23
なにもかもを破壊したい。
この世界から消えて無くなりたい。
そんなことを子供のころにホラーはよく思っていた。いや、今もわりかし思っている、のかもしれない。
私はどうしたいんだろう?
ホラーの手に思わず少し、力がはいる。
「自分の小さな頭の中で、世界の全部を理解しようだなんておこがましいとは思いませんか?」
ホラーの手を握り返しながらひなが言う。
ホラーは返事をしない。
「もっと優しくなってください」
もっと優しく。
「そして、この不完全な世界のことを許してあげてください」
世界を許す。
「無理だよ」ホラーは言う。
「だって私は、世界のことが嫌いだもの」
自分のことが大っ嫌いだもの。
揺れ動くホラーの振り子は、大きく振れる。
なにかを掴み取った、と思った次の瞬間には消えてしまう思う。振動と、感動。そして喜び。それらは今度は真逆の力となってホラーを襲う。
その強大な揺り戻しに、ホラーは争うことができない。
ホラーの手は、小さく震えている。
手だけではなく、その足も、体もぶるぶると震えている。
寒い、とホラーは思う。
「ちょっとごめん」
そう言ってホラーは足を止める。
そして深い深呼吸をする。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
そんな風に数を数える。
ばらばらになってしまった私の心。
ばらばらになってしまった私の世界。
砕けてしまった鏡の破片。
もう二度と、元には戻らないもの。
私は私を失った。
私は世界を失った。
そんな私を救ってくれるのは誰?
ひなちゃん?
ホラーはひなを見る。
ひなは優しい顔で、少し下からホラーの顔を見上げている。
「行こうか」笑いながらホラーが言う。
「はい」と元気よくひなが答える。
手をつないで歩く二人はゆるやかな丘を降りて、だんだんと下へ、下へと向かっていく。
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