第3話 いきなりプロポーズ?!

「それで、状況を説明して欲しいんだが。いや、思い出すのが辛ければ無理には聞かないが、一応騎士団団長として、犯罪を見逃すことはできないというか……」


 キシダン団長?応援団長みたいなものかな?いや、大学にも応援団はあるけど、学生には見えないな、この人。犯罪を見逃せないって、地区の自衛団かもしれない。外人さんで強面だから、団長に選ばれたのかもしれないな。


 こんなに厳つい顔なのに、全く怖く思えないのは、助けてくれた恩人だからというだけでなく、カイルさんが心底僕のことを心配しているってことが、その視線や口調からわかるからだった。


「状況……ですか?ちょっと足を滑らせて落ちたというか」


 セフレの女子に歩道橋から突き落とされたってのが全部だけれど、それを言ってしまうとアイちゃんが犯罪者になってしまうんじゃないか?

 さすがに犯罪者にしてしまうのは可哀想だ。打ち所が悪かったら死んでいたかもしれないけれど、まぁなんとか無事だった訳だしな。


「落ちた?あそこ(廃工場の壁)から?」

「はい。一人で落ちました。僕の過失です」

「つまり、誰かに襲われたとかではないということか?」

「はい」


 カイルさんは、明らかにホッとしたような表情になる。まさか、男の僕がレイプされたんじゃないかって心配していたなんて考えもしなかったから、事件に巻き込まれなかったことに安堵したのかと思った。


「それにしても、なんであんなところ(壁の上)に?」

「帰り道なんで」

「帰り道?あそこ(廃工場の壁)を通るのがか?」

「はい。下(歩道)を歩くと遠回りなんで」


 少し行けば信号のある横断歩道はあるけれど、遠回りになるから歩道橋を渡ったんだという意味で言ったのだが、僕が倒れていた場所には歩道橋なんかなく、廃工場の壁があるだけの行き止まりだったなんてこと、この時の僕は知りもしなかった。


 カイルさんは首を傾げるが、とりあえずは事件ではなく事故だとわかったからか、僕が怪我をした経緯に触れるのは止め、僕が気絶していた間にした治療について話してくれた。


「そうか、まぁあまり無茶をするなよ。倒れているカツキを見つけた俺は、キシダン診療所に連れて行ったんだ。そこで、切れていた頭を数針縫ってもらい、顔と手の擦り傷には薬を塗ってもらったよ。他には全身打撲があるって医者が言っていたが、動かない場所や、痛みが酷いところはないか?」


 強面がヘニョっと歪み、心配してますというのを全面に押し出されてしまうと、ちょっと……いやかなり動かすのも痛いけれど、無理して平気なふりをしてしまう。


「全っ然、大丈夫です。骨折も捻挫もしてないですから。それより僕、頭を縫ったんですか?」


 頭を縫ったってことは、まさか丸坊主にされたとか?!歩道橋の一番上から落ちたにしては軽症なんだろうけど、坊主は勘弁して欲しい!


 僕は慌てて頭に手をやった。


 頭には包帯が巻かれていたが、髪の毛はあるようだった。それか、傷のとこだけ禿げにしたとか?髪の毛で隠れる場所ならいいんだけど……。


「あの、手鏡とか借りれます?できれば二枚」

「鏡は持ち合わせていないな。洗面台に鏡はついているが」

「見ていいですか?」

「ああ、こっちだ」


 ベッドから下りようとすると、カイルさんが手を差し出してくれた。体も痛かったし、掴まって立ち上がると、カイルさんは僕の腰を支えて歩き出した。

 横に並ぶと、カイルさんはバスケの選手くらい背が高かった。僕が175センチあるから、2メートルはあると思う。胸板は僕の2倍はありそうだ。


「あの、スポーツとかしてるんですか?」

「スポーツ?いや、仕事で鍛えているだけだ」

「凄い胸筋ですね。なんの仕事ですか?」

「騎士だ」

「棋士?まあ、長時間勝負するには体力も必要なのかな?」


 この筋肉の重量で、長時間正座をするのは厳しくないのかな?それとも、将棋って正座してするもんだと思っていたけど、胡座とかもOKだったのかな?


 僕は、「キシ」間違いをしていた。


「まあ、騎士には体力が絶対条件だな」

「へえ……。知らなかったです」


 手を伸ばしてカイルさんの胸に触ると、カイルさんが真っ赤になって硬直してしまった。


「あ、すみません。あんまりに凄い筋肉だったから」

「いや、いい。俺のは好きに触ってくれてもかまわないが、他の奴には止めた方がいいだろう。勘違いする奴がでるだろうから」


 勘違い?何を?


 カイルさんはぎこちなく歩き出し、部屋の中に備え付けの洗面台まで連れてきてくれ、ついでに部屋の説明をしてくれた。ここは寮の一室で、カイルさんは一人部屋なんだそうだ。部屋にはシャワールームとトイレが完備で、後は洋服を入れる箪笥とベッドが一つ、小さな机と椅子があるだけだった。


「もしかして、僕がベッド占領しちゃったから、昨日カイルさんは眠れなかったんじゃないですか?」

「いや、俺はどこでも眠れるから大丈夫だ」


 僕は鏡の前で傷を確認しようとし、包帯に手をかけたらカイルさんに止められた。


「まだ外さない方がいい」

「でも、禿げになってないか確認したくて」

「大丈夫だ。縫いはしたが、髪の毛は剃っていなかったぞ。傷口もそんなに大きくなかったから、髪の毛で隠れるだろう」

「なら良かった。禿げてたら泣いちゃってましたよ。全部剃ったら似合わないし」


 カイルさんならばスキンヘッドも似合いそうだが、僕の顔じゃただの野球少年のようになってしまうだろう。


「……どんな髪型も似合うと思うが」


 僕の目をジッと見つめながらボソリと呟くカイルさんは、なんか無茶苦茶渋くて、僕が女子だったら口説かれてるんじゃないかってドキドキしたと思う。女子じゃなくても、ちょっとドキッとしたし。


 なんかさ、赤い瞳ってアニメ以外では初めて見たけど、宝石みたいで凄く綺麗だと思った。顔付きも、ギリシャ神話の彫刻みたいに彫りが深くて整っているし、無精髭がこれだけ似合う男って、ワイルド?ダンディ?とにかく無茶苦茶かっこ良くないか?


 男が見てもかっこ良い男……だからドキッとしてもしょうがないよな。


「どうした?なんか顔が赤いが、もしかして打撲が原因で熱でも出たか?」


 あの綺麗な赤い瞳が近付いてきて、自分でもわかるくらい顔が熱くなった。


「いや、熱いだけだし、熱はないから。もう……近いって」

「あ、悪い」


 カイルさんの胸を押して遠ざけると、僕はシャツの襟首のところをパタパタさせ、顔の赤みを引かせようとした。


「こら、はしたないぞ」

「そりゃ、僕はカイルさんのに比べたら貧弱な胸筋だけどね、女子じゃあるまいし、見えたってどうってことないだろ」

「カイルでいい。さんは付けはムズムズする」

「カイルがいいなら、それでいいけどさ、カイルのがかなり年上だよね。僕は二十歳だけど、ちなみにカイルは?」

「二十歳……。俺は三十五だ」


 何故かカイルさんは僕の年齢を聞いて落ち込んでしまったようで、いっきに表情が曇ってしまった。


 こんな大きななりをして、年齢を気にするとか、繊細過ぎないか?それとも、僕が無神経過ぎた?


「あ、あの!男の魅力は三十過ぎてからって聞いたことあるし、カイルは三十五って言っても、全然オヤジ臭さがないよね。逆にかっこ良いっていうか、大人の男って感じがする」

「かっこ良い?俺が?」


 カイルさん改めカイルのシオッとした表情は、ギャップ萌えというか、見た目厳つい強面の弱々しい表情とか、可愛いとか思ってしまった僕の目は、どこかおかしくなってしまったんだろうか?!


「うん。その赤い瞳とか凄く綺麗だし、顔だって彫りが深くてかっこ良いし、体もいいよね!」

「体……」


 なんだ?!なんだよ?!僕変なこと言ってない?カイルも真っ赤になって照れるんじゃなくて、大人ならサラッと流してくれよ。


「……カツキ的には、俺っていける?」


 いけるってなんだ?いけてるってことかな?


「うん、いける。いけてるよ」


 いけてるって、死語なんじゃないかな。お母さん、いや、おばあちゃんが言っていたような。


 カイルは目をカッと見開くと、いきなり抱きついてきた。


「カツキ!結婚してくれ!!」


 え?何事?!







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