第10話 模擬トーナメント戦に向けて…カイル視点、後に翔月視線
「団長、最近なんか悩んでます?」
いつにもまして、眉間の深い皺を見た副団長のルカが、俺の顔をジッと見ていた。
アーノルド殿下といいルカといい、なんだって俺の周りは……というかカツキの周りにはいい男揃っているんだ。カツキが俺に目を向けなくても、そりゃしょうがないよな。
深いため息とともに、ネガティブな発想に囚われる。
「いや、王家主宰の夜会のことで少しな」
毎年行われる王配の誕生日夜会、パートナーのいない俺は、毎年参加はせずに警護に回っていた。もちろん今年もそうする予定ではあるが、騎士の配備について毎年頭を悩ませているのは本当なので、丁度良い言い訳として口から出てきた。
本当は、最近カツキと視線が合わないことで猛烈に悩んでいた。しかも、話しかけても早々に立ち去ってしまう。最初は気のせいかとも思ったが、日を追う毎にそれが顕著になり、今じゃ挨拶くらいしかしない。
何か嫌われることをしたか?カツキは異世界人だから、もしかしたら人の考えていることがわかったりするのか?俺の妄想がだだ漏れだったとしたら……死んでしまいたい。
こんなゴツイおっさんにあんなことやこんなことを妄想されているとか、そりゃ気持ち悪いに決まっている。でも、俺には煩悩を抑え込めるだけの鋼の精神力があり、決してカツキにいかがわしい振る舞いはしないと……いや、最初にキスなんかかましてしまったから、説得力はないのか。
俺が一人で悶えたり落胆したりしている様子を、ルカは不憫そうな面持ちで見ていた。
「団長、夜会の前に模擬トーナメント戦がありますけど、トーナメント表ができたようなので見て貰えますか」
「ああ、うん。置いておいてくれ」
ルカはトーナメント表を机に置くが、俺はそんな表よりも頭の中はカツキのことでいっぱいだった。
半年に一回行われる騎士団全体の模擬トーナメント戦。一般参観もあり、王都でもイベントの一つになっている。もちろん、一年に一回ある剣術大会には劣るが、それを想定した試合になっており、この模擬試合で上位に入った者が剣術大会でも優勝する確率が高い。
エキシビションとして、三人の団長、副団長達の模擬戦もあり、その闘神のような戦いぶりに、観客は盛り上がるのであった。また、団長達はいずれも剣術大会では殿堂入りしている為、彼らの戦いぶりを直に見られるのはこの模擬トーナメント試合しかなかった。
「団長の相手は、ライオネル・ホーク第二騎士団団長ですよ。ちゃんと表を見てくださいね」
ホーク団長は、俺よりも十歳年上で、ちょうど俺が剣術大会に出場した年に殿堂入りを果たした為に、剣術大会では剣を合わせたことはなかった。ホーク団長が第二騎士団団長になって十年、模擬戦では二回戦ったことがあるが、俺以上に筋肉質なパワータイプのファイターで、なんでも力で押し切り、戦略などは完全に無視する為、脳みそまで筋肉でできているんじゃないかと言われていた。
ゴッツゴツの傭兵のような見た目で、実は実家は侯爵家、本人は伯爵位を持っているのだが、誰も彼を高位貴族とは思わないだろう。
「ああ」
「二戦一勝一引き分けのホーク団長ですよ。大丈夫ですか?」
「ああ」
「模擬戦の後は短期間ですけれど、団長にもモテ期がくるじゃないですか。戦っている団長は無茶苦茶かっこいいですから。カツキにかっこいい団長の姿を見せるチャンスですよ。気を引き締めて頑張らないと」
「カツキにかっこいい姿を見せる……」
確かに模擬戦の後は、ほんの数日ではあるが街を歩くだけでキャーキャー野太い声が上がる。決して近寄ってはこないのだが、遠くから手を振られたりもする。
なぜそのモテ期が長く続かないのか……。ルカいわく、顔が怖過ぎるからだそうだ。笑って手を振り返してみたものの、その笑顔がホラーだと言われた。実際に、手を振り返した相手が走って逃げ出したこと多数だったから、ルカの言うことが正しかったんだろう。そして、なるべく笑わず平常心でやり過ごすようにしたら、モテ期なぞ一瞬で過ぎ去って行くのだ。
「そうですよ。団長のかっこいい勇姿に惚れちゃうかもしれませんよ」
「惚れ……」
俺は勢いよく立ち上がった。
「団長、どこに行くんですか?!」
「鍛錬!!」
俺はドタバタと走って執務室を出て行き、執務室に残されたルカはため息をついた。
「あの人、あんなにわかりやすくて可愛いのに、なんで恋人ができないかな」
絶対に負けられない!
その日から模擬トーナメント戦がある日まで、カツキとの関係は変わらずだったけれど、カツキに惚れてもらう為に、寝る間も惜しんで鍛錬を続けた。模擬戦当日には、今までの中でも最高にバッキバキの体に仕上げて、パワー、スピード共にワンランクアップし、気合い漲り試合に挑んだのだった。
★★★
「カツキ、賭けにのらないか」
「賭け?なんの?」
調理場で洗い物をしていた時、最近よく話すようになった若手の騎士達が、食堂で何やら騒いでいた。何をしているのか顔を出して覗いたところ、何かの表に書き込みをしていた。
「今度の模擬トーナメント戦で誰が勝つか。あとは、副団長戦と団長戦の模擬戦の勝敗を賭けてんだ」
「なんのトーナメント?」
「そりゃ剣術だよ」
剣道のトーナメントみたいな感じかな?
「鎧つけて模擬刀で戦うの?」
「いや、鎧はつけない。動きが鈍くなるから。剣も、刃は潰すけど一応本物を使うから、下手すりゃ骨が折れるし、当たりどころが悪けりゃ死人が出るな」
「本当に?!なんだよそれ、危ないじゃんか」
「そうならないように、日頃鍛錬を積んでるんだ。それに、派手な動きの方が観客も喜ぶし、客が沢山入れば、収益も上がるからな」
「観客?」
「ああ。王都中の人間が集まるぜ。お祭りみたいになるんだ。そんで、見学料は騎士団の運営費用になるし、周りに出店が出るから、王都の経済も回るって訳だ。王都の外からも見物客がくっから、宿屋も儲かるって寸法よ」
模擬戦で生死を賭けるのはどうかと思うけれど、お祭りは楽しそうだ。屋台とか見て周りたいけれど、一人で行くのは反対されるかな?でも、カイルを誘うのもなんだか気まずいんだよな。
実はここ数日、まともにカイルと顔を合わせてない……というか、合わせるとつい視線がカイルの分厚い胸板とか、引き締まったお腹とかにいっちゃって、つい先日見てしまったカイルの裸を思い出して、どうにも居た堪れないんだ。
男の裸を思い出してドキドキしちゃうとか、まじ、僕の頭どうなっちゃったのかな?いや、この世界ではこれが普通?世界が変わったから、考え方まで変わったってこと?
「カツキは田舎から出てきたんだな。騎士団の模擬トーナメント戦も知らないんならさ」
「あ……うん。そうだね。ここからはかなり遠くから来たかな」
「ああ、だから顔立ちとか少し違うのか。最初は子供が出稼ぎにきたのかと思ったもんな」
「酷え」
「俺は団長の隠し子かと思ったぜ」
「団長の遺伝子行方不明じゃねぇか」
「確かに!あの顔からこんな可愛い子供が生まれたら、それこそ奇跡だよな」
みんな好き勝手に言う。
カイルの隠し子なら、僕はカイルが十五歳の時の子供じゃん。って、ありか?僕の初体験十四だもんな。
「それで、賭けはどうなったんだよ」
「ああ、賭けな。一番倍率が高いのはトーナメント試合だな。これは大番狂わせがある場合があるから、下手すりゃ大穴が出る可能性大。副団長戦は固いな。うちの副団長、あんな見た目しといて負け知らずだから。大体実力通りの結果になる」
「団長戦は?」
カイルは、第二騎士団の団長と戦うようだ。戦績が書いてあったが、カイルの一勝一引き分けだった。
「総団長と第一団長はまぁいい年だし、ここは模擬戦っていうよりは演舞に近いな。毎回この二人と当たると引き分けになる。ガチ試合をするのは第二のホーク団長とうちらの団長が当たった時だけだな。五年前は引き分け、一昨年は剣が折れるまで戦って、折れた剣がホーク団長に刺さってグリーンヒル団長が勝ったな」
剣が刺さる?!それって危な過ぎるだろ!
「二人共、剣術大会で殿堂入りしたレジェンドだから、どっちが勝ってもおかしくないよな。ホーク団長は、今回は絶対に負けないって、剣も刺さらない鋼鉄の筋肉に鍛え上げたらしいぜ」
「それならグリーンヒル団長だって、鬼みたいな顔で鍛錬してたぜ。剣圧で丸太斬ってたし」
二人共化け物かな?
「で、カツキはトーナメント、団長戦、どっちに賭ける?どっちももありだぜ」
「そりゃ、断然カイルかな」
ホーク団長とやらは会ったこともないし、やっぱりカイルに勝って欲しいよね。今は微妙に顔を合わせにくいけれど、大声出してカイルの応援したら、変な気分も吹っ飛ぶような気もするしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます