22

 根っこの街はとても広い。

 もしかしたらこのまま迷子になってしまうのではないか? と思う。

 宇宙の中に、ひとりぼっち。

 それもいいのかもしれない。

 ホラーの耳にきーん、という小さな耳鳴りが聞こえる。

 温度も幾分、冷たくなった気がする。

 ホラーの心に不安がよぎる。

 おかしいな。

 覚悟を決めたはずなのにな、とホラーは思う。

 ホラーの思いは揺れている。

 大きく揺れたぶんだけ、その反動も大きくなって返ってくる。

 やがてホラーは立ち止まる。

 知らない場所。

 行方不明。

 ホラーは世界の真ん中で立ち止まっている。

 ホラーはじっと目の前の暗闇を見つめている。

 そこから、ぺた、ぺた、という懐かしい足音が聞こえてくる。

 しばらくそのままじっとしていると、前方の暗闇の中から、ホラーのいる世界の中に、真っ白な小さな女の子が姿をあらわした。

 ひなちゃん。

 ひなはホラーを見てにっこりと微笑む。

 ホラーもひなの姿を見てにっこりと微笑んだ。

「こんばんは、ホラーさん」ひなが言う。

「うん。こんばんは。ひなちゃん」ホラーが言う。

 ひなは少し気まずそうな顔をして、もじもじしている。

「どうしたの?」ホラーが言う。

「……あの、『せっかく助けてもらったのに勝手にいなくなって』ごめんなさい」そう言ってひなは頭をちょこんと下げた。

「ホラーさん。私のこと、怒っていますか?」少し顔を上げて、上目遣いでひなが言う。

「ううん。怒ってないよ」(優しい顔をして)ホラーは言う。

 その言葉は嘘ではない。

「私、またひなちゃんに会えて、こうしてお話ができて、とても嬉しい」ホラーは言う。

 その言葉を聞いてひなは笑顔になり、ホラーに近づいて、ホラーの体にぎゅっと抱きついた。その冷たくて小さな体を、ホラーも優しく、包み込むように抱きしめる。

 二人はしばらくの間、そうやってじっとしていた。

 それからひなが体を離してホラーを見上げる。

 ひなの小さくて綺麗な顔がホラーの目の前にある。綺麗な青色の目はまるで宝石のようにきらきらと輝いている。

「私、とぎどき、自分でもどうしようもないくらいに、すごく眠たくなってしまうことがあるんです」

「眠たくなる?」

「はい。とっても眠たくなるんです」

「私もそういうことあるよ」ホラーが言う。

「私、眠ってしまうと、消えてしまんです」

「消える?」ホラーは言う。

「はい。消えてしまうんです。なにもかもがなくなってしまうんです」

 なくなる。

 それはとても羨ましい。

「それで私、さっきまでずっと眠ってしまっていたみたいなんです。今も実はまだ、意識がぼんやりとしているくらいなんです。でも、ホラーさんの匂いがしたから、あ、起きなくちゃって、思ったんです」

「……私の、匂い?」

 ホラーはくんくんと自分の体の匂いを嗅いでみる。

 なんの匂いも感じない。

 でも、なんとなくだけど、ひなの言いたいことはわかった。

「ひなちゃんは私を助けに来てくれたんだね」ホラーは言う。

「ええ。その通りです」ひなは笑顔で、とても嬉しそうにホラーの問いかけに答える。

 その笑顔にホラーは少しだけ救われたような気がした。

「お散歩に行きましょう。ホラーさん。私、ホラーさんと一緒にお散歩がしたいです」ひなが言う。

「うん。そうしよう」ホラーは言う。

 そうして二人は手をつなぎ、真っ暗な世界の中を仲良く並んで歩き始めた。

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