第19話 作戦会議

 スタトレ本編の序盤でもっとも盛り上がるイベントは、1年生デビューライブだ。1年生ユニットが集結してパフォーマンスを競い合うイベントで、いわばデビュー戦といえる。


 ゲームでは、シナリオを進める前にみっちり育成し、本番はリズムゲーム形式でライブを盛り上げていく。ステータスとリズムゲームの結果が影響して勝敗が決まってく仕様だ。


 ちなみに、ステータスを上げずに勝負に挑んだら普通に負ける。簡単には勝利できないことから、プレイヤーの間では「序盤の難所」と呼ばれていた。


 そんな1年生デビューライブが、現実でも起ころうとしている。氷室ひむろのステータスを見る限り、簡単には勝たせてもらえないだろう。


~☆~☆~


 昼休み。『カンパネルラ』のメンバーは、学食に集まって作戦会議を立てていた。いつもは賑やかな彼らも、この時ばかりは神妙な顔をしている。


夢魔インキュバスと勝負をすることになったけど、ぶっちゃけ勝てると思う?」


 腕組みをしながら話を切り出す海斗かいとくん。しんと静まり返った中、瑛士えいじくんが最初に口を開いた。


「勝てる……って言いたいところだけど、現実問題厳しいんじゃねーか? なんたって氷室はすでにアイドルとして活躍してるんだし」


 そう、氷室は星架せいか学園に入る前からアイドルとして活動していた。人気アイドルグループのバックダンサー&コーラスとしてステージに立っていた経験がある。だからこそ、氷室の初期値は高く設定されていた。


 ちなみに他の夢魔のメンバーも氷室ほどではないにしろ、ステータスが高い状態でイベントに登場してくる。10~20のステータスをうろうろしている状態では、勝ち目はなかった。


 実力差があることは、みんなも理解している。そんな中、言い出しっぺの夏輝なつきくんが声を上げた。


「簡単には勝てないことは分かってる。だけど絶対に勝ちたい。しおりんがカンパネルラに必要な存在だって証明したいから」


「夏輝くん……」


 僕のことをそこまで思ってくれるなんて……感激だ。その一方で、海斗くんは頭を掻きながら苦い表情を浮かべていた。


「そりゃあ、勝ちたいのは分かるけど、圧倒的にレベルが違うからなぁ」


 すると、それまで静観していたひじりくんが会話に加わった。


「ならばレベルアップするしかないな!」


 一斉に聖くんに注目する。聖くんは迷いない瞳で方針を語った。


「俺達は現時点ではダンスも歌も演技も、夢魔には敵わない。だけどそれは現時点での話だ。ここから地道にレッスンを受けて、成長すれば勝てる可能性はある」


 聖くんの意見はもっともだ。ゲームでも地道に周回して、経験値を上げていけば勝てる。現実でも地道に努力するしか道はないということだ。


 聖くんの言葉で、他のメンバーにも火が点く。


「聖の言う通りだな。結局のところ練習あるのみってことだよな」

「たっく……。暑苦しいこと言うよな、お前は」

「うんうん! みんなでレッスン受けてレベルアップしようね」


 重苦しかった空気が和らいでいく。みんなの表情に笑顔が戻った。

 夏輝くんは僕の顔を覗き込みながら、キラキラと微笑む。


「頑張ろうね、しおりん」


 そうだ。僕はいま、彼らの仲間としてこの場にいるんだ。強敵だからと足踏みしている場合じゃない。彼らと同じ方向に走らなければ。


「はい! 頑張ります!」


 力強く頷くと、みんなの表情に安堵が滲んだ。

 それから『カンパネルラ』の面々は具体的な方針を決めていく。


「1年生デビューライブに向けて、カンパネルラの持ち曲が必要だよな。セドリック先生に楽譜を依頼してみるか」


「新曲ができたらダンスの振り付けも決めねーとな。ダンスレッスン担当のレイカ先生に相談してみっか」


「本番までに衣装も揃えないとだよね! たしか舞台衣装は経堂きょうどう先生が詳しかったはず!」


「あっはっは! 本番までにやることがいっぱいだな!」


 楽譜、振り付け、衣装。どれも本番までに準備をしないことだ。その辺は彼らに任せておくとして、僕は僕にできることをやろう。


 あらためて、みんなのステータスを確認する。


夢野ゆめの詩音しおん

高校1年生

アイドルランク ノーマル

ダンス 12

歌 27

演技 10

スキル スタートレイン



涼風すずかぜ夏輝なつき

高校1年生

アイドルランク ノーマル

ダンス 18

歌 11

演技 27

スキル ハイパワーサンシャイン



水瀬みなせ海斗かいと

高校1年生

アイドルランク ノーマル

ダンス 15

歌 23

演技 16

スキル ハイパーアシスト



神宮寺じんぐうじ瑛士えいじ

高校1年生

アイドルランク ノーマル

ダンス 18

歌 16

演技 15

スキル ビッグバン



矢神やがみひじり

高校1年生

アイドルランク ノーマル

ダンス 21

歌 15

演技 16

スキル ラピッドグロウス


 得意分野は20オーバーしているものの、全体的なステータスはまだ低い。とくに僕はユニット内でも圧倒的に低かった。


 同時に、今朝確認した氷室のステータスも思い出す。


氷室ひむろ壮馬そうま

高校1年生

アイドルランク ノーマル

ダンス 45

歌 38

演技 27

スキル サボタージュ


『夢魔』に勝つためには、各ステータスを40以上には上昇させたい。これは相当周回しなければ達成できない数値だ。


 ゲーム内ではじっくり時間をかけて周回することも可能だけど、現実はそうもいかない。1年生デビューライブは約1カ月後に迫っているからだ。


 のんびりしている時間はない。本番までに効率よく鍛えなければ。


(これはしっかり育成計画を立てる必要があるな)


 盛り上がる『カンパネルラ』の面々を見守りながら、僕は静かに闘志を燃やしていた。

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