WAKE 1-2

「おはようございます。今日は禁固400年の開始から5年と21日目です」


 覚醒シグナルで目を覚ました私に、彼はいつもと変わらない声で、今日という日を正確に伝えてくれた。

「質問、いいかね」

「なんなりと」

「超新星の爆発でこの惑星のすべての生命体が消滅したというのは現実なのか? それとも私がみた夢なのか?」

「現実です」

 そうか、やはりあれは本当に起こったことだったのだ。

 もう何もないのか。

 なぜか昨日よりも重く深い喪失感が襲ってくる。

 私は全身にぎゅっと力を行き渡らせて感情の波が去るのを待った。そして現実をゆっくりと受け入れた。

 感情の波が収まるにつれて、眠りに入る前に考えた今後の計画が思い出されてきた。

 そうだった。唯一の生存者となった私が、今後為すべき事は何なのかを真剣に考えて計画を立てたではないか。

 残された時間は395年しかないのだ。急がなくてはならない。感傷にひたっている余裕などないぞ。

「次の質問、いいかね」

「なんなりと」

「たとえば私が今からの395年間を、完全に意識のない休眠状態で過ごした場合、次に目を覚ましたときには400年間の禁固期間は終了ということになるのだろうか」

「なりません。なぜなら眠っている間にあなたは孤独を感じることができないからです。睡眠中の意識のない期間、あるいは覚醒時であってもこうして私とやりとりをしている期間は孤独を感じていないものとみなして、400年間の積算からは除外します」

「こうしてきみとのやり取りをしている最中でも孤独感に襲われることはあるし、逆に一人で黙り込んでいるからといって孤独を味わっているとは限らないのだが」

「そういうルールなのです」

「そうか。ルールなら仕方がないな」

「ご理解いただきありがとうございます」

「そのルールを厳密に適用すると、きみという客観的観察者から見た禁固期間は400年間よりもかなり長くなるということにならないか」

「お目覚めのタイミングで私がお伝えしている経過時間は、あなたが孤独を感じていたとみなされる主観的時間の積算値です。ちなみに、これまでに星系標準時間では約26年が経過しています」

 ではそのルールを活用させてもらうことにしよう。

「次の質問。きみの耐用年数はあとどのくらいあるのか」

「メンテナンスを適切に行えば約1000年とされています」

「では、現在のメンテナンス環境を改善して、きみの耐用年数を1000年からさらに延長することは可能だろうか」

 回答までに少しの間があった。

「可能です。この惑星上に残存している各種施設には私のメンテナンスを行うには十分すぎる余力があります」

「ではその余力を使って、きみの耐用年数を最低でも1万年とするようにメンテナンス体制を再構築してほしいんだ」

「1万年? 私の耐用年数をですか」

「そう、きみのだ」

「しばらくお待ちください」

 再び彼は黙り込んだ。

 ここからが私の孤独タイムとみなされるわけだ。

 私はしばしの孤独を堪能した。


「お待たせしました。私の耐用年数延長によって、あなたに課せられた罰則に影響を与えることはないと判断しましたので依頼を受けつけます」

「ありがとう。ちなみにメンテナンス体制の再構築にはどれだけの時間がかかるだろうか」

「交換用パーツの製造ライン設置に2年、1万年分の資材の調達と備蓄に5年、エネルギー転換システムの設定変更に1年を要します。これらの作業は並行して進めることが可能ですから、新たなメンテナンス体制が整うのは5年後となります」

「了解した。では私は今から眠る」

「もうお休みになるのですか」

「残り時間を無駄に消費したくないのでね。ではきみのメンテナンス体制の再構築が完了したら起こしてくれ。睡眠モードはレベル3で頼む。夢を見ないやつだ」

「睡眠中の5年間は孤独積算の対象となりませんがかまいませんか」

 それが狙いなのである。

 私は、「問題なし」と返し、長期睡眠用のスーツに着替えた。

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