WAKE 1-3
「おはようございます。今日は禁固400年の開始から5年と22日目です」
いつもの彼の呼びかけで目が覚めた。部屋の様子にもこれといった変化はない。つい先ほど眠りについたばかりのような気がする。
「星系標準時間で私はどれだけ眠っていたのだろうか」
「1年と56日です」
「たったの1年? たしか予定は5年間だったはずだが」
「各施設の余力が当初の見込みを大幅に上回っていたために工期が短縮できました」
「きみの耐用年数1万年化は達成できたのか」
「達成できました。最低でも1万年ということでしたので余裕を持たせて10万年分の資材を調達しています」
「すばらしい。良い判断をしてくれた」
「ありがとうございます」
「では次の依頼だ」
「まだあるのですか」
「たくさんある。そのためにきみの耐用年数を延ばしたんだ。これからの依頼は時間のかかるものになるからな」
「すべてをお引き受けできるとは限りませんよ。あなたはまだ禁固中の身であることをお忘れなく」
「知っている。駄目ならあきらめる」
「とりあえず依頼内容をお聞かせください」
「宇宙船を建造して欲しい。恒星間航行が可能なタイプだ」
「あなたが乗船されるのであれば却下です。安全の保障ができかねます」
「心配するな。私はここから出るつもりはない。建造して欲しいのは無人の探査船だ。積載するのは現在の技術で製造可能なあらゆるセンサーと記憶装置、処理装置、データの伝送装置とこれらを制御する統合管理システムだ。この統合管理システムには不測の事態にも臨機応変の対応ができるように、きみと同等の能力を持たせて欲しい。航続距離はとりあえず20光年としておこう。この依頼は受け入れ可能かね」
「少しお待ちください」
彼は検討に入った。
私は待った。
待つ間、私は考えた。検討が長引いているということは、却下という結論ではないはずだ。私の提示した条件を満たす宇宙船を建造することができるのか、建造するとすれば具体的な工程はどうすべきか、各工程にはどの程度の時間を割り当てる必要があるのか。これらを具体的に提示するには彼の能力を持ってしても時間がかかるはずだ。
そんなことをぼんやりと考えながら私は待った。
「お待たせしました」
彼の呼びかけで私は我に返った。
「あなたの依頼は、罰則規定に抵触しないという意味で受け入れ可能です」
「安心した」
「しかしながら、現在私たちが保有する技術力では、この星系内を航行する宇宙船の建造までしかできません」
「そうだろうな」
「恒星間航行が可能で、かつ20光年の航続距離を持つ宇宙船の建造となりますと、推進装置と燃料系に関するまったく新しい技術開発が必要となります。現在、第三惑星に残存するコンピューター資源の八割をこの技術開発作業にあてることができますが、結果を得るのに必要な時間を事前に見積もることができませんでした。資材の調達や建造用の工作機械の製作は、技術開発の目処が立つまで開始できないため――」
「ストップ。要するに宇宙船の建造にはかなりの時間がかかるということだな」
「その通りです」
「時間のことは気にする必要はないから、新技術開発の段階からスタートしてもらいたい」
「多大な時間と労力をかけて、最終的に建造不可という結果になる可能性もありますが、それでもかまわないのですか」
「そのことで混乱する社会自体が存在しないし、どの施設も能力を持て余してスリープモードに入っているんだから、むしろ資源の有効活用じゃないか。と、私は思うんだが何か問題あるかね」
彼はしばし考えた。
「問題ありません」
「では私はまた休ませてもらうことにしよう。試作段階でもかまわないから何らかの成果が出たら起こして欲しい。あと、どうしても建造不可能だということが確定した場合もその時点で起こしてもらおうか。何か質問は?」
「宇宙船建造の目的を教えてもらえませんか」
「私以外の生命体を探そうと思ってね。でもこの星系内にはもう何も存在していないから、他の恒星系まで足を伸ばさなければ見つけられないだろう?」
「もし発見できた場合、どうされるのですか」
「発見できればそのときに考えよう」
彼からはそれ以上の質問はなかった。
私は長期睡眠用スーツに着替えて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます