「ただいま」

 誰もいない家に帰るとホラーは言った。

「おかえり」

 影が言う。

 ろうそくに火を灯して家の中をほんの少しだけ明るくする。仕事道具のスコップを玄関にあるスコップ置き場に置く。背伸びをして冷蔵庫をあけて中に入っている水を飲んだ。相変わらず、すごく美味しい。(水が美味しいことは地下の唯一と言っていい自慢のできることだった)

「今度のお給料で新しいリボンが買いたい」

 大きな鏡の前で髪を解く。(鏡の中の自分の顔は無表情)

「ろうそく代は?」

「それくらいなんとかなるよ。……きっと」長い青色の髪を頭の上でまとめて、ベットまで移動する。

 ホラーの部屋には憧れのアイドルの大きなポスターが貼ってあった。そのポスターにそっとホラーはおやすみのキスをする。

 お風呂場で服を脱いで冷たい水のお風呂に入る。(小さい胸が少し気になる)

「気持ちいい。生き返る」窓の外は真っ暗でなにも見えない。(遠くて獣が鳴いている声だけが時折聞こえた。きっと、喧嘩でもしているのだろう)

 ホラーがお風呂にはいっている間に影が洗い物をしてくれている。お家での役割は当番制で今日は影が家事をやってくれる日だった。

「洗濯物ほかにある?」

「ない」

 元気な声で扉の外にいる影にホラーは言った。(白い陶器の湯船の中で、足を伸ばして、代わりに家事をやってもらって、まるで王様にでもなったような気分だった)

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