26
ことん、という音がした。
それは影が小さな砂時計を反対にして、テーブルの上に置いた音だった。
空色の砂の入った小さな砂時計。
影は息を吐き、呼吸を整えて、椅子の上で姿勢を正した。
そして、透明な思考の中で、自分のことを、ひなのことを、そしてベットから抜け出して迷子になったホラーのことを、考える。
……いったいなにがホラーを変えたのだろう?
あんなにこんがらがっていたホラーの糸が、今は一本の糸として、綺麗に解けている。影が何年もかけて、いろんな方法を試みて、努力して、どんなに解こうとしても解けなかった糸が、あまりにも綺麗に解けている。
どうしてだろう?
影は考える。
でも、わからない。
少なくとも、その糸を解いたのは影ではない。そんなことができるなら、とっくの昔に解いている。ホラーの糸は出会ったときから影でも解けないくらいにすでにこんがらがっており、その混乱具合は、年を重ねるごとに、複雑になっていった。
だから影は仕方なく、ホラーの糸を解くことを諦め、代わりに糸の端っこを自分の小指に結びつけることにした。ホラーはその影の行為を、とても好意的に受け取ってくれた。ホラーは影と同じように糸を自分の小指に結びつけた。なんでも影の真似をしたがるのが、ホラーの悪い癖だった。
……私は糸を解いていない。なら、この短い間に、ホラーの糸を解いたのはホラー自身ということになる。
でも、そんなこと可能なのか?
自分の糸の絡まりを自分自身で解く?
そんなことは、影にだって、いや、たぶん世界中のどんな人にだって、きっとできないことだった。
糸は常に自分ではない、誰かに解いてもらうものなのだ。
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