第31話 5人集まれば星になる

 1年生デビューライブが遂に始まる。僕らは灯りの付いていないステージを、モニター越しに見守っていた。


 1年生デビューライブは、学園の生徒だけでなく、一般のお客さんや業界関係者も集まる一大イベントだ。


 通常のライブとの大きな違いは、ユニットごとに順位が付くこと。ライブ終了後に観客はオンラインで投票を行ない、その場で順位が発表される。まさに、1年生ユニットの頂点を決める闘いと言える。


 1年生ユニットの中でも、特にレベルが高いと言われているのが、僕らの対戦相手である『夢魔インキュバス』だ。既にアイドル活動をしている氷室ひむろが在籍していることも影響している。


 その他には、メンバー全員が楽器を演奏できるバンド系アイドルユニット『空色パレット』も注目されている。青春ど真ん中の瑞々しいラブソングを歌う『空色パレット』は、女性のみならず男性からも人気があった。


 そして根強いファンを獲得しているのが、お笑いアイドルユニットの『奇笑天傑きしょうてんけつ』だ。彼らのパフォーマンスは、まるでお笑いライブを観ているかのような面白さがある。アイドルソングらしからぬ、ネタに走った曲を歌うことも特徴だ。


 1年生とはいえ、個性豊かなユニットが揃っている。頂点に立つためには、その中で勝ち抜かなければならない。プレッシャーは計り知れなかった。


 モニターを眺めていると、ステージの灯りが付き、最初のユニットが登場した。


 トップバッターは『夢魔』だ。メンバーがステージに登場した瞬間、黄色い歓声が沸いた。


(出たな……。氷室……)


【氷室壮馬 ライブVer】

 露出度の高い衣装に、黒いチョーカー。頭には悪魔を思わせる二本のツノが生えていた。色気を感じさせる衣装は、なまめかしくて直視しがたい。


 印象的なのは衣装だけではない。曲はロックバンドを思わせるような激しいイントロからスタートした。モニター越しでも会場の熱狂が伝わってくる。


 ステージに注目すると、氷室が歌い始めた。


「♪~今夜は君を抱いて眠りたい」


 色気のある低音ボイスに惹きつけられる。誘われて、惑わされて、淫靡な夢でも見ているようだ。


「レベル高いね」


 夏輝なつきくんが真剣な眼差しでモニターを見つめながら言う。僕も素直に同意した。


「ですね。歌唱力も高いですし、ダンスも勢いがあります」

「それにユニットのカラーが出てるね」


 夏輝くんの言う通りだ。『夢魔』の持つ、耽美で背徳的な雰囲気が伝わってくる。他のユニットには埋もれない、唯一無二の存在だ。


「勝てますかね?」


 つい弱気な質問をしてしまう。夏輝くんはこちらに視線を向けると、以前と同じような勝気な笑みを浮かべた。


「勝つよ、絶対」


 ばくんと心臓が跳ねる。僕はぎゅーっと目を閉じながら俯いた。


(なんでそんなにカッコいいんだよ~!)


~☆~☆~


『夢魔』のパフォーマンスが終わった後も、次々と1年生ユニットが登場する。どのユニットもレベルが高く、圧倒されっぱなしだった。


『カンパネルラ』の出番も刻一刻と近付いてくる。緊張を少しでも和らげるように深呼吸していると、海斗かいとくんからお呼びがかかる。


「夏輝、詩音、そろそろスタンバイするぞ」

「は、はい!」


 僕は椅子から勢いよく立ち上がり、楽屋を飛び出した。


 舞台袖からステージを眺める。ステージでは『空色パレット』が会場を沸かしていた。テクニカルなギターの音色と、腹に響くようなドラムの音に圧倒されて、心臓が縮こまる。澄んだ青空のような歌声も、いまは脅威に感じた。


 ガチガチに緊張していると、夏輝くんに声をかけられる。


「いよいよだね」

「がん、ばりましょうね」

「うん……。あ、そうだ! いいこと思いついた!」


 夏輝くんはパッと目を輝かせると、みんなを招集する。


「みんなこっち来て! 早く、早く」


 夏輝くんの呼びかけに応じてみんなが集まってくる。


「どうした、夏輝」

「んだよ、本番前に」

「あっはっは! 円陣でも組む気か?」

「ひっちー、鋭い! けど、円陣とはちょっと違うんだなぁ」


 にっこり笑った夏輝くんは、右手でピースを作って前に差し出す。


「ほら、みんなピースを作って前に出して」

「何をしようってんだ?」

「いいから、いいから。ほら、みんなで円になって」


 夏輝くんに促されるまま、円になってピースを作った手を差し出す。すると、夏輝くんはみんなのピースサインをくっつけた。


「ほら見て。5人集まると星ができる」


 夏輝くんの言葉でハッと気が付く。5人が円になってピースサインを作ると、☆の形が出来上がった。同時にゲーム内での記憶を思い出す。


(原作では、4人でピースを作ってキラキラマークみたいだねって言うシーンだ)


 4人組のユニットに僕が加わったことで、キラキラマークから星に変わった。その変化に気付いて心が震えた。


 他のメンバーも顔を見合わせて笑う。和やかな雰囲気が流れた後、海斗くんが激励を送った。


「よしっ! みんなで最高のパフォーマンスをするぞ!」

「「「「おー!」」」」


 息を揃えて、掛け声を上げる。みんなの心がひとつになった。


 いよいよだ。


『カンパネルラ』の初ライブが、いま始まろうとしている――。

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