猫の添い寝デリバリー

豊丸晃生

猫の添い寝デリバリー

眠れない夜が幾日も続き、僕は悩んでいた。『ソイネコ』に出会うまでは。


会社の同僚である西原も同じ悩みを抱えていた。が、最近は快適な朝を迎えているようだ。

西原が言うには『ソイネコ』を利用しているらしい。ソイネコとは添い寝をしてくれる猫のデリバリーサービスらしく、猫好きな僕には願ってもないサービスだ。睡眠不足が社会的に問題になっている昨今、そういう睡眠改善の需要が増えてきたようだ。僕は西原から連絡先を聞き、そのサービスを受けることにした。


就寝時間、予約していた定刻に玄関で猫の鳴き声がした。まさかと思いドアを開けると、白猫がおれを見上げていた。赤い首輪に少し大きめの鈴をぶら下げていた。これは見たことがある。小型の猫語翻訳機だ。猫が鳴くと、翻訳されてヒトの音声に変換される。

誰かが連れて来ると予想していたが、直接やって来るとは……。


「こんばんは。よろしくな」と猫の目線にしゃがんで挨拶すると、猫なで声で返事した。刹那、首輪につけてある猫語の翻訳機がしゃべった。

「ソイネコをご利用いただきありがとうございます。お客様に快適な睡眠をお約束いたします」

「こ、こちらこそ宜しくお願いします」なんか翻訳されると事務的で、ちょっと嫌だなぁ。ま、いっか。


僕はパジャマに着替えベッドに横になると、猫はベッドに飛び乗り横になった。ニャァァァウ「素敵な夢が見られるといいですね」そう言って添い寝してくれた。なんとも愛くるしいではないか。ああ、抱きしめたい。なんて考えていると、猫の瞳がキラリと光った。すると、僕の意識は猫の瞳の中に吸い込まれていった……。



そこは花畑の中だった。見たこともない美しい花々がそよ風に揺れて煌めいていた。


あの猫が向こうのほうで、招き猫みたく手招きしている。猫の傍には花に囲まれたベッドがあった。

ふわふわしてて心地よさそうだ。ソイネコはベッドの上にトンと飛び乗ると、気持ちよさげに仰向けになって空を見上げた。僕もベッドに転がり空を見上げた。優しい風が頬をなでる。流れる雲、小川のせせらぎ、小鳥のさえずり……。



朝、窓から差し込む心地よい朝日が、僕を目覚めさせた。

ソイネコは少し開けておいた窓から帰ったようだ。


枕元に置いていたスタンプカードに肉球のハンコが一つ押されていた。

次もあの子を指名しよう。



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