　ホラーの意識はひなに手を引かれるようにして、ひなの楽園へと導かれた。

　それは穏やかな春の陽の中の夢だった。

　それは人間になったホラーと人間になった影とひなが、三人で一緒に手をつないで、緑色の大地の上をお散歩する夢だった。場所はきっと地上のどこかで、その夢の中では、ホラーも、影も、ひなも、笑顔だった。

　みんなが笑っていた。

　みんなが幸せだった。

　だからホラーも幸せだった。

　ずっと、この夢が続けばいいな、とホラーは思った。

　この夢が現実だったらいいのにな、とホラーは思った。

　でも、悲しいことにホラーはこの夢が自分の見ている夢であるということが、その夢が幸せであればあるほど、とても強く、はっきりと認識できるようになった。

　本当の私。現実のホラーは幸せではない。ホラーはこんなに笑ったりしない。

　ホラーはちっとも幸せじゃなかった。

　だからホラーが幸せであるということは、ここが夢の世界の中であるということの証拠になった。それは夢の中では赤い血を流すことができないということくらいに、ホラーにとってはとても確かなことだった。

　それでもホラーはこの幸せな夢を楽しんだ。

　幸せな夢を見るという経験自体とても新鮮だったし、なりよりホラー自身が本当に楽しかったということもあった。

　やがて、歩き疲れた三人は緑色の大地の上に座り込んで休息をする。

　するとひながくいくい、っとホラーの服を引っ張った。

　ホラーはそのときに初めて、自分が夢の中で白いワンピースを着ているということに気がついた。影とひなを見ると二人もホラーとお揃いの服を着ていた。透明な風が吹いて、三人の髪と服が優しく揺れた。

「ホラーさん」ひなが言う。

「なに？」ホラーが言う。

「私、欲しいものがあるんです」

「欲しいもの？　それってなに？」

「それです」

　と言って、ひなはホラーの座っている右手のあたりを指差した。するとさっきまでなにも持っていなかったはずのホラーの右手の中に硬い、金属質のなにかがあった。その冷たい手ごたえを感じて、ホラーは一瞬、ぎょっとした。

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