第22話 推しと歌うなんて最高過ぎかっ
『
僕は現在のステータスを確認する。
【
高校1年生
アイドルランク ノーマル
ダンス 20
歌 43
演技 22
スキル スタートレイン
2週間前はダンス、演技が10前後だったところを20まで引き上げた。他のメンバーも似たような上がり方で、得意分野を伸ばしつつ他の項目もバランスよく上げていた。
そんな中、モチベーションをアップさせるビックニュースが飛び込んできた。レッスンを終えてリビングでまったりしていると、楽譜を持った
「カンパネルラのオリジナル曲が完成したぞ!」
その知らせで、みんなの表情がパアアアっと明るくなった。
「おお! ようやくできたのか!」
「ずっと楽しみにしてたんだぁ! 見せて見せて~」
「あっはっは! 待ちくたびれたぞ!」
セドリック先生に依頼していた楽譜が完成したようだ。推し達の持ち曲が生まれる瞬間に立ち会えたなんて感激だ。楽譜を受け取ってタイトルを確認した途端、歓喜のあまりその場で叫びそうになった。
(『輝く星に憧れて』だって!? これはまさに
『カンパネルラ』の持ち曲のひとつで、前世では何百回と聞きこんでいた曲だ。
明るく爽やかなメロディーラインは、聞いているだけで元気がもらえる。初めて聴いた時から良い曲だなぁと思っていたけど、夏輝くんのキャラストをプレイしてからは余計に好きになった。
この曲は、夏輝くんの過去と見事にリンクしているのだ。キャラストをクリアした後に曲を聴いた途端、感情が昂って涙が止まらなくなったのを覚えている。
『カンパネルラ』の持ち曲の中でも、トップに君臨するほど好きな曲だった。
楽譜ができただけなのに、感極まって泣きそうになる。なんとか泣くのは堪えながら、楽譜を眺める。五線譜と歌詞を目で追いながら、メロディーを口ずさんだ。
「♪~傷ついて眠れない夜は、闇夜に紛れて消えてしまいたくなる」
ワンフレーズを口ずさんだ瞬間、みんなからギョッとした表情を向けられた。
「しおりん、初見で歌えるの? すごくない?」
夏輝くんに指摘されたところで、自分がおかしな行動を取ったことに気付く。初めて楽譜を手にした段階でスラスラと歌い出したら不自然だ。僕は何百回と聞きこんでいる曲だけど、みんなからしたら初見なのだから。
「あー、えっと……。音階と歌詞を見ながら何となく、ですかね~。あはははは……」
「それって才能だね! さっすがしおりん」
夏輝くんから賞賛される。才能ということで片付けてもらえたのは有り難かった。
それから
「この曲、出だしが暗すぎねーか? 傷ついて眠れない夜って、本当にアイドルソングか?」
「出だしは暗いですが、Bメロからサビにかけて明るくなっていきますよ。傷ついた少年が夢を見つけて輝こうとする応援歌なので!」
「お、おう……。随分熱が入ってるんだな」
マズイ。想いが溢れてつい熱弁してしまった。瑛士くんは、ちょっと引いている。
「……って、いま歌詞を見た限り、そんな感じがしました」
ふわっと誤魔化してその場を収めようとする。幸い瑛士くんはそれ以上突っ込んで来なかった。
「まずは各々音源を聴こうぜ。その後、パート分けをしよう」
海斗くんがみんなのスマホに音源データを送ると、それぞれイヤホンをして音源を聞き始めた。音源データを聞きながら僕は考える。
(原曲だと4人で歌っていたけど、5人になったらどう割り振るんだろう?)
何度も聞きこんでいるから、どのパートを誰が歌っているかは頭に入っている。原曲は4人で完成しているのだから、僕が入り込む隙なんてない。
しばらく自主練の時間を設けた後、海斗くんがみんなを招集する。
「そろそろパート分けをしよう。みんな歌いたいところはあるか?」
各々楽譜と睨めっこをしていると、夏輝くんが真っ先に手を挙げる。
「はいはーい! 俺、サビ歌いたい! 『輝く星に憧れて~』ってとこ」
やっぱりだ。原曲でもサビの入りは夏輝くんが歌っていた。そこは変わらないらしい。
うんうん、それでいいんだ、と納得している隙に、他のパートもどんどん決まっていく。完全に出遅れた。
「詩音! お前はどこを歌いたいんだ?」
自分で歌いたいパートを選ぶのは複雑だ。僕は歌いたいパートを主張すれば、みんなの見せ場を奪ってしまう。
「僕はコーラスで大丈夫です」
主旋律はみんなに任せて裏方に徹しようとしたものの、瑛士くんから「はあ?」と睨まれた。
「一番歌上手い奴が何言ってんだ? コーラスでいいなんて認めねえからな」
「そうだよ、しおりん。ちゃんと主旋律も歌って」
夏輝くんからもお願いされる。推しからのお願いなら無下にはできない。
僕はもう一度楽譜に視線を落とした。
「それじゃあ、サビ前のBメロがいいです。『見上げれば星が煌めいていて~』ってとこで」
「よし、じゃあ夢野はBメロな」
原曲では瑛士くんのパートだった。奪うような形になってしまって申し訳ない。
Bメロを割り振られて終わりと思いきや、夏輝くんがとんでもないことを言い出した。
「しおりん、歌上手いんだし、ラストのサビはしおりんのソロにするのはどう?」
「はい?」
突拍子のない発言に、僕は間の抜けた声を上げる。
原曲ではラストのサビは夏輝くんのソロだ。一番盛り上がるタイミングで、歌詞とリンクする過去を持つ夏輝くんが歌う究極にエモいシチュエーションだ。それを奪うわけにはいかない。
「ラストのサビは、夏輝くんが歌うべきです」
「俺はしおりんに歌ってもらいたい」
「ダメです。いくら夏輝くんの頼みでもそこは譲れません」
「えー、俺も譲りたくない」
バチバチとせめぎ合いが始まる。僕が拒否すれば引いてくれると思いきや、夏輝くんはなかなか引き下がってくれない。
これでは埒が明かないと感じたのか、海斗くんが打開策を提案した。
「それじゃあ、ラスサビの前半は詩音が歌って、後半は夏輝にバトンタッチするのはどうだ?」
海斗くんの意見を聞いて、想像を膨らませる。
(恐れ多いけど、めちゃくちゃいい!)
「うん、それならいいよ!」
夏輝くんも納得してくれた。
パート分けが終わったところで、音源に合わせながら軽く歌ってみることになった。
(推しの歌が聴けるぞ!)
僕はワクワクしながら曲が始まるのを待った。
スマホのスピーカーからイントロが流れる。歌い出しは瑛士くんからだった。
「♪~傷ついて眠れない夜は、闇夜に紛れて消えてしまいたくなる」
そこから聖くん、海斗くんへと繫いでいく。Bメロに差し掛かり、僕も歌い出す。
「♪~見上げれば星が煌めいていて、いまならあの場所に行けそうな気がした」
歌い終わったタイミングで、夏輝くんに視線を送る。その瞬間、空気が変わった。
少年らしい高い声でメロディーラインをなぞる。真っすぐで、それでいて繊細で、まるで彼の心を表わしているような歌声だった。
彼はいま、輝いている。
頬に涙が伝う。無意識だった。僕はいま、推しの眩しさに心を打たれている。
僕が突然泣き始めたことで、歌が中断された。
「しおりん、どうしたの?」
「なんだ急に? 具合でも悪いのか?」
「いえ……その、なんでも」
突然泣き始めた僕を見て、みんなが慌てふためく。推しへの愛が溢れ返って泣いたなんて知られたらドン引きされるに決まっている。なんとか誤魔化しながら涙を止めようと努めた。
みんなの気を逸らすため、僕は話題を変える。
「そんなことより、夏輝くん、歌が上達しましたね」
夏輝くんの歌は、初めて聴いた時とは比べ物にならないほどに上達していた。発声の仕方から違う。芯のある真っすぐな歌声だった。
「本当に? しおりんに褒められると嬉しいなぁ」
夏輝くんは無邪気に笑う。相変わらず可愛い。微笑ましく思いながら、夏輝くんのステータスを確認した。
【
高校1年生
アイドルランク ノーマル
ダンス 26
歌 27
演技 39
スキル ハイパワーサンシャイン
初めて会った時は、歌のステータスが7だったけど、いまは27まで上昇していた。
(ちゃんと成長しているんだ)
レッスンの成果が現れていることが分かって嬉しくなった。
いまはまだ、確実に『夢魔』に勝てるラインには達していない。だけど地道にレッスンを続けていけば、勝てるような気がした。
(絶対に負けたくない。みんなで勝ちたい)
夏輝くんの成長を目の当たりにしたことで、改めて負けたくないという気持ちが強くなった。
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