第20話 二ヶ月がたちました…途中カイル視点
カイル達が遠征に行ってから、すでに二ヶ月がたった。頑張って一ヶ月半で帰ると言っていたカイルは戻らず、カイルが予定していた二ヶ月を迎えた。
僕は王宮で従者のような仕事をしつつ、アーノルド殿下とたまにお茶をし、夜はアーノルド殿下から借りている貴宏・木村日記を読み込んでいた。
そこで気がついたことがあった。
木村(僕の先輩異世界人)が体調を崩すと、その数日後にミシェル(木村のパートナー)が怪我もしくは病気になるのだ。
小さい物は木村が胃痛を訴えた三日後、ミシェルが捻挫をした。最初はなんの関係もないように思えたけれど木村が寝込むくらい体調を崩した時、ミシェルは複雑骨折していた。
最後は木村が倒れ、ミシェルは角材の下敷きになって死んだ。
他にも、この二人には色んな不思議があったらしい。それは、アーノルド殿下の計らいで、彼らの孫に面会して話が聞けたからわかったことで、二人はお互いの居場所がわかっていたようだとか、口に出して会話していないのに二人の間では会話が成立していたとか。
で!
もちろん僕も試してみたよ。そうしたら、なんとなくだけどカイルはこっち方向にいるんじゃないかって予想できた。しかも、この世界の地理なんか知らないから、どっちに海があるかなんてこともわからないのに、アバウトに方角が合っていたらしい。凄くない?
でも、テレパシーは駄目だった。なにが足りないんだろう?ぶっちゃけ……体の関係かな。身も心も繋がって初めて、テレパシーも繋がる的な?
そんな、カイルが遠征に行ってから二ヶ月たったある日、僕は激しい頭痛に襲われた。
今まで二十年生きてきた中で、一番の激痛。あまりの頭痛で嘔吐しちゃうとか、これ、死んじゃうやつじゃないの?まだ二十歳なのに。
もしかしてこれって……。
「カツキ!!」
僕が倒れたという知らせを受けたのか、アーノルド殿下が部屋に飛び込んできた。
「……殿下」
「そのまま」
なるべく頭を動かさないようにして体を起こすと、アーノルド殿下が背中のところに枕を入れて座りやすくしてくれた。
「アーノルド殿下、僕をカイルのところに連れて行ってください」
「何を言ってるんだ!安静にしてなきゃいけないと、侍医が言っていたと聞いた。こちらの世界に来る時に転落した後遺症で、頭を強く打っている可能性があり、それで脳内に出血があるんじゃないかって」
「僕がこっちにきてから一年近くたちますよ。それは今更じゃないかな」
「しかし……」
僕は貴宏・木村日記を読んで得た仮説をアーノルド殿下に話した。
「じゃあ、カツキの不調はグリーンヒル騎士爵に危険が迫っているということか?」
「はい。しかも、こんなに酷い状態ということは、カイルの危険もかなり重篤なんじゃないかって。数日の誤差かあるのは、パートナーの危険を回避しろってことなんじゃないかと思うんだ」
「……神の意思ということか?」
「神様なんか知ったこっちゃないけど、僕をこの世界に引っ張り込んだ誰かだよね」
アーノルド殿下は、僕の話を吟味するように黙り込み、そして徐ろに口を開いた。
「わかった。君を騎士団駐屯地に連れて行こう。ただし、侍医を同行させて、彼の意見には従ってもらう」
「できる限り約束するよ」
できないことは無理だもんな。とにかく、一分一秒も惜しい。もし僕が向かっている最中に……なんて考えたら、今からでも走り出したいくらいだったから。
★★★カイル視点
半月で帰ろうと心に決めて、すでに二ヶ月が過ぎてしまった。
海賊には拠点がなく神出鬼没の為、奴らの情報を仕入れてすぐに追撃するものの、すでに逃走して姿形がなかったり、海賊船が見えたとしても、遥か水平線に見えるくらい離脱した後だったりして、なかなか捕まえることができずにいた。
陸の上だったら、どんなに距離があっても、俺の愛馬で猛追することも可能なんだが、海の上は勝手が違い過ぎた。戦闘にさえ持っていければ捕縛できる自信はあるのだが、尻尾さえ捕まえられない今の状況では、ただ無駄に時間と労力を使用しているだけだった。
「カツキに会いたい」
まさか、カツキが俺との触れ合い不足に悩んでいたとは思いもしなかった。異性と恋愛をしてきたカツキだったから、この世界での居場所作りの為に俺と婚約したに過ぎないと思っていた。例え触れ合うことができなくても、カツキの一番近くにいられる存在であるのなら、それでも良いと、自分の欲求は抑え込んでいたんだ。それが、まさかカツキの方からスキンシップを求めてきてくれて、しかもキスまで許してくれるなんて!
まさか、俺の妄想じゃないよな?
「団長!海賊達の最新情報が入りました!」
カツキのことを考えている時、部下が港にある簡易の騎士団駐屯所に飛び込んできた。彼の手には伝書鳩が運んできた通信文があり、それは海賊に潜入している部下からの情報だった。
暗号文を解読すると、次の海賊のターゲットと、海賊行為を予定している場所、逃走経路が簡潔に書いてあった。
「よし!出港準備だ!」
俺はこの時、海賊討伐を急ぐあまり、いつもならば見過ごさないことを見過ごしていた。
★★★
アーノルド殿下が用意してくれた馬車は、振動も少ない上、十分に横になって乗れるくらい大きなもので、御者と馬を交代しながらノンストップで港までたどり着いた。
単騎でも通常ならば五日はかかる距離を、昼夜かまわず走り続け、たった二日半でついたのだ。僕だけではなく、アーノルド殿下もついてきてくれたからできた暴挙だったのだが、さすがに心労は半端なく、風呂にも入っていない為、馬車を下りた時はかなりヨレヨレな様子だった。
それでもアーノルド殿下に支えられつつ、騎士団の駐屯所へ足を運ぶと、見慣れた騎士達がざわついているところだった。
「カイルは?みんな、カイルはどこだ?!」
「カツキ?なんでここに?」
よく話をしていた騎士が僕に気がついて走り寄ってきてくれたが、僕の横にいるのがアーノルド殿下だと気付き、急ブレーキをかけて止まると騎士の敬礼をした。
「アーノルド殿下にご挨拶申し上げます」
「挨拶はいい。グリーンヒル騎士爵はどこだ?君達は何を騒いでいる」
騎士は直立不動のまま答える。
「団長は昨晩、先陣をきって海賊討伐に向かいました」
「昨晩……」
間に合わなかったのか?
僕がヘナヘナと座り込みそうになると、アーノルド殿下が腕をつかんで支えてくれた。
昨晩、海賊船出没の情報を受けたカイルは、出港できる戦船一隻に乗り込み、討伐に向かったらしいのだ。他の戦船はまだ準備が整わず、急いで漕ぎ手を補充し、やっと出港準備が整い、まさに今出港しようとしていたところ、カイルの乗った戦船が海賊と接触、戦闘中との報告が届いたらしいのだ。
「ただいまから戦船五隻、出港いたします」
「僕も行く!」
「いや、それは……」
騎士がアーノルド殿下に視線を送る。この場で一番位が高いのはアーノルド殿下で、アーノルド殿下の指示を待つつもりのようだ。カイルの婚約者である僕を戦船になんか乗せたら、後でカイルの逆鱗に触れると思ったんだろう。
「戦闘は移動するだろう。僕がいればカイルのいる位置がわかる」
「……では、僕も同行しよう。ただし、僕達が乗るのは最後尾の補給船だ。海賊からの攻撃などがあれば、すぐに撤退する。いいね、カツキ」
行けないよりはマシだと、僕は頷く。
こうして僕は、休むことなく今度は船に乗り込んだのだった。
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