僕とタマチュー

豊丸晃生

僕とタマチュー

猫好きの僕がペット禁止のマンションで暮らすのは酷なことだ。今住んでいるマンションは理事会で規約が厳しくなり、小鳥やウサギさえ飼えなくなった。妻は犬派で、僕は猫派、どっちを飼うかで争っていたところだった。


結婚する前、実家で猫を飼っていた。そもそも猫を飼う理由がネズミ退治のためでもあった。毎晩、僕ら家族が寝静まると、天井裏でネズミの運動会が開催されていた。それにたまりかねた両親が、知人から生まれたばかりの仔猫をもらってきた。

黒猫だった。幼い頃の僕には黒い猫は、ちょっと不気味で怖かった。

それ以来、その仔猫が大人になって、子を産み、代々猫が飼われるようになった。

一代目がその黒猫のピロ、その娘が虎猫のミー、ミーの娘が白猫のチコ、チコの息子が白黒のタマチュー。タマチューは僕が命名した。タマじゃありふれた名前なので、チューをしたくなるくらいカワイイから、タマチューにした。家族もそう呼ぶようになった。


僕が社会人になったとき、会社になれなくて、悩んでいた。そんな時、タマチューは帰ってくると、真っ先に僕に飛びつき甘えてきた。僕はタマチューを抱きしめ、タマチューは僕の心を抱きしめてくれた。オスだけどボーイズラブくらい愛していたと思う。


その会社にも慣れてきて、忙しくなり、帰りも遅くなった。タマチューとはあまり遊んでやれなくなった。


そんなある日、タマチューがいなくなった。もしかして、家出? いや、ガールハントかな? なんて思いながら、僕は遅い晩ご飯を済ませ、眠りに着いた。


夢の中だった。タマチューが僕をじっと見つめて、僕の胸にうずくまると、両手で僕をぎゅっと抱きしめた。なんだか悲しい声で鳴いていた。鳴いて泣いて、なにかを僕に伝えたかったように思えた。


朝、タマチューが姿を消した。僕は会社から帰宅して近所を探し回った。遠くの公園まで行った。いつかきっと帰ってくるって、自分を何回も納得させた。けど、その日も次の日も、帰ってこなかった。猫はあの世に旅立つとき、飼い主から姿を消すんだよ。よく通う喫茶店のマスターがそう言ってた。


あれは、僕に別れを告げに来たのだろうか。あれから、もう何十年も経つのに、もう生きているはずもないのに、どこかにいるんじゃないかと、今でも白黒の猫を見つけるたびに、タマチューのことを思い出す。

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僕とタマチュー 豊丸晃生 @toyomaru7

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