39

 穴の中に入って影が見たものは銀色のカプセルの中でぐっすりと眠り続けているホラーの姿だった。影は眠っているホラーの姿を見て、一瞬、ホラーが死んでいるのではないかと思ってびっくりしたが、よく観察してみると、ホラーはきちんと呼吸をしていて、小さな寝息も立ててきた。

 ……よかった。影はほっとして胸を撫で下ろした。

 それから一度深呼吸をして気持ちを切り替える。寝ているホラーの体を揺すって、彼女を夢の世界から現実の世界へと引き戻す作業をした。

 ホラーはすぐに反応して、うっすらとまだ眠たそうな眼を開けた。

「……影? おはよう。もうお仕事の時間?」ホラーは言う。

「お帰りなさい、ホラー」呆れたような、ほっとしたような表情をしながら影が言った。

 ホラーはカプセルの中で体を起こして大きなあくびをした。それからそっと影を見つめる。

「……私、いけないことしたのに、ちゃんとここまで迎えに来てくれたんだ。影は優しいね」とホラーが言う。

「ホラーは別になんのいけないこともしてないよ」

 影はホラーに手を差し伸べる。

 その手をとって、ホラーはカプセルの中から抜け出して大地の上に移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る