二度と話しかけてくんじゃねぇ」
そう言うと英俊は教室から出ていく。クラスの連中は英俊の言葉を皮切りに俺に罵声を浴びせてくる。
「えっあいつ女寝取ったの?」
「クソ野郎じゃん。」
「黒埼って隣のクラスの女子だよね?」
「さいてー」
「女の敵じゃん」
この時の俺の感情は誰にもわからないと思う。
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※七瀬凛の「凛」が「凜」になっていたため修正しました。申し訳ございません。
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