37

 目をさますとホラーはいつの間にか銀色のカプセルを背もたれにして、大地の上に座り込んでいた。どうやらホラーはいつの間にかここで眠りに落ちていたようだ。

 周囲を見渡すと穴の中にひなの姿はなくなっていた。

 ひなちゃん。

 ホラーは心の中でひなの名前を呼んだ。でも、ひなの声はどこからも聞こえてこなかった。次の瞬間、ぶるっとホラーはその体を震わせた。ここは寒い。しかもホラーは白いパジャマという服装だった。

 ホラーはひなのお話を思い出した。

 雪山で遭難をする女の子の話だ。ホラーは今自分がその女の子と同じような境遇にあると思った。お話と違うのはホラーの年齢が女の子と呼ぶには少し高めなことと、それから不思議な生き物がホラーの近くにいないことだ。

 ホラーは体を起こしてカプセルの中を一応、確認してみた。

 カプセルは空っぽで、その中にひなはいなかった。

 ひなは再び、ホラーの前からその姿を消してしまったのだ。きっとひなはどこかで眠っているのだろうとホラーは思った。そしてホラーと同じように夢を見ているのだろうと思った。その夢が、さっき見たホラーの夢と同じように、とても幸せな夢であるようにとホラーは祈った。

 するとなぜかホラーの体の内側がほんの少しだけあったかくなったような気がした。ホラーはそこで思考を止めた。

 ホラーは大きな穴の中を見渡した。周囲は壁。天井は目には見えないくらいに高く、暗い闇が支配していた。明かりはところどころに光っている(珍しい)青色の水晶の光だけだった。

 足の裏がとても冷たかった。当然だ。ホラーは裸足だったのだから。(足の裏がとても痛かった)

「はぁー。まいったな」と、腰に両手を当てながらホラーは言った。

「でも恨んだりしないよ。ひなちゃん。だって、ここに来たのは、私の意志だったんだからね」

 ホラーはそう言うと、目をつぶり、大きく息を吸い込んで、そしてゆっくりと上を見上げてそれを全部、吐き出した。(白い息が見えた)

「夢は終わり」とホラーは言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る