第21話 サボタージュ
『愛してるよ、マイ・スイート・エンジェル』
『
『フフフッ。可愛い反応だね。ほら、こっちも見せてごらん』
『やっ……助けて、
『無駄だよ。夢の中では
「いやああああああ」
僕はベッドから飛び起きる。浅い呼吸を繰り返しながら周囲を見渡すと、いつも通りの景色が広がっていた。隣に氷室の姿はない。そのことに心の底から安堵した。
とんでもない夢を見てしまった。まだ心臓がバクバクいっている。
胸を押さえていると、二段ベッドの上の段から夏輝くんが顔を覗かせた。
「しおりん、大丈夫!?」
夏輝くんの顔を見て、ようやく落ち着きを取り戻す。
「大丈夫です。恐ろしい夢を見ただけなので」
「恐ろしい夢?」
「口にするのも恐ろしい夢です」
「それは、それは、ご愁傷様」
「それより、起こしてしまってごめんなさい」
「いいよ、もう朝だし」
窓の外を見ると、すっかり朝になっていた。小さく溜息をついてから、僕はベッドから降りた。
~☆~☆~
昼食を済ませた後、いつも通り午後のレッスンを受ける。この日選んだのは演技のレッスンだ。
発声練習や滑舌練習など基礎トレーニングを終えた後、台本なしの即興劇を行なうことになった。お題は「一人の女を取り合う男達のバトル」。じゃんけんの結果、僕が女役を演じることになったのだけど……。
開始早々、瑛士くんと聖くんが即興劇をそっちのけでプロレスを始めてしまった。完全におふざけモードに入っている。
(ダメだ。遊んじゃってる。これじゃあラビットグロウスも発動しないだろうな)
大きく溜息をついた時、不意にちょんちょんと背中を突かれる。振り返ると、夏輝くんが片膝をついて手を差し伸べていた。
夏輝(??)「シオリーヌ、いまのうちに僕と逃げましょう」
詩音(女役)「あ、あなたは?」
夏輝(??)「隣国の魔法使いです。貴方にずっと恋焦がれていました」
にこっと王子様スマイルを向けられる。こんなのは男でもきゅんとしてしまう。僕は迷わず魔法使いの手を取った。
詩音(女役)「私、あなたに付いて行きます」
夏輝(魔法使い役)「僕を選んでくれてありがとう。さあ行こう。魔法の国へ」
第三の男が現れて即興劇もフィナーレを迎えようとしたところ、余計な邪魔が入った。
??「そこまでだ! インチキ魔法使い! マイ・スウィート・エンジェルは僕のものだ」
夏輝くんの前に立ちはだかったのは氷室だ。思わぬ人物が乱入したことで、即興劇は一時中断となる。
夏輝くんは口元をへの字にして呆れた表情を浮かべた。
「ひむろん、勝手に劇に入って来ないでくれるかな?」
「エンジェルが奪われそうになったんだ。助けに入るのは当然だろう」
「大体ひむろん、歌のレッスンを受けてたんじゃないの?」
夏輝くんから指摘されるも、氷室は悪びれる様子もなくサッと髪をかきあげる。無駄に色気を振りまいているのが腹立たしい。
「エンジェルの姿を一目拝みたくて、レッスンを抜け出して来たのさ」
「うわぁ……」
ドン引きする夏輝くん。その隣で僕も全く同じ反応をしていた。
氷室の行動は気持ち悪いが、こちら側としては都合がいいのも事実だったりする。実は氷室には、重大な欠点がある。それは氷室の持つスキルが影響していた。
【サボタージュ】
20%の確率でレッスンをサボり、経験値を獲得しないままレッスンを終える。
要するにサボり癖があるのだ。
現時点では『カンパネルラ』のメンバーと氷室とのステータスは大きく差が開いているが、サボタージュが発動すれば差は縮まっていく。出来ることならバンバン発動してもらいたい。
スキルが上手く発動してくれことに密かにほくそ笑んでいると、教室のドアが勢いよく開いた。
「いた! 氷室!」
『
黒髪短髪でやや地味な顔立ちだが、目元のハート型の泣きぼくろが特徴的。絶妙な色気を醸し出していた。
翼くんは、氷室の首根っこを掴んで、ズルズルと引きずる。
「お前はまたサボって! レッスンに戻るぞ!」
「翼、待てくれ! まだエンジェルと触れ合ってな」
「黙れ、変態!」
強制退場させられる氷室。僕は心の中で「グッジョブ、翼くん」と賞賛していた。
ちなみに氷室がサボると一緒にレッスンを受けていたメンバーの一人も経験値が獲得できない仕様になっている。
きっと翼くんも、今日のレッスンでは経験値0だろう。道連れになったのは可哀そうだけど、そういう仕様なのだから仕方ない。
氷室がいなくなったところで演技のレッスンを再開する。しかしイマイチ集中できなかったこともあり、ラビットグロウスは発動しなかった。思うように経験値が得られずガッカリする。
(明日こそは、みんなが真面目にレッスンを受けてくれますように!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます